世の中に渦巻くありとあらゆる“不都合”な出来事や日常の些細な気づき、気になることなどをテーマに、人気クリエイターのパントビスコがゲストを迎えてゆる〜くトークを繰り広げる連載「パントビスコの不都合研究所」。第23回は、平原綾香が登場。
パントビスコ「ご無沙汰しております。以前、ラジオ番組に呼んでいただいたり、コロナ禍に音楽プロジェクトに参加させていただいたりとご一緒させていただきましたが、久しぶりにお会いできてうれしいです」
平原綾香「こちらこそ、ありがとうございます。うれしいです、この対談」
パントビスコ「最初から無茶振りで申し訳ないんですが、この対談では毎回、お互いの似顔絵を描き合って、それを対談のアイコンにしているんです」

平原綾香「絵は好きですけど、人の顔を描くことはなかなかないですね。あ、可愛いお口ですね」
パントビスコ「ありがとうございます。初めて言われました(笑)」
似顔絵完成!
「かっこいいです! ちょっとダンディーですね。目を描かれなかったのは、初めてかもしれません」
「こんなにキラキラに描いていただいて。インスタとかでよく見ているこのタッチで自分の顔を書いていただけるなんて、うれしいです!」

「まずは新しいアルバムの発売、おめでとうございます。こちらはいつぶりになるんですか?」
「アルバム自体は昨年も出しているんですけど、オーケストラでのレコーディングというのが、デビュー23年目にして初めてなんです」
「それがちょっと意外だったんですよ。何度もそういう試みをされていると思っていたので」
「オーケストラでのライブというのは実は毎年やっていたんですけど、音源としてレコーディングすること自体が初めてだったので、私にとっても念願です」
「一足先に拝聴させていただきました。素人の意見になっちゃうかもですけど、オーケストラっていうと壮大で楽器数も多いので、そっちの方が強くなっちゃうのかなと思ったら、全然そんなことないんですね。平原さんの歌声とすごくマッチしてるなっていうのが、感想としてまず思いました」
「オーケストラのみなさん全員、イヤホンで私の歌を聴きながらレコーディングしたので、バランスも自ずと良くなりました。オーケストラと打ち込みのビートを融合させた楽曲もあります。自分で打ち込んだ曲もありますし、プロデューサーとしてロサンゼルスで活動している義理の兄に頼んでビートを作ってもらった楽曲もあります」
「新鮮で面白い表現だなと思いました」
「もともと、打ち込みのビートが印象的な『虹の予感』なんて、デビュー曲から4枚目のシングルなので、かなり昔の曲なんですけど、オーケストラで演奏することで、また違った魅力でお届けできました」
フルオーケストラ、録音現場の舞台

「素晴らしい。どういう環境で録音されたのかイメージが全然つかないんですが、どんな感じだったんですか」
「それが、私の母校でもある洗足学園の前田ホールで録ったんです。コンサートホールで、オーケストラの皆さんが本当にコンサートをするような配置で演奏して、私は楽屋をボーカルブースのかわりにして歌いました」
「そうだったんですね。やっぱり響き方がちゃんとしてるんですよね? オーケストラ仕様になってるというか」
「そうです。クラシカルな編成の場合、普通のコンサート会場だと響かないんですよね。反響板っていうのがあって、ちゃんとマイクを通さなくても、響くようにできているのがクラシックホールなので。だから、フルオーケストラの場合は、そこでレコーディングしないと音が生きてこない」
「最高の環境でつくられたというわけですね。どのくらい楽器があるんだろうと思いながら聴いていました」
「全員で70弱ですね」
「すごい! 思った以上にありました。レコーディングを進めるうえで、大変だったことはありますか」
「オーケストラって時間管理がしっかりしているんですね。ここのタイミングで休憩、何時間やったら休憩する、というのが厳格に決められていて。それはなぜかっていうと、大所帯だから。1分1秒、厳しく心を鬼にして時間管理をしている人がいるから、オーケストラの方々も安心なんでしょうね。そこはポップスやジャズの現場と違うので、ちゃんと気を遣わなきゃいけないところですね」
「ライブもそうですけど、そういう緊張感がやっぱりあるんですね。お客様が前にいなくても、ちょっと緊張感を持ち合うというか」
「そう。基本的に一発録りくらいで録っていけるほど上手な方たちなので、間違えられないんです」
「そうですよね、プロ集団なので」

