SFな世界観をオタク視点でアナログ表現。現代アーティスト池内啓人のテックワールドから目が離せない! | Numero TOKYO
Art / Editor’s Post

SFな世界観をオタク視点でアナログ表現。現代アーティスト池内啓人のテックワールドから目が離せない!

見た目の凄さのみならず、実際の機能もあってこそ

アニメとサイバーパンクを想起させる池内啓人の生み出す世界は見れば見るほど、そのディテールに引き込まれていく。入手したデジタルアイテムは一度解体し、プラモデルのように別のものとくっつけて独自の世界観で「IKEUCHI products」を生み出していく。 実はこれ、Bluetooth対応のヘッドホンやイヤホン、アラームやサバゲーアイテムなど、もともとあるファンクションをそのまま生かした使用可能な「テックアイテム」なのだそう。

美大の卒業制作からスタートし世界を席巻する作家に

もとは多摩美術大学情報デザイン学科を専攻し、卒業制作としてパソコンとプラモデルを組み合わせたジオラマ作品を仕上げたことがきっかけで、造形作家の道を歩むことになった池内氏。彼の生み出す世界に国内外の多くのクリエイターが注目しています。 最近では、先鋭的な立ち位置でモード界を牽引するBALENCIAGAのクリエイティブ・ディレクター、デムナ・ヴァザリアも心打たれたようで、2022年春夏コレクションのキャンペーンヴィジュアルに起用。「IKEUCHI products」が大きな役割を担っているのが窺えます。

幼少期にみた“未来像”が創作の原点

現在の私たちを取り巻く環境は、健康管理やショッピング、コミュニティ活動や株の売買、入出金に至るまで、生活のすべてをスマホひとつで行えるほど簡素化されました。家の空調やペットの配膳、掃除までも遠隔操作で叶うほどにスマートな時代。そんな未来像を、誰が想像していたでしょう。

幼少期にテレビや映画で見ていた“ハイテクな未来像”はそんな姿ではありませんでした。『攻殻機動隊』や『バブルガムクライシス』、『イヴの時間』や『メタルスキンパニック MADOX-01』など80年代アニメに影響を受けた池内氏もまた、複雑なメカやロボットがカシャカシャといった機械音とともに動くアナログ感満載のSFワールドを想像していたそうです。それだけに、スマートな現在が少し寂しく、模型のパーツを使って自分が思い描いていた未来像を再現せたそうです。

神秘性の模索より、文化へと昇華することの喜び

彼が表現したいのが、この “ひと昔前に想像した未来像”。展覧会場で、挨拶をする機会を得た私は池内氏に、素晴らしい作品でディテールに神秘を感じると率直な感想を伝えたところ、面白い答えがかえってきた。「個人的にも神秘の世界に近づこうと作り続けていましたが、まったくその域には近づけないというのを実感し始めています。ある意味、手先の器用さや塗装のテクニックさえあれば誰だって作れると思うんですよ。でも見ていただく方に神秘を感じると言っていただけるのはとても嬉しいです。僕自身は、神秘に近づけなくても、最後にはそれが“文化”に変わっていけば本望だなと感じています」

世界中のテック好きに「メカ萌え」させる造形作家の池内啓人氏。作品を生み出す内なるエネルギーと存在意義を見つけようと噴出する自問自答。最もシンプルなことは、作品は共感を得る“コミュニケーション”なのだという。作品が世界に飛び出し「文化的価値」をもってコミュニケーションになる。池内氏のさらなる挑戦に注目したい。

エキシビションは1月30日まで。その目で見て、池内ワールドをぜひ体感してください。

池内啓人 プロフィール
1990年東京都生まれ。造形作家。多摩美術大学情報デザイン学科卒。卒業制作としてパソコンとプラモデルを組み合わせたジオラマ作品を作ったことがきっかけとなり、文化庁主催の「メディア芸術祭」や世界最高峰のメディアイベント「アルス・エレクトロニカ」に招待され、国内外で高い評価を受けている造形作家。

IKEUCHI HIROTO EXHIBITION
会期/2022年1月8日(土)〜1月30日(日)
会場/SAI
住所/東京都渋谷区神宮前 6-20-10 RAYARD MIYASHITA PARK South 3F
入場料/無料
時間/11:00〜20:00
休館/会期中無休
TEL/03-6712-5706
池内啓人のインスタグラムはこちらから
会場SAIのインスタグラムはこちらから

 

Profile

田中杏子Ako Tanaka 編集長。ミラノに渡りファッションを学んだ後、雑誌や広告に携わる。帰国後はフリーのスタイリストとして『ELLE japon』『流行通信』などで編集、スタイリングに従事し『VOGUE JAPAN』の創刊メンバーとしてプロジェクトの立ち上げに参加。紙面でのスタイリングのほか広告キャンペーンのファッション・ディレクター、TV番組への出演など活動の幅を広げる。2005年『Numéro TOKYO』編集長に就任。著書に『AKO’S FASHION BOOK』(KKベストセラーズ社)がある。
Twitter: @akotanaka Instagram: @akoakotanaka

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