旅のプロ、ダージリン コズエによる連載。世界中のあらゆるデスティネーションを行き尽くし、現在も国内外問わず旅に赴く玄人トラベラーが語る、“人生最高の旅”。

今年のパリは度重なる熱波にやられています。日本でもニュースで話題になっているようですが、異例なことに5月に30度を超える日があり、6月には長く厳しい熱波に見舞われ、パリでも40度を超える日が続き、7月中旬にも再び厳しい暑さが続きました。
日本の夏のようなまとわりつく湿度は少ないものの、この熱波の時の状態を表現すると、夏の東京で室外機の前に立っているような感覚に似ています。外を歩いていると、熱風がぶぉ〜んと全身に直撃してくる感じです。
フランスの一般家庭でのエアコン普及率は、ADEMEの調査によると24%ほど。パリでは古い建物が多く、外観上の制限や、共同住宅の規約などで、室外機の設置が厳しいケースがあり、パリでの普及率はさらに下がると思われます。私が住むアパルトマンにももちろんエアコンはなく(ちなみにメトロにおもエアコンのない車両が多い)、昼間はエアコンのきいたオフィスへ避難し、夜は帰宅後すぐに水に近いぬるめのシャワーを浴びて扇風機で体を冷やし、冷蔵庫から麦茶を取り出し飲み、夕食もできるだけ火を使わずに済む夏野菜のサラダを食べ、アイスノンで後頭部を冷やしながら寝ます。
そんな熱波が7月の中旬にパリを襲った時、ちょうど私はフレンチアルプスにあるムジェーヴ(Megève)というところへ行ってきました。モンブランの西側に位置し、冬場は高級スキーリゾートとして人気のエリアのようで、夏場もハイキングやキャニオニングなどのアウトドアを楽しむことができます。

ムジェーヴの村の標高は1,113mで、最高気温も私たちが滞在した時は25度くらいで、朝晩は上着がないとひんやりするほど。軽井沢の高原エリアのような感じでしょうか。熱波が襲ってきたタイミングで訪れた私たちにとってはもうそれは快適そのもの。
旅の目的は涼しい大自然の中で絶景を見ながら軽くハイキングをしたり、プールやサウナ、ハマムなどでくつろいだりする山リゾートでのプチヴァカンスです。
ムジェーヴの村の中心には石畳の道が広がり、ラグジュアリーショップやミシュランガイド掲載店のレストランや、スターシェフの高級レストランやなどがあり、またホテルもフォーシーズンズやルレ・エ・シャトーのホテルをはじめとする5スターのホテルも多くあります。

今回は車なしで電車とUberで行ったので、どこへ行くのも便利なように村の中心にある5つ星のブティックホテル「ル・M・ド・ムジェーヴ(Le M de Megève)」に滞在してみました。

ロケーションの良さに加え、室内にプールやサウナ、ハマムもあるから、天気が悪かった場合ものんびりできそうだなと思い、ポチって予約しました。
今回も、いつもながら取材ではなく、完全自腹のヴァカンスだったのですが、いつもと違うのは、ホテルについての詳しい情報があまり見つからず、到着するまで少しドキドキ。

到着するとアルプスの木の温もりを感じられるアルプスらしいシャレースタイルとモダンでラグジュアリーとが融合されていて結構好きなタイプでした。スタッフの方々も対応が温かくかつフレンドリーで、熱波でだいぶ体力・気力ともに消耗していたので、マウンテンリゾートのおもてなしにほっこり。

翌日、ホテルでしっかりと朝食をとった後、ホテルの目と鼻の先にある村の観光局へ行き、運行しているケーブルカーを聞いて、おすすめコースなどを教えてもらいました。そして近くのスーパーで水やバナナやドライフルーツなどを購入し、ハイキングへ出発!
一緒に行った友人がかなりハイキング&トレッキング好きで慣れている子だったので、ハイキング用のアプリを使って、ハイキング初心者の私のために標高差やルートについて詳しく調べてくれ、まずは村の中心を通って、山道を登りながらケーブルカーのスタート地点を目指します。
ちょっとした坂道でも、日頃の運動不足がたたって、ゼーゼーハーハー。

しかし、シャレースタイルの家々や、村の至る所にかわいい教会があり、歩いていても楽しく、たまに景色が良いところの木陰のベンチで水分補給し、村を一望し周囲の山々を見ながら、再び歩きはじめます。

高級リゾートエリアだからか、アイロンがピシッとかかったシャツに緩めのパンツとスニーカーでワンちゃんの散歩がてら軽やかにサクサクと歩いて行く人たちとすれ違い、「ボンジュール」。山では、世界のどこでもすれ違う時に挨拶をするものなんでしょうね。なんだか気持ちいい。
また、ムジェーヴの見晴らしのいいところにはところどころアート作品も飾ってあり、初心者ハイカーにとっては、ガチすぎずにいい。