「私の歌を聴きながらレコーディングしていただけたのも嬉しかったです。大所帯だと、指揮者とコンマス(コンミス)のみ、イヤホンをつけることが多いのですが、今回はフルオーケストラ全員のイヤホンを用意しました。『虹の予感』や『Friends on Ice』など、とくに打ち込みのビートが重要な曲もあるし、『Jupiter』も、途中までクリックを聴きながらレコーディングするなど、いろんな方法で進めていきました。人数が多いとお弁当の数も多い。お弁当があるかないかで、俄然やる気が変わるので(笑)」
「どのお仕事もそうですよね(笑)」
「美味しいお弁当が必要なので、急遽今半の社長に『オーケストラなんですけど』って言ったら、『ガッテンだ』って言って、お肉を用意してくれたり」
「チームプレイでみんなで作り上げたということですよね。もう一つお聞きしたいことがあって。ご自分を楽器に例えるとなんでしょう? 平原さんの声自体が楽器だなって今回のアルバムを聴いて思ったんですよね」
「ありがとうございます。私はサックスをずっと吹いているので、いつもサックスをイメージして歌っているんですけど、低い声とかは、チェロの音をイメージすることはありますね。だから音域によってちょっと変わったりするし、最近だと二胡奏者のウェイウェイ・ウーさんと一緒にシングルをリリースしたときは、二胡の気持ちで歌うので、ちょっと二胡っぽくなるし」
「すごい。カスタムって言ったらあれですけど、自在に合わせることができるんですね。そのときの気持ちだったり、発声というか」
「ボイスパーカッションとか上手な人たちいるじゃないですか。だから、人間この世にある音は、すべて作り出せるものなんだなって。音が存在する以上、その音は人間で再現出来るんだって思わせてくれたんですね。ボイパの神たちが」
「僕も以前ライブ拝見したときに、平原さんがボイパをされるって全く知らなかったんですよ。だからびっくりしたんです。今回も協奏曲でやられてますよね。本当に声から楽器のように操っていて面白いなと思いました。なんでもできちゃう」
『Jupiter』が心に響く理由
「リリース時と今とで、違って感じることってありますか?」
「当時よりも音域が広くなってるから、あのときできなかったものができるという自分にとっての驚きもあったし、あのときどうやってやってたんだろうっていう、無意識でやってることの恐ろしさみたいなものもあって。たとえば『Jupiter』の歌い出しも、息を吸ってすぐ歌っているので、息と声が同時なんですよ。今歌ったら、普通の人間が歌っているみたいな感じになるんですが(笑)。あのときはあのときの良さがあったんだなという」
「僕は基本絵を描いて活動してるんですけど、やっぱり自分が思っていることだったりとか、気持ちが乗ってることじゃないと、伝わりにくいというか。逆に、あんまり響かないかもなって作品でも、めちゃくちゃ強い気持ちがこもっているものは意外に反応が良かったりするんですよ。だから、ちょっと失礼ながら同じものを感じました。ご自分が全て大切にされてて、いろんな思いを持たれて歌ってるから、きっとそれが伝わったのかなと思いました」
「うれしいです。でも人生ってその逆が多くて、私。もう今日のライブ絶対だめだったでしょうっていうのが、今までで1番良かったって言われたりするし」
「それはご自身ではなぜだと思いますか?」
「多分ね、エゴがなかったから。うまく歌ってやろうとか、うまく聴かせようとかじゃなくて、『今日は調子が悪い。でも声が出るだけでもありがたい。ありがとうございます』って思って歌ってるとか。全然ダメだな、今日ダメだなっていうときの方が、多分命を削ってるので、その削りカスみたいなのがキラキラ見えるんだと思うんですよ」
「素敵。だから心に響いてくるんですね。そっちの方が」
「これは絶対って気持ちを込めたものが反応が良かったっていうのは、私にとっては『Jupiter』だったんですよ。たくさんの人が聴いてくれることしか考えてなかった。9.11の2年後だったので、今この大変な世の中で、この歌でみんなが癒されて前に進むんだって当たり前に思ってて。信じ込んでたんですよ」
「気持ちに不純物がなかったのかもですね。100%の気持ちが込められてるから、みんなに聴いてもらえるようになったんでしょうね。今回のアルバムはどういう気持ちの方に聴いてもらいたいですか? 僕自身、個人的にめちゃくちゃ癒されたんですよ。声の波長というのか、聴いててリラックスしました」
「私自身、レコーディングしてる最中に何度も泣きそうになっちゃって。やっぱり父を亡くしたっていう思いも抱えながらの歌だったと思うんですけど、昔歌った曲、『明日』とか『おひさま〜大切なあなたへ』とか。こんなに悲しくて愛しい歌だったんだって気づかされたんですね。今回改めてレコーディングをして。だから私自身もパントビスコさんと一緒で、癒されたんですよ」
「ご自身で歌いながら」
「オーケストラの音にも癒されたし、自分の声を聴いてても癒されました。あともう1つは、なんか若返る感じがしたんですよね。細胞が元気になる感じ。今回、2日間で11曲レコーディングしたんですね」
「それも驚いたんですよ。そんなに短期間でぎゅっとできるものなんですか」
「やっぱり、オーケストラの皆さんの素晴らしい演奏があってこそ実現したことなんですよね。きっと疲れてるだろうけど、体が元気だった。オーケストラの音に癒されて、細胞も若返って、『これから頑張ろう』って思えたのは、オーケストラの力だなって。だから私にとっては、これが、『マイオーケストラ』だと思うのと同時に、お客さんにとっても、『オーケストラのアルバムといえばこれ』という、皆さんの、『マイオーケストラ』になったらいいなと思っています」
「素敵です。今回のアルバムにぴったりのタイトルですね」
AIの時代、これからどう生きる!?

