Culture / Post

Numero TOKYO おすすめの2020年7月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。

『わたしの全てのわたしたち』

著者/サラ・クロッサン
訳/最果タヒ、金原瑞人
本体価格/¥1,700
発行/ハーパーコリンズ・ジャパン

詩のかたちで綴られた、ある双子の短くも長い青春物語

2016年にカーネギー賞を始めとする各国の児童文学賞を受賞した原作を、ヤングアダルト文学翻訳の第一人者である金原瑞人が翻訳し、詩人・最果タヒが「日本語の詩の小説」として再翻訳した本書。物語は16歳の双子であるグレースとティッピが、9月の新学期からは在宅学習ではなく私立高校へと通学するように母親から告げられる場面から始まる。いわゆる青春小説らしい幕開けではある、グレースとティッピが腰から下が繋がった結合双生児であること以外は。

作中では初めての学校生活の中で育まれる友情や恋だけでなく、両親のリストラが引き起こす家庭内の不和も、体を分け合いながら生きているからこそ生まれる喜びや悲しみも、グレースによる一人語りの散文詩で綴られる。ティッピほど饒舌ではない彼女があらゆる事象から目をそらさず、ひたむきに感情や想いを表すために選び抜いた言葉たちは、どんなに読みやすく整えられた文章よりも深く心に響く。

また、グレースに呼応するかのように変容し、物語の深みへと引き込む作用をもたらす文字組や書体も、本書の魅力のひとつといえる。詩作品をあまり手に取ったことがない人にも薦めたい、“読む”以上の体験を得られる一冊。

『星に仄めかされて』

著者/多和田葉子
本体価格/¥1,800
発行/講談社

さらなる思惑と謎が交錯する、失われた言葉を巡る物語

留学中に「母国の島国」が消滅してしまい、移民として北欧で生き抜くために独自の言語〈パンスカ〉を発明したHiruko。自分と同じ母語を話す人物を捜す旅の中で彼女が出会う、さまざまな仲間との言語や国籍を越えた繋がりを描いた『地球にちりばめられて』。続編となる本作では新たな人物も登場し、物語は予期せぬ形で展開していく。

前作でHirukoたちが見つけ出した福井出身のSusanooだが言葉を喪失していたため、コペンハーゲンの病院に入院することになる。彼を見舞おうと各国に点在する仲間たちは各々のルートでコペンハーゲンを目指すも、ストライキに巻き込まれるなどして珍道中が繰り広げられていく。また言語を習得することで「第二のアイデンティティ」を獲得していたグリーンランド出身のナヌークは、Susanooの治療にあたる我の強いスウェーデン人の医師・ベルマーに持ちかけられた「性格の交換」に応じたことで波紋を起こしてしまう。

Hirukoの〈パンスカ〉が見知らぬ人々を結びつける様子を描いた前作に対し、今作では他者を傷つける手段として言語が扱われる描写も登場し、言語や言葉の在り方ついても考えさせられる。終盤では仲間たちは太平洋を目指す旅に出ることになるが、どうもHirukoは乗り気でない。消滅したというHirukoの母国の謎がついに明かされるのか、旅路の果てに彼らは何を見つけるのか。シリーズを追うごとに目が離せなくなる、世界文学の旗手が紡ぐ越境譚。

『持続可能な魂の利用』

著者/松田青子
本体価格/¥1,500
発行/中央公論新社

「おじさん」主体の世界を革命するレジスタンス小説

ジェンダー絵本『問題だらけの女性たち』をはじめとする海外作品の翻訳を手がけ、連作短編集『おばちゃんたちのいるところ』などの著作で知られる松田青子。不条理な世界に生きる女性たちの姿を描いてきた彼女の初長編となる本作には、これまで以上のエネルギーがみなぎっている。

物語の中心人物となる敬子は思わぬ形で会社を退職した後、「パフォーマンスの間、笑顔を見せない」女性アイドルグループに魅了される。かつて量産型アイドルたちの姿を見て傷ついた経験があるにもかかわらず、同じ男性がプロデュースするグループを好きになることへの矛盾を覚えながらも、彼女たちを推すことが心の支えとなっていく。理不尽な事柄やストレスに魂をすり減らされる日々の中、とある人物とのデモでの出会いをきっかけに、敬子はひとつの“賭け”に挑むことを決意する。

「おじさん」から少女たちが見えなくなった世界で研究課題に取り組む人物たちなど、複数の視点による語りが挟み込まれる物語は、終盤ではディストピア的な展開を見せ、終わり方も決してハッピーエンドではない。しかし「黙っている女の子、黙っている女」だった人々がつながり、行動を起こす描写には光明を感じずにはいられない。男女の格差が当然のように根付いている社会構造の異様さを浮き彫りにする本書は、問題を提起するだけでなく抵抗する勇気も与えてくれる希望の書だ。

ヌメロ・トウキョウおすすめのブックリスト

Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

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