Fashion / Feature

エディターたちは見た! 2020年秋冬コレクションダイアリー【パリ編】

長い歴史を重ねてきた従来のコレクションの形はこれで最後になるかもしれない。しかしデザイナーたちは、いま起きている世の中の変化を次なる進化の過程と捉え、すでに未来へと動き始めている。これからのファッションを楽しむヒントを現地で取材にあたったエディター視点で解説します。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年9月号掲載)

田中杏子
編集長。これまで20年近くにわたり世界中のコレクションをレポートし続けている。

柴田紗妃
ファッション・フィーチャー・エディター。美味しいワインを堪能するのも密かな楽しみ。

全身に突き刺さる“CHANGE”という強いメッセージ

柴田紗妃(以下S):新型コロナウイルスの影響で、今回は特別な思いでの参加だったと思います。これまでも20年近くコレクションに足を運んできた杏子さんは、今回はどんな思いがこみ上げてきましたか?

田中杏子(以下A):これまでの状況から「CHANGE(変化する)」という強いメッセージを感じる素晴らしいショーばかりでした。今までのようなファッション好きが楽しむためのものではなく、社会に還元しなくてはいけない、ファッション業界が世の中でどういう立ち位置でいるべきなのかを示しているブランドがとても多いなと思いました。

S:なかでも特に印象的だったショーはありますか?

A:まずはバレンシアガです。これまでもアーティスティック・ディレクターのデムナ・ヴァザリアは地球環境などの意識が高く、さまざまな取り組みをしてきたけれど、今回のショー会場でその思いを視覚的に表現しました。会場全体が水没している演出で、天井のLEDスクリーンには火山や海など地球創生を彷彿させる自然から、街が出来上がり環境汚染が蔓延していく様が映像で流れている。そこをモデルたちがランウェイに敷き詰められた水を蹴りながら足早に歩いている。たくさんの矛盾が起きているのに、そんな状況でありながらも私たちはショーを見ているんだという、どこか滑稽な気持ちになりました。デムナのメッセージが全身に突き刺さりましたね。

全身を包み隠すオーバーサイズや型破りなパワーショルダーなど異彩を放っている印象だが、ジムやラウンジウェアの美学から着想を得て、毎日心地よく着られる新しいアイデアも取り入れている。

S:これまでの歴史で、人間が作り上げてきたものだからこそ、自分たちの手で変えることはできると思います。そんなメッセージも感じますね。

さらに強まる進化の表現

COMME des GARÇONS
COMME des GARÇONS

振り切ったアプローチを見せたブランドはほかにもある。コム デ ギャルソンは、これまで川久保玲が作り上げたアーカイブの中から好きなものだけを選び、新解釈した。

LOEWE
LOEWE

ロエベはアーティストの桑田卓郎とタッグを組み、コレクションにクラフトを持ち込むという新たな挑戦を。

DIOR
DIOR

力強い自己の肯定を讃え、フェミニニティの多面的で変わることのない繋がりについて問いかけを続けた。

A:過去、現在、未来とすべて繋がっているというメッセージが込められていると思ったのはルイ・ヴィトンだったよね。

S:とても素敵でした。今までの歴史と私たちはすべて繋がっているんだということを教えてくれた気がします。時代の融合をテーマとし、15世紀から1950年までの衣装を身にまとっているのは、舞台を彩る「観客」を演じた200人のキャストで、モデルのルックはそれ以外の年代からもインスパイアされているそうです。すべてを解放させて、新しい表現方法や進化するというメッセージを感じました。

200人のキャストたちの衣装を担当したのは、映画『シャイニング』などのスタイリングでも知られるミレーナ・カノネロ。実際のルックではアンチトータルルックと表し、異なるテイストを絶妙なバランスでミックスさせていた。

新たなサスティナブルの形

STELLA McCARTNEY 会場ではショーが始まる前に動物の着ぐるみたちが苗木を配るという心温まる演出。
STELLA McCARTNEY 会場ではショーが始まる前に動物の着ぐるみたちが苗木を配るという心温まる演出。

