エディターたちは見た! 2020年秋冬コレクションダイアリー【ミラノ編】
長い歴史を重ねてきた従来のコレクションの形はこれで最後になるかもしれない。しかしデザイナーたちは、いま起きている世の中の変化を次なる進化の過程と捉え、すでに未来へと動き始めている。これからのファッションを楽しむヒントを現地で取材にあたったエディター視点で解説します。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年9月号掲載)
ミラノの財産を見つめ直す新時代エレガンスの到来
左上から時計回りに:N°21、ETRO、FENDI、JIL SANDER
ミラノ本来のエレガンス回生
水戸美千恵(以下M):「ここ数年ストリートがトレンドになっていたけれど、自分たちの本来の強みに立ち返っているように感じたよね。ミラノ流のエレガンスという軸が再び見え始めたなと思いました。
漆原望(以下N):特にウエストマークでボディラインを強調したルックが多かったですね。ほかにもシアーな素材や深いスリットから肌をのぞかせたり、デコルテがきれいに見えるカッティングデザインなど、確実にエレガンス方向へシフトしていますね」
M:「女性が女性として着たいものが増えたのかな」
N:「特にボッテガ・ヴェネタはこれまでマスキュリンやジェンダーレスなエレガンスを提案したコレクションが多かったですが、今回はロングコートでもウエストラインに沿わせていたり、ショルダーラインも今までよりもコンパクトになったりと、シルエットの美しさや女性らしいしなやかさを表現するアイデアが詰まっていて、ミラノ全体のムードがそちらに傾いているなと感じました」
ものづくりへのリスペクト
M:「ミラノはこれまでも、クラフツマンシップやクリエイターを大切にしているとは思いますが、特に今回はショーそのもので見せているブランドがありました。それがドルチェ&ガッバーナとグッチ。まずドルチェ&ガッバーナは、会場前に職人ブースがあり、仕立て職人やニッター、彫金師などの実作業を見せていて、ショーの背景にも職人の手仕事の映像を流していました」
N:「イタリアの職人芸を間近で見ることができたのは、とても贅沢だったなと思います。今後はそういった内側の部分を見せることはこれからの時代はさらに大切になると思いました」
N:「グッチは、エントランスからランウェイまでの間にバックステージを作り、フィッティングからショーとして見せることで、クリエイションに関わる人たちも含めて、すべて裏側から見せるという演出はとても斬新で素晴らしかった」
M:「『Unrepeatable Ritual(再現することのできない儀式)』と捉えて、このコレクションに関わるすべての人たちに敬意を示したショーだったんだよね。デジタル時代でものすごいスピードで変化しているこの時代だからこそ、生み出すまでの見えない時間というところにフォーカスしたんだと思う」
N:「確かに。スピード時代に慣れすぎてしまって時間の大切さを忘れてしまっていたかもしれない。新型コロナウイルスの影響も関係しているかもしれないけれど、“時間”についてもちゃんと見直して考えたいです。そういったコレクションの新しい見せ方というのが次々と出てくるかもしれないですね」
プレゼンテーションの進化
M:「新しい見せ方といえば、今回のモンクレール ジーニアスのプレゼンテーションはとても面白かったです。まず驚いたのは、規模の大きさ。国際展示場かと思うほどの規模感だったの。その巨大スペースの倉庫の中に12個もブースを設けていて、映画館や宇宙船をイメージした部屋など、それぞれコラボしたブランドコンセプトに合わせた世界観で表現されていました」
N:「一つ一つの会場のクオリティが高くてプレゼンテーションという見せ方もさらに進化していくだろうと思いました」
N:「おさえておきたいトレンドキーワードは、ビッグバッグとフリンジです。ここ最近はミニバッグが人気だったのですが、体の半分を覆ってしまうほどのビッグサイズが豊作。個人的にはずっとミニバッグが好きだったけれど、気分を変えてビッグバッグでのスタイリングも楽しみたいと思いました」
(左)(H35.5×W34×D14cm)¥319,000(予定価格・11月発売予定)/Fendi(フェンディ ジャパン 03-3514-6187)
(右)(H43×W38×D9cm)¥209,000/Tod’s(トッズ・ジャパン 0120-102-578)
M:「全身から流れるフリンジのデザインが多数登場していました。ここまで大胆なフリンジってあまり着たことがないけれど、女性らしいシルエットに合わせて作られているものが多かったので取り入れやすそう」
左上から時計回りに:PRADA、BOTTEGA VENETA、SALVATORE FERRAGAMO、JIL SANDER
セラピアンのアトリエで職人作業を体験したものの……
バッグブランド「セラピアン」は歴史的建造物、ヴィラ・モーツァルトに本社を置く。そこで行われたプレゼンテーションに参加。実作業している職人たちを見学していると、特別に少しだけ体験させてもらえることに。レザーを組み合わせて編む作業で「これならできそうだな」と思ったが、想像以上に難しすぎる(笑)! 改めてイタリアの職人芸の凄さを感じた瞬間でした。
MICHIE’S COMMENT
“思いが込められたもの”だけを
デザイナーのメッセージやこだわり、サステナブルな取り組み、卓越した職人仕事など、何かしら作り手の熱量を感じるものにこれまで以上に惹かれるようになりました。そして長く一緒にいられるか、も重要に。自分なりの物差しやセンサーをアップデートさせて、ファッションを楽しむ余裕を持ちたいですね。
NOZOMI’S COMMENT
長く自分のスタイルに取り入れられる、タイムレスなものを選んでいきたい
ただトレンドだけを追いかけるのではなく、長く自分のなかで時を重ねていけるようなアイテムを選んでいきたいと思いました。変化し続ける自分のスタイルにも長く取り入れられるものや、コレクションしておきたくなるような出合いに忠実に、作り手の思いを大切にもの選びをしたいです。
Illustration:Kaoll Edit & Text:Saki Shibata