アラーキーの写真人生「東京慕情 荒木経惟×ギメ東洋美術館」
フランス国立ギメ東洋美術館で発表された荒木経惟の新作『東京墓情』に香り立つ、自身の写真人生、そして死──。日本初公開となる『東京墓情』と、荒木が選んだ同美術館所蔵の幕末・明治期の写真が、シャネル・ネクサス・ホールで花開く。
フランス国立ギメ東洋美術館のコレクションより、金幣写真館(日下部金兵衛)『ツバキ』(1880-90年代)鶏卵紙に手彩色 © MNAAG.
作品に立ち現れる黄泉の国
そんな荒木経惟が今、一つの大きな転機を迎えていることは、次の発言にも明らかだろう。
「アタシはもう、棺桶に片足を突っ込んでいるの。あの世で自分が撮る写真がどのようなものになるのか、探ろうとしているわけなの」
海外でも絶大な人気を誇る荒木は、昨年、パリに所在するフランス国立ギメ東洋美術館で『ARAKI』展を開催した。アジア美術専門の美術館としてヨーロッパ最大規模を誇る同館が企画した大規模個展で、50年間の作家活動を振り返るレトロスペクティブとともに発表されたのが『東京墓情』だ。荒木が自身の写真家人生を振り返って制作したこのシリーズは、撮り下ろし作品と過去の作品によって構成されているが、プリントは絵巻物に倣って横並びに展示された。「棺桶に片足を〜」という言葉は、この『東京墓情』の展示に掲示されていた発言だ。
フランス国立ギメ東洋美術館のコレクションより、ライムント・フォン・シュティルフリート『刺青をした別当』(1877- 80 年)鶏卵紙に手彩色 © MNAAG.
写真に写るのは、解体された異形の人形や退廃的なエロティシズムが充満する緊縛ヌード、不穏な空、亡き妻・陽子や愛猫チロ……そして生涯を通して撮り続けてきた街、東京。まるで、黄泉の国が現代に現出したかのような写真世界が連なっている。
フランス国立ギメ東洋美術館のコレクションより、アポリネール・ル・バ『日本の武者』(1864年) © MNAAG.
確かに、今の荒木は満身創痍というべき状況にある。2008年に前立腺がんを患い、13年には利き目である右目を動脈血栓で失明しているという。それでも撮ることをやめない生きざまに、こんな彼の言葉を思い出す。「ずーっと撮り続けるということなんだな。写真は私の人生なんだからさ。そうすっと、写神が現れるの」(『天才アラーキー 写真ノ方法』集英社新書/01年)
写真家人生をかけて見つめる“愛と死”
Photos:Nobuyoshi Araki
Text : Akiko Tomita
Edit : Keita Fukasawa