
厳島神社という世界遺産がありながらも、宿泊の選択肢がこれまで少なかった広島県の宮島。そんな宮島に、わざわざ足を運びたい旅の拠点が誕生した。それが「HOTEL FORK & KNIFE Miyajima(ホテルフォークアンドナイフ宮島)」だ。広島、瀬戸内海の食材を使った薪火ガストロノミーから、温泉、アートに包まれたデザインホテルでの滞在が一度に叶う。
A字型構造の建築、広島ゆかりのアートに彩られたホテル

ホテルがあるのは、JR山陽本線「宮島口駅」から徒歩7分ほどの小高い丘の上だ。館内に足を踏み入れると、厳島神社の能舞台に着想を得たギャラリースペースと広島県で作られた提灯の照明が出迎えてくれる。デザインを手掛けたのは、数寄屋建築の名匠「中村外二工務店」で研鑽を積んだ建築家・美術家の佐野文彦氏だ。館内随所で地域の文化と日本の美を表現している。

そして、ホテルのアートディレクションを手掛けたのは、東京の千駄ヶ谷でインテリアショップ「Playmountain」、喫茶店「Tas Yard」を展開するLandscape Productsだ。「繋泊(けいはく)」をコンセプトに選定し、書・水墨画・日本画・陶芸など伝統美術を現代的に表現し、アーティストとゲストをつなぐ。

特に目を引くのが、日本画家・丹羽優太氏によるオオサンショウウオ(大鯢)と赤い斜線(朱の楔)を描いた『滄海朱楔図』だ。古来よりこの地で信じられてきた自然災害を防ぐという祈りや、自然と人間との調和のメッセージを表現している。

そして広島発セレクトショップ「ref.」の宮島店として、館内に「ref.Miyajima」も出店した。独自の感性で選び抜かれたクラフトな逸品がそろう。

さらに象徴的なのが、館内に常設された特別展示スペース「THE STUDY」の存在だ。ここでは、1958年に映画『ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)』の撮影のために広島を訪れたフランスの女優エマニュエル・リヴァが撮影した写真作品が展示されている。

原爆投下から13年、復興の途上にあった広島の街並みと、そこで生きる人々の日常を静かに、しかし確かなまなざしで捉えたモノクロームの世界。この土地が持つ記憶と世界的なクリエイションの交差を体感できる空間だ。
2,400平米の敷地に全34室。宮島を望む天然温泉とサウナに憩う

ホテルの総敷地面積は2,400平米に及び、客室は全34室からなる。館内のフロアマップに目を向けると、シャープなA字型を描いていることに気づく。瀬戸内海と宮島に尖端が向かい、館内各所からその神々しい絶景を拝むことができる構造だ。

客室は全部で10タイプ。なかでも象徴的なのが、テラス付きの4つの客室だ。瀬戸内の穏やかな海風が吹き抜けるプライベートテラスからは、遮るもののない壮大な景色が広がる。

また、広さ50平米を誇り最大3名まで宿泊可能な「宵月(よいづき)」は、ミニマルでありながらも温かみがある。

数寄屋造りの技法を取り入れ、茶室にも用いられる上質な木材を使用した客室など、日本の伝統建築のエッセンスをモダンに昇華させた客室も用意されている。

そして、このホテルで最も贅沢な空間が、1階にわずか1室のみ設えられた180平米の最高級スイート「翠(みどり)」だ。最大4名まで滞在でき、ベッドルームやリビングの他、専用サウナや水風呂、露天風呂とテラス、キッチンまで備える。

身を委ねるべきは客室だけではない。最上階には、名湯として知られる宮浜温泉の運び湯を湛えた、水着着用で利用できる男女混浴の温泉温浴施設が待ち受ける。

開放的な内風呂と露天風呂に加え、特筆すべきはウッドチェアが並べられた広々としたデッキだ。高台の先端に位置するため、遮るものなく厳島神社の鳥居をはじめ、瀬戸内海と宮島が一望できる。山の緑の香りも清々しく、宮島フェリーや電車が行き交う様子を眺めていると、時間が過ぎていくのを忘れるほど心地よい。

さらに屋内には本格的なサウナと水風呂も完備。更衣室には水着も用意されているので、手ぶらでウェルネスエリアを利用できるのもありがたい。
牡蠣や穴子飯など広島食材×薪火のガストロノミー体験

ホテル名からもわかる通り、夜のダイニングで繰り広げられるディナーこそが主役だ。監修シェフとして厨房を率いるのは、『ミシュランガイド東京』で一つ星に輝く魚介フレンチ「abysse」でスーシェフを務め、『ゴ・エ・ミヨ』での掲載実績を持つビストロ「PEZ」のシェフ兼店主の石浜綾シェフだ。

