Numero TOKYO おすすめの2019年11月の本 | Numero TOKYO
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Numero TOKYO おすすめの2019年11月の本

あまたある新刊本の中からヌメロ・トウキョウがとっておきの3冊をご紹介。

『生命式』

著者/村田沙耶香
本体価格/¥1,650
発行/河出書房新社

「だって、正常は発狂の一種でしょう?」

『コンビニ人間』『地球星人』など、“正常”と“異常”の境目をゆらがす作品で知られる村田沙耶香。彼女が文芸誌などで発表した12の短編を収録した本書も、容赦なく私たちの感覚を問いただす内容となっている。

死者の肉を調理して参列者にふるまう葬儀が一般化した世界を舞台とする表題作をはじめ、宇宙食のような加工食品を食べ続ける夫婦や、都会に生える雑草が唯一食べられる野菜である会社員など、多様な食生活を送る人々が登場する本書。食を切り口に“普通”とされる価値観の本質をあばく物語は、生理的な感覚だからこそ強烈なまでに心を揺さぶる。何かの固定観念に縛られている人こそ本書を手に取り、「この世で唯一の、許される発狂を正常と呼ぶ」の一節に打ち震えてほしい。

『記憶の盆をどり』

著者/町田康
本体価格/¥1,700
発行/講談社

“町田節”が四方八方に炸裂する短編集

『御伽草子』の現代語訳、『半七捕物帳』へのオマージュ、断酒中の物書きの記憶をめぐる奇談など、バラエティに富んだ9作品を収録した短編集。物語のテイストやトーンはそれぞれに異なるものの、登場人物たちの珍妙なやりとりや行動で笑わせつつ、いつのまにか不可思議な世界へと読み手を迷い込ませる“町田節”は、全編を通して見事なまでに効いている。

収録作品の中には超常的な現象を通じて人間の浅ましさを描く、どこか寓話めいたハッピーエンドとはいえない物語もある。しかし非条理なニュースばかりが流れる現実と比べると、物語の中のほうがよっぽど道理にかなった世界のようにも思えてくる。著者のストーリーテラーとしての能才を、思う存分に味わえる一冊。

『ボーダー 二つの世界』

著者/ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
訳/山田文、他
本体価格/¥1,280
発行/早川書房

蠱惑的な“闇”に引き込まれる、北欧発の奇譚集

カンヌ国際映画祭「ある視点」賞受賞映画の原作である表題作をはじめ、“スウェーデンのスティーヴン・キング”の異名を持つ著者による11の短編を収録した本書。書籍としてはホラーのジャンルに分類されるのだろうが、復活した死者をめぐるSF的要素の強い作品や、快活な高齢女性たちが繰り広げる犯罪譚もあり、ジャンルに縛られない魅力に満ちた一冊となっている。

しかしどの作品でも日常と非日常の狭間に息づく“闇”が詩的に描写されており、人の心が惑わされていく様子に怖さよりも美しさを感じてしまう。ある夫婦の愛をやさしい眼差しで綴った物語でもあり、『MORSE—モールス—』(映画「ぼくのエリ 200歳の少女」原作)の続編でもある「古い夢は葬って」は特に傑作なので、映画版のファンは必読。

Text:Miki Hayashi Edit:Sayaka Ito

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2024.11.28 発売

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