松坂桃李の迷いと歩み「物作りの面白さを肌で感じた」
──人気コミックをドラマ化したドラマ『サイレーン』。主人公の警視庁機動捜査隊員・里見偲役を演じる松坂さんは、役作りのためにトレーニングされているそうですね。
「体力づくり、そして瞬発力を養うために鍛えています。犯人を追いかけて走りますからね。アクション面では、攻撃的というよりは相手をいなして制す、人を抑える術をメインとした柔術や合気道みたいな技を習っています。攻撃的ではないアクションは初なので、楽しみです。特に一話目はアクションシーンがふんだんに入ってくるでしょう」
──機動捜査隊、通称キソウは犯人を取り押さえても、その先の捜査はしない。それってジリジリしてしまうのでは?
「特に里見はミステリーを読むこと、推理することが好きな男。発想や想像力が豊かで、この事件はもしかしたらこういうことかも…とミステリー好きからくる勘、刑事にはない閃きがあったりするんです。しかし、周りからは頭ごなしに押さえ付けられてしまう。ジレンマだらけです」
──そしてキソウには木村文乃さん演じる猪熊夕貴がいます。相棒であり、年上の彼女でもある…これって近すぎませんか。
「確かに同じ職場で恋人同士、二人とも捜査一課に入りたいという同じ夢を持っている。ライバルであり、相棒でもある。実に複雑ですね。でもこれがこの作品の面白いところ。今までのバディものは物事を解決するにつれて段々接近し、親しくなるのが定番です。ところがこの話は最初から関係性は出来上がっているわけで、この完成された関係が話が進むにつれて崩れていく。僕はそこに面白さを感じています」
──次々と猟奇殺人が起こるわけですが、菜々緒さん演じる謎の美女・橘カラの登場でまた事態は変化します。
「里見も猪熊も犯人を追い詰めたいという気持ちはあるけれども、なかなか証拠がつかめない。そこに橘カラというサイコパス的な女性が現れ、猪熊と親しくなってしまう。里見としては、猪熊を危険な目に遭わせたくない恋人としての思いがあり、一方では犯人を捕まえるために危険に目をつぶり、彼女を泳がせなければいけない瞬間もあったりします。里見の揺れ動くさまは、見る人をヒリヒリさせるのではないでしょうか」
──俳優として着実にキャリアを重ねている松坂さん。大きなターニングポイントはいつでしたか。
「19歳から20歳になるときに受けた『FINEBOYS』のモデルオーディションです」
──なぜ受けようと?
「安易なんですよ。その頃、僕は大学2年生。友人たちが『オーディションとはどういうものなのか、話のネタにちょっと見てこいよ』と言うので、わかった!と受けたら、専属モデルになってしまったわけです」
──戸惑いはありませんでしたか。
「選考が2次、3次と進むにつれ、大学生活はどうするのだろうと不安になって。でも専属モデルとしての活動は月2、3日だったので、それなら大学に通えるなと。そのときに今の事務所に仮所属になり、あまり気に留めていなかったんですけど、モデルを始めて3カ月ほどしたら、戦隊のオーディションがあるから行きなさいと言われて。お芝居もやったことなかったし、あまり興味なかったし、そういうのはちょっと…と後ろ向きでした」
──それなのに『侍戦隊シンケンジャー』のシンケンレッド役を射止められた。トントン拍子でしたね。
「そこからは流されるがままで、気づいたら自分の生活が180度変わっていました。戦隊は1年以上拘束されるので大学を休学し、ロケは朝が早いので実家を出て一人暮らしに。突然お芝居の世界に入って、いったい何をすればいいのか…と」
──迷いはなかった?
「迷いまくっていました。戦隊が終わったら大学に戻ろうと思っていましたし、経営学を学んでいたので、卒業したら普通に会社員になるのだと。でも撮影が終盤に差し掛かる頃、お芝居の面白さをほのかに感じる瞬間が多々あり、この仕事はもしかしたら面白いのかもしれないと実感するようになってきたんです」
──どんなときに感じたのですか。
「最初のうちは『そんなんで現場へ来るんじゃねえ!』ってよく怒鳴られていました。でも時間がたつにつれ、スタッフさんたちとコミュニケーションが取れるようになり、現場にいることが認められ、最終的には自分の出したアイデアをやってみようと言ってもらえるまでになりました」
──素晴らしい進歩ですね。
「物作りの面白さを肌で感じたというか。それまでの20年間、何かに本気で打ち込んだことがなかったんですよ。俳優という仕事に出合って、初めてでした。現場を重ねるごとに興味や面白さが深まり、そのぶん難しくて壁にぶち当たったりもして。だけどその壁を越えたいと思うぐらい、興味や好奇心が勝って、この仕事をやれてよかったと感じるようになりました」
──俳優として自分が変わったと感じる作品を教えてください。
「映画『麒麟の翼〜劇場版・新参者〜』です。プロデューサーの伊與田英徳さんが僕を大抜擢してくださいました。阿部寛さんが主演で、物語の後半に阿部さんと僕が対峙する長いシーンがあるんです。撮影の前日に激しく緊張していたら、土井裕泰監督からメールが来て「ブルース・リーじゃないですけど『考えるな、感じろ』。明日は元気な体で現場に来てください」と。そのメールを読んだら肩の荷が下りて、無事にそのシーンを撮り終えることができました。今でも緊張して肩に力が入ったときは、その言葉を思い出します」
──緊張するタイプですか。
「ものすごい緊張しいですよ。もうバックバク。舞台に至っては、出の直前まで袖で震えていますよ」
──それでもこの仕事が好き?
「撮影部、照明部、録音部などそれぞれのプロがいて、俳優もプロとして現場に立つ。さまざまなジャンルのプロが一つの作品を共に作る、その空間が本当に楽しいです」
──お忙しい毎日でしょうが、もし2時間自由に使える時間ができたら、何をしますか。
「漫画喫茶に行きます。『ONE PIECE』はもちろん、昔の漫画を見返したい。今は『浦安鉄筋家族』(笑)。発想が素晴らしい。登場人物では仁が好きです。もっとフィーチャーされてほしい漫画、ぜひヌメロで特集してください(笑)!」
コート ¥54,000、シャツ ¥28,000 /ともにUru(スタジオ ファブワーク)
Photo:Hiroshi Manaka Styling:Shogo Ito Hair & Makeup:Koichi Takahashi
Interview & Text:Maki Miura Edit:Saori Asaka