現場でその思想を形にするスーシェフも「フロリレージュ」出身で「カンテサンス」のDNAを受け継ぐ。特筆すべきは、コースを通じてバターやクリームといったフレンチの伝統的な調味料をほとんど使用していないこと。醤油や麹や味噌、酒といった日本の調味料をメインに、 広島や瀬戸内のローカル食材そのものが持つ旨味を引き出す。
訪れた初夏のコースでは「飛龍頭 冬瓜 ウイキョウ」で幕を開けた。暑い季節の身体に優しく染み渡るようなスープで、ウイキョウ(フェンネル)の葉から抽出されたグリーンのオイルが鮮烈に香り、食欲が呼び起こされる。
続く前菜は「水ナス メロン マスカルポーネ」。薪で乾燥させた昆布を土台に、まろやかなマスカルポーネソース、広島県三次産の水ナスの浅漬け、メロンの酢漬けが重なりなんとも涼やか。「梶谷農園」のセロリの新芽(マイクロハーブ)の力強い青さが全体を引き締める。
呉市音戸の中野水産が育てる真牡蠣は、コースの真骨頂だ。低温のお湯の中で優しく泳がせるようにして火入れした牡蠣に、「チチヤスヨーグルト」のなめらかなプリンを合わせている。味付けは発酵塩レモン、釜で炊き上げられた宮島の塩、松の茶葉のスモーキーなオイル。牡蠣の旨味にスモーキーでクリーミーなヨーグルト、マイクロハーブの青さのバランスが良く、波打つように旨味が変化する。これには「賀茂金秀 純米吟醸」が寄り添い、ミネラルな酸が牡蠣の余韻を引き立てる。
続いて供される「茶碗蒸し 澄ましバター」は、岡崎おうはんの卵を使用。とうもろこし「ゴールドラッシュ」が、半分は蒸し、半分は薪で燻製にされてあしらわれ、2日間かけて8時間煮込んだ滋味深いコンソメスープが注がれる。「地鶏 レモン胡椒 よもぎ」では、長期飼育された「東広島こい地鶏」のもも肉を薪火で香ばしく焼き上げ、旨味を凝縮させた贅沢な黄身醤油とともに味わう。
「ズッキーニ 天婦羅 杜仲茶」に続き、魚料理は「鱸 初夏 生七味」。新鮮なスズキを熾火と薪火でしっとりと焼き上げ、自家製の生七味ペーストを合わせた濃厚なソースでいただく。
肉料理の主役は「広島牛 黒ニンニク 新生姜」だ。なかやま牧場の広島交雑牛サーロインを薪火でローストし、三原の黒にんにくソースとともに。これには名作「シャトー・モン・ペラ」が溶け合う。
締め括りは、意表を突く形で供される「穴子飯」だ。あいがも農法で作られた「あきさかり」を風味豊かに炊き上げ、ふっくら仕上げた穴子をのせている。伝統菓子を再解釈した「いがもち カモミール」や、いちごのメレンゲ寒天「茶菓子 淡雪」など、コースを締めくくるデザートの余韻も素晴らしい。
ミッドナイト・ラウンジの誘惑、日常へと繋がる朝

ディナーを終えたあとも、ホテルの夜は終わらない。穏やかな瀬戸内の気候と清らかな水に恵まれた広島は、古くから「日本三大酒処」のひとつとして知られ、全国的にも評価の高い名酒を数多く生み出してきた地だ。

館内のバーラウンジでは、戸河内トンネルで熟成された国産ウイスキー「戸河内 Single Malt」など、県内各地の蔵元による地酒のほか、生産者やインポーターとのネットワークを通じて選び抜いたワインを取り揃える。宮島の夕焼けをイメージしたオリジナルカクテルを嗜むのもいいだろう。

翌朝は、ぜひ和御膳朝食を。あきさかりの土鍋ご飯に「瀬戸内の恵 鯵 祇園パセリ」、「天然さわら ゆず味噌幽庵焼き」や大ぶりの「宮島浅利 味噌汁」など、一品一品丁寧に仕上げられた料理が身体の細胞を穏やかに目覚めさせていく。

滞在の合間には、フェリーに乗って厳島神社や宮島観光へ。神聖な空気が漂う島をのんびりと歩き、穏やかな瀬戸内の潮風に触れていると、日々の忙しさで強張っていた心身がすっと軽くなっていくはずだ。
広島や宮島という土地の歴史や文化に触れ、館内に散りばめられたアートに刺激を受け、シェフや地域の生産者たちが共創する料理に満たされる。「HOTEL FORK & KNIFE Miyajima」は、カルチャーリトリートという新たな旅のスタイルを提示してくれるホテルだ。
HOTEL FORK & KNIFE Miyajima
住所/広島県廿日市市宮島口3-3-15
TEL/0829-30-5250
URL/https://hotelforkandknife.com/
取材協力:HOTEL FORK & KNIFE Miyajima
Photos & Text: Riho Nakamori
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