又吉直樹が受賞前に語った『火花』創作秘話「小説もお笑いも共通する部分がある」 | Numero TOKYO - Part 2
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又吉直樹が受賞前に語った『火花』創作秘話「小説もお笑いも共通する部分がある」

──主人公・徳永と先輩・神谷、年の近い芸人の師弟関係が中心でしたね。 芸人の先輩後輩という上下関係が面白くて書きたかったんです。吉本興業ではどんなに貧乏でも先輩が後輩におごることが普通なんですね。このシステムは決して賢くはないけど、いいことだとも思うんです。外の世界はそういう変なルールに忠実ではないという意味でも。他にも、例えば5年位後輩から相談を受けると、それは5年前の俺が悩んでたことで、大体その答えを持ってたりすることとかもみな経験しています
──でも、作中で先輩の答えは徳永にとって正解ではありませんでした。 神谷は面白いことがいちばん大切だと思ってて、自分がいちばん面白いと思うことをやれば、相手は笑うと思ってるんです。なのに伝わらんくて、毎回驚いてる。僕は学生の頃からクラスメイトや先生相手に漫才をやっていましたけど、好き勝手なネタ誰も笑わんくて、「お前らはわかってない!」と言ったら頭がおかしい人になる(笑)。芸術であれば後年認められるということであり、でも、お笑いは人と人との関係性の中にあるから、そこを無視することは絶対にできない。 一方で天然の若手・鹿谷は存在自体がすでに面白い。僕は彼をめちゃくちゃ肯定的な存在として書きました。鹿谷の存在が面白いのは、笑いって現象だからで、面白いと思ってしまったらそれはもう面白いんです。昔、すごく世話になったお店に久々に行った時、いい話もして涙も流し、ありがとうございましたと帰ったら、食あたりで思いっきりゲロ吐いたんです(笑)。笑えますよね? かといってその人たちから受けた恩は消えないんですよ。それはただ面白い現象だから。お笑いには言葉で説明できへん、そういう天才がいるんです。
──天才というと、例えば? 例えば出川哲朗さん。あの人には面白いことが起こりすぎる。話のオチって出演者中いちばんナメられてる人になるから、必然的に出川さんになる。ナメられるって言ったら失礼ですけど(笑)、本当はみんなその位置に憧れてるんです。
──ナメられてるが褒め言葉になる。 僕も昔からキモいと言われて、若手のライブでは相方がいちばんかっこよくて僕がキモいとされていたから、すごくチャンスが回ってきてた。でもテレビに出るようになったら、出川さんとかアンガールズの田中さんみたいなバケモノがおって、むしろ僕はたまに褒められてもうたりする。でも、そんなものは一切求めてなくて、ナメられることを背負える人のほうがすごいんですよ。
──お好きなファッションについてもウケるかどうかを考えますか? それはしないです。似合っているものを着るわけじゃなくて、着ていて自分のテンションが上がるものを着てるだけです。でも例えば祖父母に会いに行く時は、主役は祖父母なので立派になったと思ってもらえる服装で行くし、初デートでも祖父母に会う時と同じ感覚。変な格好をした男を連れてると思われたら、女の子が恥ずかしくなっちゃうから。

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