『君の名前で僕を呼んで』の黄金タッグ再び! 映画『ボーン アンド オール』 | Numero TOKYO
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『君の名前で僕を呼んで』の黄金タッグ再び! 映画『ボーン アンド オール』

君の名前で僕を呼んで』の主演ティモシー・シャラメと監督ルカ・グァダニーノの再タッグが実現した映画『ボーン アンド オール』が公開中。ティモシー・シャラメが主演と共に初のプロデュースも担当し、ヴェネチア国際映画祭新人俳優賞受賞の『WAVES/ウェイブス』のテイラー・ラッセルが同じく主演として登場する。社会の片隅で生きる二人の男女が抱える秘密、それは生きるため本能的に人を喰べてしまうこと。その「謎」を解くための二人の逃避行、そして予想だにしない純愛のゆくえが世界中で賛否を生んだ問題作だ。

ティモシー・シャラメ × ルカ・グァダニーノ監督との黄金タッグ再び!
ヴェネチア国際映画祭2冠に輝く神話的純愛ホラー

若い男女が逃避行を繰り広げるラブストーリーにして、アメリカ中西部を巡るロードムービー。ただし主人公たちは重大な秘密を抱えている。劇中で“イーター”と呼ばれる彼らは、人間を捕食する種族のアウトサイダー。そう、『ボーンズ アンド オール』は「人喰い」という宿命を抱えたふたりのボーイ・ミーツ・ガールを描く異色の青春映画だ。

主演はティモシー・シャラメ。いまや伝説の一本となった『君の名前で僕を呼んで』(2017年)に続き、イタリア出身の俊英、ルカ・グァダニーノ監督と再びタッグを組んだ。シャラメは今回初めてプロデューサーも務めている。そして相手のヒロイン役には、A24作品『WAVES/ウェイブス』(2019年/監督:トレイ・エドワード・シュルツ)で注目されたテイラー・ラッセルが抜擢。瑞々しく鮮烈な存在感を発揮し、第79回(2022年)ヴェネチア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)を受賞。さらに同映画祭ではグァダニーノが監督賞を獲得し、みごと計2冠に輝いた。

物語の時代設定は1988年。18歳のマレン(テイラー・ラッセル)は米バージニア州で父親と暮らす高校生。だが「人喰い」という母方から受け継いだ遺伝子のため、またしても友人の指を咬みちぎってしまう事件を起こした彼女。そのままメリーランド州へと逃げるように引っ越しする。やがて父親にも見放されたマレンは、ひとりで宛てのない旅を続ける。

そんな折、インディアナ州のスーパーマーケットで、同じ“イーター”の青年リー(ティモシー・シャラメ)と出会う。同族のふたりは惹かれ合い、共に愛と信頼を高めながら、さまざまな土地へと車を走らせるのだが……。

本作の特徴は「純愛ホラー」とでも呼ぶべき大胆なジャンルミックスだ。カニバリズム(人肉嗜食)という過激な主題は、吸血鬼の哀しき宿命を肥大させたイメージだろうか。テロリズム的に機能する猟奇シリアルキラーの部分は、ルカ・グァダニーノ監督が、ダリオ・アルジェント監督のジャッロホラーの名作を独特の解釈でリメイクした『サスペリア』(2018年)とつながっている(脚本も『ボーンズ アンド オール』と同じくデヴィッド・カイガニックが担当)。

だが同時に基本は、社会の片隅に生きる若者たちのささやかな愛のゆくえを見つめる映画だ。ルカ・グァダニーノ監督作では『君の名前で僕を呼んで』や珠玉のドラマシリーズ『僕らのままで/WE ARE WHO WE ARE』(全8話/2020年)に連なる物語世界である。リリカルな清涼感と、ノイジーな禍々しさの交錯。いわばグァダニーノの両極の持ち味が融合した趣だ。

地方の寂れた閉塞感と、それを解放する風景の移動は、いかにもアメリカ的な旅の気分を伝えるが、同時にグァダニーノ監督の本質は変わりない。彼の作品に一貫している主題はアイデンティティの探究である。「本当の自分」に目覚めた個と、社会的な制度の衝突。自由意志の葛藤。初期の『メリッサ・P ~青い蕾~』(2005年)や『ミラノ、愛に生きる(2009年)にしろ、その起動力となるのはいつも「愛」である。『ボーンズ アンド オール』のリー&マレンも、人間社会の中で必死に居場所を探し、ふたりの絆を深めることで、これまで疎んじてきた自らのマイノリティ属性を引き受ける。

サバンナの野生動物のごとく獲物を喰らい、人間社会の秩序を掻き乱す存在である“イーター”は、文明の虚飾を剥ぐ危険な異分子でもある。メリーランドからマレンを尾行してきた放浪者サリー(マーク・ライランス)にしろ、ミズーリで登場する不気味なふたりの白人男(マイケル・スタールバーグと、デヴィッド・ゴードン・グリーン)にしろ、マレンを置いて逃げた同族の母親(クロエ・セヴィニー)にしろ、いずれも不気味な存在感を放ち、リー&マレンはむしろ同族たちの世界に取り込まれぬように慎重に距離を取ろうとする。

脇を固めるベテランの名優陣もさすがだが、なんといっても主演のふたりが素晴らしい。ボロボロのダメージデニムなどを着崩したティモシー・シャラメは、グランジっぽい風貌だが、それ以前の時代を表象するように、リーはハードロックやヘヴィメタルのファン。キッスの1983年のアルバム『地獄の回想(LICK IT UP)』をレコードプレイヤーで流す。この爆音は彼が抱える心のフラストレーションを示すようだ。そしてテイラー・ラッセル扮するマレンの優しさや愛情深さ。

まるで神話の登場人物のようなふたりが魅せる青春の光と影。映画音楽はナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとアッティカス・ロスが担当している。

『ボーンズ アンド オール』

監督/ルカ・グァダニーノ
出演/ティモシー・シャラメ、テイラー・ラッセル、マーク・ライランス、クロエ・セヴィニー
全国公開中
https://wwws.warnerbros.co.jp/bonesandall/

配給/ワーナー・ブラザース映画
© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

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Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。『週刊文春』『朝日新聞』『TV Bros.』『シネマトゥデイ』などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマ倶楽部』でMC担当中。

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