日常のなかにアートが息づく街、パリ。異国の空気に身を置きながら自らのルーツを探り、自分らしさを模索する日本人女性クリエーターたち。皿の上に季節を映し、土に触れ、花と対話する。そんな彼女たちの現在地を見つめる。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年7・8月合併号掲載)
田浦千花子
日常に彩りを添える花々

パリ2区のフローリスト、千花子さんの店「CHIKAKO」は、日曜日になると、まるで街の呼吸と同調するように人々が吸い込まれる。生活の中で当たり前に存在する花を求めて。「マルシェに行って食材を買って、花を買って、家でご飯を作って、そんなみんなのいつもの生活の一部になっている感覚が嬉しい」

日本では美術大学を経て空間演出の仕事に就き、その後ホテル内の花屋へ。「目の前でブーケを作るとお客さんの歓声が返ってくる。そのやりとりが面白かった」と語る。「雑誌で見るパリの花の現場を見てみたい」という思いで、フランス語もままならないまま渡仏した。やるなら憧れのフローリスト、ステファン・シャペルの下で働きたい。自筆の手紙も書き、今思えば大胆なブックを送り、ようやく研修できることに。


現場で経験を積み、早朝の買い出しから深夜の生け込みまで寝る間を惜しんで働いた。「まるで一年が10日で過ぎるような感覚でした」。また身体的にパリの花を学んでいく。転機となったのは、パリでは5本の指に入るほど人気のドボリューのピエールの右腕として6年勤めていたときにやってきたコロナ。
「コロナをきっかけに仕事が一段落したときに、自分で店を持ってみたいという気持ちが強くなり。今の物件に出会い、気に入ったので即決しました。自分の店を持つことで、以前よりも自分の好きなものが何か、表現したいものが何かがより明確に見えるようになりました」

オープン以来、大ぶりの枝を大胆に使ったスタイルなどが評判になり、今ではロエベやアライアなど一流メゾンの仕事もこなすように。だが彼女は自らを「アーティストではなく花屋」と位置付ける。「そのブランドがより素敵に見えるように、お手伝いができる花屋でありたいと思っています」

一方で彼女の原点はあくまでも店にある。「お客さんとのやりとり、それだけのためにやっている気がします。もう一度、店売りにしっかり向き合いたい。ビジネスの基本というか、お客さんを大事にしたいです」。拡張を続けるキャリアの中で、彼女が見つめ直しているのは、世界どこでも変わらない原点だ。日曜日、ごく普通の生活を送る人々に花を手渡す。買う人の笑顔を求めて。そんなシンプルな時間こそが、彼女の表現の核であり続けている。

Photo: Yusuke Kinaka Interview & Text: Hiroyuki Morita Edit: Shiori Kajiyama
