
2026年3月に金沢でオープンしたアートギャラリー「YAMADART」は、旅と創作が交差する展示空間。運営しているのは加賀市・山中温泉にある老舗旅館「花紫」で、アーティストが温泉地に赴き、土地を歩き、滞在しながら作品制作を行ってもらう。そんなアーティスト・イン・レジデンスの機能も備えている。現在、開催しているのは、エレノア・ヘルボッシュの展示「Quiet Matter – 佇むもの –」。彼女の展示から、現代アートと土地の風土、異なるコンテクストが交差する場について紹介する。

「YAMADART」は、金沢駅から10分ほどバスで行った「香林坊」で下車し、歩いて2分ほどの場所にある。百貨店や高級ブランドのショップが立ち並ぶエリアである一方、周辺には古い瓦屋根の町家や武家屋敷が残り、近代都市と歴史が混在する金沢らしい景観が広がる。一本小さい通りに入ると、全3階建てのビルがあり「YAMADART」に辿り着く。
本展の準備にあたって、エレノア・ヘルボッシュ(以下、エレノア)は4月中旬頃から石川県に入り、「花紫」に滞在しながら制作を行ったという。タイトルにあるように、自然界の言葉にならない気配や精神性のあいだにあるものを探求し、キャンバスに表現している。大型作品6点には、墨に加え、石川県の土や滝ヶ原石を砕いた素材など、土地由来のものを使用。それらの作品に加え、彼女の拠点であるベルギー・アントワープで制作した作品も展示している。

「作品制作は、その土地や環境を身体的に経験することから始まります。自然豊かな石川県に身を置き、風景や、この場所で過ごした感覚そのものが作品に影響を与えました。この時期に日本で制作できたことはとても特別な経験でした」(エレノア)
美術大学では陶芸を学んだというエレノア。土は彼女にとって絵具と同じく重要な素材のひとつ。大胆に伸びた筆跡がまず目に飛び込んでくるが、作品に近づくと、土の異なる粒子感や質感をよく確認することができる。制作する環境下の天候や気温、季節によって、キャンバスに表れる色やテクスチャーが変化するというから不思議だ。
また、作品の背景に日本のアクションペインティング的な文脈があったことが、今回の「YAMADART」での制作・展示につながったという。
「日本のアクションペインティングに興味を持ったのは高校生の頃で、その後、美術学校ではKazuo Shiragaのような作家についてたくさん学びました。今でも、そうした作品が持つエネルギーや動きに魅了され続けています」(エレノア)
今回の滞在制作において、新たな挑戦だったのは、初めて制作した掛け軸作品。アントワープでは4mを超える大きなキャンバスに向かっている彼女にとって、小さい作品を作ることは全く異なるプロセスを辿ったという。
「この作品を見て、能登の素材を使って作品を作って欲しいというリクエストをいただきました。もともと日本の文化に興味がありましたが、本当に惹かれたのは、日本にあるクリエイティブなエネルギーです。何度か日本を訪れていますが、最初に日本で過ごした時間はいまでも鮮明に覚えていますし、ここで過ごした経験も、間違いなく自分の制作活動に大きなインスピレーションとなっています」(エレノア)

「YAMADART」の試みは、現代アートを展示することに留まらず、もともと旅館を営んできたルーツを生かして、現代アートと旅、工芸、土地の風土、ストリートカルチャーなどの垣根を超えてブレンドすること。かつて北大路魯山人のような芸術家をはじめ、文人や旅人が温泉に浸かりながら創造性を発揮したように、これからも石川県に海外のアーティストを招き、土地に触れながら作品を残してもらうという。そんな新たな現代アートの拠点となって、日本の魅力を問い直す取り組みが始まっている。金沢や山中温泉を訪れる際に、必ず立ち寄りたいスポットだ。

エレノア・ヘルボッシュ「Quiet Matter – 佇むもの –」
会期/開催中〜6月21日(日)まで
YAMADART
住所/石川県金沢市香林坊2-12-35
営業時間/金・土・日:12:00〜17:00(月〜木は予約制)
※展示によって変動の可能性あり
入場料/無料
URL/https://yamadart.com/
Instagram/@yamadart_japan

山中温泉 花紫
山中温泉を代表する老舗旅館の一つで、1902年創業。近年は伝統的な温泉旅館としての魅力を残しながら、アート、工芸、食、デザインを取り込み、「現代的な温泉体験」を提案。館内にはギャラリー機能や茶房もあり、YAMADARTの母体としても知られている。渓谷・鶴仙渓に面したロケーションも特徴。
住所/石川県加賀市山中温泉東町1丁目ホ17-1
TEL/0761-78-0077
URL/https://www.hana-mura.com/
Instagram/@hanamurasaki_official
Photos:Nik van der Giesen Text:Aika Kawada