「平原さんが普段感じる不都合はありますか。もう本当に些細なことでもなんでもいいです」
「いっぱいあります。この間も、常温で売られてた干し芋を買ったんですね。そしたら要冷凍って書いてあるんですよ」
「それ見ました!めちゃくちゃバズってましたよね。結局どうなったんですか?」
「スライスしていると菌が繁殖しにくいらしいのですが、私が買ったのは棒状のもので。水分量が多いと、1回袋を開けただけでも、何か触れた時に雑菌が繁殖しやすいんですって。だからすぐに食べないんだったら、冷凍した方がいいそうです」
「常温のものだと思ってたのでびっくりしました」
「そうなんですよ。そこらへんが私は不都合だなって思いました。ちゃんと説明してくれないとわからないなって」
「でも、皆さんに学びを渡すことができましたね。食中毒を減らしましたよね」
「不都合といえば、アル・ゴアさんの『不都合な真実』という映画観たことありますか?まさにその映画を観に行ったら、不都合なことが起こって。私ポップコーンを食べるの好きなんですが、食べてたら隣のお客さんが『静かにしてください!』って。ごめんなさいと思って、ずっと音が出ないようにポップコーンを上顎で押しつぶして食べてたんですね。それでも気になるみたいで、また『静かにしてください!』と言われて」
「ちょっと神経質なんでしょうかね」
「そしたら、その方が急にいびきをかいて寝出しちゃったんです」
「さっきまでうるさいと注意してきた人が」
「不都合でしょう? だからもう全然映画が頭に入ってこなくて」
「もはやコントですね。僕も最近不都合なエピソードがありまして。AIって最近みんなが扱っていますが、自分ではどうなのかなっていうところがまだあるんですよ、実は。自分の犬のキャラクターでぺろちというキャラがいるのですが、何かお祝いのイラストを自分でアップしたときに、フォロワーの方がおめでとうございますって画像を添付してリプしてくださったんですよ。その画像がAIに作らせたぺろちの3D化したイラストだったんですよね。ちょっと違和感を感じちゃって。僕が大事にしたキャラクターを、『ぺろちの可愛い絵作って』って5秒で作ったやつが本人に投げられて、なんか気持ちよくないなって思ったんですよ」
「そうだったんですね」
「だから、AIの使い方って、場合によっては人を悲しませたりとか、権利の問題ももちろんありますけども、ちょっと自分は気を付けなきゃなと思ったことがあります。音楽の場合はどうですか?」
「このAI時代、誰もが音楽を簡単に作れちゃうんで、ちょっと切ないです。20秒ぐらいで2曲とか作れたりするんじゃないかな。以前、仮歌を歌っている方がとっても上手で、息が長くて、私もその人みたいに息継ぎしないで練習して歌えるようになったんですけど、レコーディングが終わった後、どなたが歌ってるか聞いたら『AIです』って(笑)」
「はい。ブレスがないですよね」
「AIを超える歌を歌おうっていう気持ちに切り替えたんです。人間が作り出したものの総合がAIの結果だから、人間が作り出したものを学習したAIが作り出したものを更に超えてやる!って思ってます」
「ポジティブすぎる。そんなコメント初めて聞きました。オーケストラってアナログじゃないですか。だからAIの真逆だなって思って、どう思ってらっしゃるのかを知りたかったんですよ」
「オーケストラは、当たり前ですけど同じ楽器で同じ弾き方をしていても、みんなちょっとずつ違うんですね。でも、そうじゃないと、あの響きにならないんです。今回、ひとりオーケストラとして、声の多重録音をした楽曲があるのですが」
「ボーナストラックの『夢のあとに』ですよね。まさに鳥肌が立ちました。本当に1人の声だと思えませんでした」
「あれもちょっとずつ声質を変えていかないとハモらないので。だから、金子みすゞさんの『みんなちがって、みんないい』じゃないですけど、違うからいいんです。AIにはできないこと、整っていないものが究極の美を生み出す。不都合は美なのかもですね」
「対談テーマを見事に回収。素敵なアウトロいただきました」

