松尾貴史が選ぶ今月の映画『ロングウォーク』 | Numero TOKYO
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松尾貴史が選ぶ今月の映画『ロングウォーク』

かのスティーヴン・キングが学生時代にリチャード・バックマンの名義を使用して執筆した事実上の長編初執筆作が時を超えて映画化された。戦争によって国家が分断された近未来のアメリカで、国を挙げて開催される競技「ロングウォーク」。ただひたすらに歩き続けるだけで破格の賞金と願いを1つ叶える権利を獲得できるこの祭典の行方は…。映画『ロングウォーク』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年7・8月合併号掲載)

「今」だからこそ生み出された作品

前号に引続いて、スティーヴン·キング原作の作品です。と言っても、発表された当時は別のペンネーム「リチャード·バックマン」で発表した初期の作品のようです。そのタイトルの意味は、文字通り「長い歩き」ですね。

国家の行事として、男たちが数十人で歩き続ける映画です。そう、延々と歩き続けます。絵面が変わらないから映像化するのは大変だろうなあという思いは、すこぶる当然の発想として湧くものでしょう。しかし、全く飽きることはありません。そして「歩くことは楽しい」ということと全く別の意味ですが。

国家が主催するイベントに参加した若者たちの話です。と言っても、まったくもって平和な催しではありません。誰か一人、一番長く歩き続けた者だけが勝者となり、莫大な賞金と、願い事を一つ叶えてもらえるという、原始的なレースです。それも、歩く速度が一定以下になると「警告」を受け、3回警告を受けるとすぐさま射殺されてしまうのです。走るのではなく歩くという前提が、悪い意味で持続可能な印象となって、逆に不健康な恐怖を重ねていくのです。

生きるか死ぬかの究極の状況下であるにも関わらず、若者たちには長時間行動を共にするうち、友情や連帯感が生まれるのです。「どうせ誰か一人しか生き残れない」という状況下で、なぜか短時間ではあるけれども絆のようなものが生まれては無情に消えていくという繰り返しなのです。繰り返しと言っても、パターン化されているわけではなく、逆にみんなが違う形で脱落していきます。

理不尽なルールで大勢が一攫千金を得るために命懸けで乗り越え、たった一人が生き残りを競うという設定は、まるで『イカゲーム』ではないですか。もちろん、それよりも随分昔に創作された発想ではあるのですが、「かの人気作品のルーツはここにあったのでは」と勝手に想像してしまうのです。

このような作品を、なぜ今の時代に映像化しようと思ったのでしょう。勝手な勘ぐりではありますが、トランプや高市早苗の例を出すまでもなく、今世界はディストピアに向かおうとしているとしか思えない状況がどんどんひどくなっています。これに警鐘を鳴らそうとする制作の衝動が起きたのではないかと、強く感じます。スティーヴン·キングはトランプの横暴に自身もSNSなどを通じて警鐘を鳴らしていますが、今まさに現象としてこれらが表出している一角なのではないかと思うのです。

終盤が改変されていることで、キングファンの中には不満を持つ向きもいるようですが、作者がこの原作をものした時よりも現実世界がひどいことになっている今、これくらいの「工夫」は必要ではないか、と思うのです、個人的には。

『ロングウォーク』

監督/フランシス・ローレンス
原作/スティーヴン・キング
出演/クーパー・ホフマン、デヴィッド・ジョンソン、マーク・ハミル
6月26日(金)全国公開
https://klockworx-v.com/longwalk/

©︎2026 Lions Gate Ent. Inc. All Rights Reserved.
配給/クロックワークス

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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史 Takashi Matsuo 俳優、タレント、創作折り紙「折り顔」作家など、さまざまな分野で活躍中。最新刊に毎日新聞のコラムの書籍化第6弾『違和感気質』。ミュージカル『アイ・ラブ・坊っちゃん』に出演中。カレー店「パンニャ」店主。@Kitsch_Matsuo
 

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