そして30分ほど歩き、ついにケーブルカー乗り場へ到着。
冬はスキー場、夏はどうもゴルフ場と化した山の斜面をケーブルカーで1,800メートル近くまで一気に登っていきます。
山の装備を持っていない私は、いつもSUPで使っているラッシュガードと短パンとレギンス。速乾性があり、海でも山でもすごく重宝しています。直射日光が暑かったので、ケーブルカーのところで長袖のラッシュガードとレギンスを脱ぎ、日焼けする気満々で山へ。

そこからしばらく上り坂を歩きます。
もう今から20年近くも前になりますが、編集者として駆け出しの頃、「地球の歩き方」の編集の仕事に携わっていたことがあり、担当がスイス編だったので、アルプスの景色をみて、若かりし頃の自分をふと思い出しました。
あの頃は、海外旅行をするのがただただ嬉しかったものです。この20年でいろんな経験と体験をしてきたおかげで、知らない世界を楽しみ、学ぶことで、目が肥えるのと同時に、あれこれ「足りないもの」へ目がいくようになり、文句が増えた人間へと仕上がってしまいました。
そんな私に旅の初心を忘れるなと喝を入れてくれたのが、まさにこの景色。

道路脇に咲くかわいい高原植物や、遠くにそびえる雄大なモンブラン。モンブランは、フランスとイタリアの国境に位置し、標高4806メートル。アルプス最高峰であり、西ヨーロッパ最高峰です。
あー、なんて幸せなんだ、こんな素晴らしい景色を見ることができるなんて。しかも私たちがハイキングをする前日の昼過ぎまで雨だったらしく、久しぶりにいい天気だったらしいのです。旅の運に感謝!
モンブランをはじめとするアルプスの山々を眺められる絶景ポイントにカフェ&レストランがあったので、そこで一旦休憩をすることに。

素晴らしい見晴らしの場所にただチェアが置かれているだけで、カフェ&レストランの店内でドリンクを買い、好きなところに座って、のんびり。

チェアに腰掛け、目の前に広がる景色を見ているだけで幸せ。長年、ラグジュアリー界隈で仕事をしてきていますが、大自然の絶景を越すラグジュアリーってあるのかしら?と思うことがあります。物でもサービスでもないラグジュアリー。

360度どこの眺めもすばらしく、ついついスマホで写真を連写してしまいます。
雄大なモンブランの姿をたっぷりと堪能したら、少し歩いたところに湖っぽいのがあり、そこからの景色も良さそうだったので、草原に囲まれた平坦な道をしばし歩いて行きます。

高原植物には蜂が集まり、蜂のビーというかジーという音が聞こえ、放牧された牛たちが動くたびにカウベルの音が聞こえ、なんとも言えないのどかな雰囲気がいい。

つい、アルプスの少女ハイジの歌を口ずさんでしまうほど(ハイジの物語の舞台のモデルはスイスのマイエンフェルト周辺ですが)、あのアルプスの世界が広がっているのです。
そして、草原を抜けると、こぢんまりとした湖(というより池に近い)へ到着。

木のベンチやテーブルが数カ所あり、そこでリュックからサンドウィッチや果物を取り出して食べるハイカーも何人もいて、まさに最高の贅沢のランチ。
山登りというと、小さい頃からサマーキャンプとかで、夜明け前から出発し山頂を目指し「人生は山登りと同じだ!」的な感じのもので育ったので、本当に山登りが好きでなかったのですが、中年になり、のんびりと絶景を見ながら歩くという、こんなにもチルな山の楽しみ方があるとは。
連れて行ってくれた友人に感謝するとともに、帰りは来た道と異なる森の中などを通り、村へ戻ってきました。なんだかんだで合計15キロくらい歩いたかな。ホテルに着く頃には、太ももの前側がすでに痛み始めており、ホテルのプールへ。

スチームサウナに入ったり、プールに入ったりし、足をほぐし、プールサイドのチェアでしばしうたた寝し、のんびりとしたフレンチアルプスでのプチヴァカンスを楽しむことができました。
初心者向けのハイキングで絶景を楽しみ、村のレストランでフレンチアルプスのチーズやヨーグルトなど美味しいものを堪能し、ホテルではサウナやプールもありのんびりできる、ムジェーヴの旅。チルったフレンチアルプスのバランスの取れた旅は、人生最高の旅のひとつとなりました。そのうち、シャモニーからの本格的なトレッキングに出たり、ロープを使う登山に挑戦したりする日も来るかもしれません。

ムジェーヴ観光局
URL/www.megeve-tourisme.fr/en/
ル・M・ド・ムジェーヴ(Le M de Megève)
URL/en.mdemegeve.com/
ダージリン コズエが行く、人生最高の旅
Photos & Text:Darjeeling Kozue
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