「my Orchestra!」

2026年9月9日(水)発売
■通常盤 ¥3,850(税込)VICL-66160
※通常盤:各予約サイトはこちら
■VICTOR ONLINE STORE 限定セット¥7,150(税込)
(CD+PHOTO BOOK) / VOSF-16237
※オフィシャルファンクラブ “Camp A-ya! Angel”専用カート
【LIVE】平原綾香 Concert Tour 2026 ~ my Orchestra! ~
[埼玉]2026年10月3日(土)所沢市民文化センター ミューズ アークホール
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
[東京]2026年10月11日(日)・12日(月・祝)Bunkamura オーチャードホール
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
[愛知]2026年10月24日(土)愛知県芸術劇場 コンサートホール
演奏:セントラル愛知交響楽団
[宮城]2026年11月8日(日)東京エレクトロンホール宮城
演奏:仙台フィルハーモニー管弦楽団
[兵庫]2026年11月14日(土)神戸国際会館 こくさいホール
演奏:大阪交響楽団
[大阪]2026年11月15日(日)フェスティバルホール
演奏:大阪交響楽団
[東京]2026年11月23日(月・祝)洗足学園 前田ホール 演奏:東京フィルハーモニー交響楽団 ※追加公演
https://www.camp-a-ya.com/contents/1054220
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Photos: Ayako Masunaga Hair & Makeup: Hiromi Styling: mariko Edit & Text: Yukiko Shinto
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