A:今やファッション業界もサステナブルな意識を前提としての取り組みが当たり前になりましたが、さらにその先をいくアプローチで表現していたのは、ステラ マッカートニーメゾン マルジェラ。ステラ マッカートニーは、着ぐるみの動物たちも一緒にランウェイを歩いてきて、最初は可愛い~と思って見ていたのですが、よく見るとその動物たちの皮革で作られたかのようなバッグをそれぞれ持っていて、衝撃が走りました。何よりも強いメッセージでした。

肩の力を抜いたワンピースやロングコートが多数登場し、現代のリアルな女性像を打ち出した。

S:可愛いショーの演出かと思いきや、ものすごいメッセージが込められていて胸を打たれました。

Aメゾン マルジェラの「レチクラ」コレクションも新しい考え方でしたね。

「レチクラ」は、リサイクル、アップサイクル、レプリカを掛け合わせた造語。ヴィンテージピースを解体・修復したり、過剰在庫のレザーを再生して新たな命を吹き込んだコレクションだった。エシカルな意識に根差した新たなラグジュアリーの形を、メゾン独自の視点で表現した。
「レチクラ」は、リサイクル、アップサイクル、レプリカを掛け合わせた造語。ヴィンテージピースを解体・修復したり、過剰在庫のレザーを再生して新たな命を吹き込んだコレクションだった。エシカルな意識に根差した新たなラグジュアリーの形を、メゾン独自の視点で表現した。

S:ジョン・ガリアーノがセカンドハンドのショップで見つけたヴィンテージピースを、アトリエで解体・修復して製作したアイテムだったそうです。ゼロからものを生み出すのではなく、すでにあるものに意識を向けて新たに息を吹き込む。とても良い考え方だなと思いました。

マルチ ブラック

S:今季取り入れたいトレンドキーワードはありますか?

左上から時計回りに:GIVENCHY、OFF WHITE c/o VIRGIL ABLOH、CHANEL、VALENTINO

A:永遠の定番でもあるマルチブラックです。今回のトレンドカラーはブラックでした。特にさまざまな素材のブラックカラーが目立っていました。ヴァレンティノは多様性をブラックで表していて、今の世界の現状と重なるよね。もう一度見直したいな。

ラバー素材

(左上)BALMAIN(右上)ALEXANDER McQUEEN(左下)SAINT LAURENT

A:ラバー素材を使った新しいスタイリングも目立っていたよね。どこか反骨精神を感じるというか、そんなストイックなメッセージを投げかけられているようでした。

ネオ ブルジョア

(左)CELINE(右)DIOR

S:前シーズンに引き続きネオ ブルジョワは必須。シルエットもエレガンスなムードへと変わってきていて、フランスの上流階級のスタイルに、各ブランドの思いやアイデアを入れ込んだ新しい品の良さみたいなのが漂っていたように思います。

マスク姿で歩くとパパラッチの嵐に

当時は新型コロナウイルスの感染が少なかったパリだったが、パリコレ終盤頃には徐々に感染者が増加し緊張と不安を感じ始めた。いち早くマスク着用して街を歩くと、ショー会場前にいるパパラッチたちがこぞって撮影に駆けつけてきた。さらに会場に入る前には、メディカルサポートチームから「なぜマスクをしているの? 熱があるのかい?」と呼び止められることも。今では考えられない話だが、この時はまだここまでの感染拡大と非常事態になるとは誰もが思っていなかった。

ファッションの明るい未来を信じて、世界中で起きている変化をどう楽しむ?

AKO’S COMMENT
変化は常に、進化の一環ととらえるポジティブにしなやかに順応したい

着て行く場所が減ったり変わっても、“着る楽しみ”に変わりはありません。むしろ、こんな時こそ、ヘッドピースやアイウエアを活用したりして、オンライン上で映える、自身のキャラ作りに余念がなくなりました。個人的には、スニーカーを履く機会が増えたので、新しく、カジュアルなスニーカースタイルに挑戦しています!

SAKI’S COMMENT
自分自身も変化すること新しいものを取り入れるスペースを作る

これを逆手にとって、これまで自分にはない新しいファッションスタイルを開拓してみたいと思いました。そのためには自身のスタイルを決めすぎず、常に新しいものを取り入れられるスペースを作っておきたい。変わらないことも大切だけれど、今は変わっていくものとともに、自分自身も変化していきたいです。

エディターたちは見た! 2020年秋冬コレクションダイアリー

Illustration:Kaoll Edit & Text:Saki Shibata

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