又吉直樹が受賞前に語った『火花』創作秘話「小説もお笑いも共通する部分がある」 | Numero TOKYO - Part 3
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又吉直樹が受賞前に語った『火花』創作秘話「小説もお笑いも共通する部分がある」

──(笑)デートでは、いつから自分を出していくんですか?
お互いの好きなものがわかって、バカにしてくれていいよという前提ができたら好きな服を着て行きますね。
──仕事でのファッションは?
今日は小説を出して取材をしていただいているので、シャツとジャケットです。これは言ってみれば、祖父母に会うのと同じ気持ち。もしぶっ飛んだ服で来たら「こいつ、奇才ぶってるんちゃうか」とか受け取られかねないじゃないですか。
──なるほど、我々は祖父母(笑)。奇才ぶるじゃないですが、不幸や破天荒な人生、貧乏や借金のような悲劇性は芸人にとって必要ですか?
僕は必ずしもそう思わないですけど、やっぱりアホは面白いですよね。いまは破天荒や不良が面白いと言われてますけど、そういう芸人的な面白味が一切ない芸人がいたら、そのほうがお笑いにおける“不良”かもしれない。一切男ウケせず、女子からのみ人気のある芸人て、実はめっちゃかっこいいと思う。太宰が言っていた…って、知り合いみたいに言うてますけど(笑)、「先生に褒められているようなやつなんてしょうもないと言ってるやつらは友達に媚びてないか」という言葉をほんまに肝に銘じてて、「女子ばっかに人気があって男にウケてないとか批判してる人って、より権力のある男に媚びてないか?」と言いたい。どっちにも媚びてない面白さだけを考える。それがやっぱり芸人のあるべき姿だと思います。
──次の執筆予定は? 1作目の題材が自分の核である芸人でしたが、次がどんな作品になるのか楽しみです。
まだ特には考えていないですが、僕がやっているライブはテレビとは違い、コントでも15、20分の物語になっています。そう考えると小説もお笑いも共通する部分がある。小説の中に笑いがあるかどうかじゃなく、お笑いも小説も人間や世界のことを書いている限り、そこにはお笑いも人間も含まれてるんですよね。
──なるほど。小説家として芸人として、“言葉”を信じていますか
言葉の力はめちゃくちゃ信じているし、とんでもないことができると信じてますけど、ひとつひとつの言葉自体はいつも疑ってますね。言葉って曖昧やから使えてるもので、例えば、歌詞で「愛って言葉じゃ足りひん」みたいなのよくありますよね。みんながそれを思ってて、厳密に言えば愛の感情は時間とともに推移していく。ということは、一日一日の感情を表現する単語が365 個あってもいいんですよ。でもそれじゃ信じられないくらい膨大な数で覚えきれない。だから言葉は曖昧な必要がある。言葉が曖昧で完全には信じてないからこそ、好きって言葉の背景をちゃんと表現しないと、伝えたい感情がお客さんにも読者にも通じない。そういう意味で言葉を疑ってますけど、それがあるから言葉は面白いんですよね。
Interview&Text:Hiroyuki Yamaguchi Edit:Masumi Sasaki

又吉直樹(またよし・なおき)

1980年6月2日大阪府生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。これまでの著作に、『カキフライが無いなら来なかった』(せきしろとの共著、2009年幻冬舎刊)、『まさかジープで来るとは』(同 10年幻冬舎刊)、『第2図書係補佐』(11年幻冬舎よしもと文庫刊)「そろそろ帰ろうかな」(別冊文芸春秋12年5月号)、「夕暮れに鼻血」(別冊文芸春秋12年9月号)、『鈴虫炒飯』(田中象雨との共著、12年幻冬舎刊)、『芸人と俳人』(堀本裕樹との共著、15年集英社刊)

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