「映画業界あるある」でセレブたちの欺瞞やエゴをぶった斬る! 映画『コンペティション』 | Numero TOKYO
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「映画業界あるある」でセレブたちの欺瞞やエゴをぶった斬る! 映画『コンペティション』

ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスが共演を果たし、現代映画界を爽やかに皮肉った業界風刺エンターテイメント『コンペティション』。華やかな映画業界の裏側で本当に繰り広げられているかもしれない、天才監督と人気俳優2人の三つ巴の戦いを描き、アイロニカルでスタイリッシュな傑作が誕生した。

意外にも、実はこれが初の本格的な共演! 
ペネロペ・クルス&アントニオ・バンデラスが贈る悪ノリ満載の風刺コメディ

華やかな映画界の裏側では、こんな生き馬の目を抜く珍騒動が繰り広げられている……かもしれない! スペインを代表する名優、ペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスが共演。さらにアルゼンチンの大御所俳優、オスカル・マルティネスを迎え、映画業界を強烈かつ愉快に皮肉った風刺コメディが誕生した。それが第78回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門などに出品されて大きな話題を呼んだ、2021年のスペイン・アルゼンチン合作映画『コンペティション』(原題:Competencia oficial)だ。

描かれるのは、エキセントリックな天才監督の女性と、真逆ほどタイプの異なる大物俳優の男性2人の三つ巴の戦い。混ぜたら危険、とでも言えるような相性もクソもない3人をぶつけた映画製作はどんどんこじれまくり、やがて思わぬ事態に転がっていく。
アイロニカルな視点で映画業界の内幕を抉った映画には、『サンセット大通り』(1950年/監督:ビリー・ワイルダー)や『ザ・プレイヤー』(1992年/監督:ロバート・アルトマン)といったハリウッドの歴史的名作もあるが、本作はアートハウス系の「ヨーロッパ映画業界あるある」を過激に戯画化した現代版。お話のメインとなるのは企画の立ち上がりから、クランクイン前までの準備段階。映画祭の在り様もイジっているあたりは、ローワン・アトキンソン主演の快作『Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!』(2007年/監督:スティーヴ・ベンデラック)なども連想させられる。

物語の起点となるのは、映画のことを全然知らない資産家の気まぐれである。80歳を迎え、自分の名前を後世に残したいと考えた製薬企業のCEOが、そのための手段として映画製作を思いつく。「とにかく偉大な作品を」と意気込む彼は、世界的に評価されている映画監督、ローラ・クエヴァス(ペネロペ・クルス)に依頼。原作にはノーベル賞を受賞した小説『ライバル』が選ばれ、主人公の兄弟役には水と油のようなまったく異質の2人がキャスティングされた。

兄役には演劇界の権威であるベテラン俳優、イヴァン・トレス(オスカル・マルティネス)。弟役にはエンタメ映画を中心に活躍する、大スターのフェリックス・リヴェロ(アントニオ・バンデラス)。監督のローラは意外な組み合わせの妙と緊張感を狙ったのだと説明するが、リハーサル初日から演技メソッドをめぐってイヴァンとフェリックスは真っ向から対立する。

イヴァンは役柄の内面を考察し、深層を掘り下げていこうとするタイプ。対してフェリックスは「見えるものがすべて」であり、実際に存在しないキャラクターの分析などナンセンスだと主張。これはまさしく芝居のアプローチの違いであり、一概にイヴァンが“高尚”であり、フェリックスが“通俗的”だと断定はできない。こういった演技論ひとつ取っても、リアルな創造のプロセスに裏打ちされた対話が展開するのが本作の面白いところだ。

そして一筋縄ではいかないのは、名声や評価に対するエゴや虚栄心。例えばフェリックスは受賞トロフィーを大切にし、リハーサルがうまくいくと「オスカーを狙えるぞ」と素直に盛り上がる。対してイヴァンはアカデミー賞についてバカげた賞だと切り捨てる。「白人中心のエンタメ業界に色を添えるラテン人になるのはゴメンだ!」と息巻くのだが、しかしその一方、彼はひとり鏡に向かって、授賞式で「受賞を辞退する」練習を秘かに繰り返しているのだった!

また監督のローラも相当クセが強く、エッジが利きまくっている。彼女はリハーサルのたびに、“エクササイズ”と称して、俳優2人に罰ゲームか嫌がらせのような無理難題を仕掛けていくのだ。

全編に渡りシャネルの衣装に身を包み、ぶっ飛んだウィッグも装着したペネロペ・クルスが怪演するローラについて、「彼女はいわゆる一般的な映画監督のイメージではなく、前衛的な芸術家、素晴らしい作品かクズのような作品かのどちらかを作りそうな、そんなイメージ」と語るのは、本作の監督コンビであるガストン・ドゥプラット(1969年生まれ)とマリアノ・コーン(1975年生まれ)。『ル・コルビュジエの家』(2009年)や『笑う故郷』(2016年)など、スタイリッシュな映像とブラックなユーモアで構築された独自の世界観で人気を集める彼らは、本作のキャラクター設計についてこう説明する。

「どの登場人物も複数の知り合いの要素を取り入れて作り上げたものです。実際に監督から変な要求を受けたことのある俳優から聞いたエピソードや、僕らが経験したことや実生活での知り合いなどを、フランケンシュタインみたいに継ぎ接ぎして作りました」

周知のとおり、ペネロペ・クルスは『ボルベール〈帰郷〉』(2006年/監督:ペドロ・アルモドバル)で第59回カンヌ国際映画祭女優賞、『それでも恋するバルセロナ』(2008年/監督:ウディ・アレン)で第81回アカデミー賞助演女優賞、そして『コンペティション』と同じ第78回ヴェネチア国際映画祭にエントリーした『パラレル・マザース』(2021年/監督:ペドロ・アルモドバル)では最優秀女優賞を受賞するなど、華々しい経歴を持つ。

アントニオ・バンデラスも『ペイン・アンド・グローリー』(2019年/監督:ペドロ・アルモロバル)で第72回カンヌ国際映画祭の主演男優賞を獲得。オスカル・マルティネスも、先述の『笑う故郷』で第73回ヴェネチア国際映画祭の最優秀男優賞を受賞している。こういった世界中から最高の評価を受ける大物俳優陣が、自虐ネタとも言える批評性を持って、自分たちの業界をシニカルに見つめているのは貴重な試みだ。そこには#MeTooやダイバーシティの流れなども踏まえた、業界全体の在り方に向けた問い直しの視座も当然含んでいる。

ちなみにペネロペ・クルスとアントニオ・バンデラスは、共にペドロ・アルモドバル監督の常連俳優でもあり、なんとなく「何度も共演している」イメージを持っている人が多いのではないか。しかし実はこれまで同じ画面に2分以上一緒に映ったことがなく(アルモドバル監督の『ペイン・アンド・グローリー』では異なる時代のレイヤーにいる設定だった)、なんと今回が本格的な初共演となるのだ! その点でも見逃せない一本である。

『コンペティション』

監督/ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
出演/ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス
全国公開中
https://competition-movie.jp/

配給/ショウゲート
©2021 Mediaproduccion S.L.U, Prom TV S.A.U.

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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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