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ヴェネツィアで金獅子賞受賞の『ジョーカー』公開! 来年のアカデミー賞は確実か!?

歴代の世界興収No.1を記録した『アベンジャーズ/エンドゲーム』のメガヒットなど、今年は特にマーベル・コミック原作の映画(マーベル・シネマティック・ユニバース)の話題が華々しかったが、そのライバルに当たるDCコミック原作のシリーズから、とんでもない傑作が投下された。それがホアキン・フェニックス主演の『ジョーカー』だ。 すでに第76回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞。来年の米アカデミー賞にも大きく絡むことは確実と言われており、まさに圧倒的な評価を受けつつ、10月4日(金)から日米同時公開の運びとなる。

悪のカリスマの知られざる深い闇に降りていく、ホアキン・フェニックスの魂の名演に震える!

内容は『バットマン』シリーズに登場する最強にして最凶の悪役、ジョーカーが誕生する経緯を描く“エピソード・ゼロ”的な前日談。ジョーカーといえば『ダークナイト』(2008年/監督:クリストファー・ノーラン)で、故ヒース・レジャーが魂を削るような一世一代の壮絶な爆演を見せたのがいまだ記憶に新しい(彼は公開前に逝去)。

そこからバトンを受け取れる役者は、ホアキン・フェニックスの他にいないだろう。『ザ・マスター』(2012年/監督:ポール・トーマス・アンダーソン)や『ビューティフル・デイ』(2017年/監督:リン・ラムジー)など、現役の俳優の中では桁違いの迫力と重厚感を出せる人だが、今回はその本物の実力をあらためて、いやそれ以上に実感させてくれる。映画を観ているこちらまで、深い漆黒の闇へと降ろす怪演にして超名演だ。

ホアキン扮するアーサー・フレックは、コメディアンを夢見る心優しい男。荒廃した大都会ゴッサム・シティ(1980年代初頭のニューヨークがモデルとなっている)の片隅で、ピエロのメイクで大道芸人をしながら、年老いた母親とともに貧しくも慎ましく暮らしている。だがそんな彼の夢を打ち砕くような出来事が起こり始め、また同時に幼少期の秘密が明らかになっていく……。

不器用で純粋な青年から、悪の化身ジョーカーへと変貌を遂げるアーサーの姿は、かつての二人の主人公を連想させる。マーティン・スコセッシ監督作『タクシードライバー』(1976年)のトラヴィスと、やはり同監督の『キング・オブ・コメディ』(1982年)のルパートだ。前者はニューヨークの街を漂流するトラウマと鬱屈を抱えた元海兵隊員、後者は有名コメディアンを目指す男。ともに孤独と報われぬ現実から、狂気じみた妄執を膨らませていく。

この二つの役を演じていたのがロバート・デ・ニーロだ。そして本作『ジョーカー』には、アーサー=ジョーカーの運命を左右するキーパーソンとしてデ・ニーロが出演している。本人公認のオマージュというわけだが、その影響をアメコミ・キャラクターの物語へと血肉化する換骨奪胎ぶりも見事というしかない。

監督のトッド・フィリップスは破天荒な人気コメディ『ハングオーバー!』シリーズ(2009~13年)で知られ、最近では『アリー/スター誕生』(2018年/監督:ブラッドリー・クーパー)のプロデュースも務めたが、初期には過激なパフォーマンスと奇行で悪名を馳せた伝説のパンクロッカーを追ったドキュメンタリー映画『全身ハードコア GGアリン』(1994年)を監督している。今回はアウトサイダーの宿業や悲哀を見つめる初心が戻ったような趣だ。

さらにジョーカーの「悲劇」と「喜劇」にまつわる精神性を表わすものとしてチャップリンの引用があったり(1936年の名作『モダン・タイムス』が劇場で上映されているシーンも)、クライマックスで流れるクリーム「ホワイト・ルーム」や、フランク・シナトラの名唱で知られる「ザッツ・ライフ」といった選曲も素晴らしい。確実に今年最高峰となる戦慄の映画体験が待っている――油断すると心を乱され、涙腺も刺激されるのでご注意を!

『ジョーカー』

監督/トッド・フィリップス 
出演/ホアキン・フェニックス、ロバート・デ・ニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ
2019年10月4日(金) 全国ロードショー
配給/ワーナー・ブラザース映画

©2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM &©DC Comics

Text:Naoto Mori Edit:Sayaka Ito

Profile

森 直人Naoto Mori 映画評論家、ライター。1971年、和歌山県生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「シネマトゥデイ」などでも定期的に執筆中。 YouTube配信番組『活弁シネマクラブ』でMC担当中。

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