韓国、オランダ、フィンランドの自然派ワインはどんな味? RAW WINE TOKYO参加レポート
RAW WINE TOKYOへ
世界最大級の自然派ワインの祭典「RAW WINE TOKYO(ロウワイン トウキョウ)」が、5月12日、13日に都内で開催された。
今回が初開催のこのイベントは、世界15か国から集まった90以上の自然派ワインの生産者と直接交流しつつ、彼らの造るワインをテイスティングできるという夢のようなイベント。
そのイベントにワインブロガーが潜入してきた。注目したのはふたつ。「クリーンな自然派ワイン」と「世界の自然派ワイン」だ。
クリーンな自然派ワイン
「自然派ワイン」と言っても、実は定義は様々。RAW WINEでは、「ブドウは手で収穫を行う」「滅菌濾過しない」など10種類の基準を独自に選定し、基本的にはそれを満たすワインだけが出展されている。
ここ10年ほどで一気に市民権を得た感のあるナチュラルワインだが、中にはすごく酸っぱく感じるものもあれば、香りが独特で飲み手を選ぶようなものものないとは言えない。ワイン好きの中には、やっぱり昔ながらのクラシックな造りのワインのほうが好き、という人が少なくないのも事実だ。
しかし、今回話を聞いたあるインポーターの担当者が「最近は、若い生産者を中心に“クリーンなナチュラルワイン”が主流になってきています」と語っていたように、自然派ワインながら“いかにも自然派ワイン”という味わいではなく、飲んだだけでは自然派とわからないような造りをしているケースもある。
その典型例だと感じたのが、シャンパーニュの生産者として唯一参加していたアンドレ・ボーフォール。“ビオディナミ”と呼ばれる自然派ワインと密接に関わる農法を、当地で取り入れたパイオニア的生産者だ。
一般に農薬の使用量が多いとされるシャンパーニュで、1960年代に当主が農薬でアレルギーを発症したことからやむをえず自然農法を導入。シャンパーニュでは二次発酵を行う際にショ糖を添加するのが一般的だが、それも自分たちの畑で採れたブドウを濃縮して添加し、ブドウ本来の甘みを活かす(しかも酵母は天然酵母)など、凝った造りをしている。
テイスティングした「グラン・クリュ アンボネイ・レゼルヴ・ブリュット」の味わいに驚かされた。染み入るようなうまみと美しい酸、聞かされなければ自然派ワインとは到底思わないであろう、どこにも引っかかりのないクリーンでスムースな味わいだ。
この日は限られた時間の中で数多くのワインをテイスティングしたが、このようにクリーンなワインが多くあった(後日、リテーラーの知人と会話をしたが同様の意見だった)。このクリーン&ナチュラルなスタイルが、今のトレンドなのかもしれない。
世界の自然派ワインの造り手たち
さて、もうひとつ注目したのが世界各国の自然派ワインだ。ワインというとフランス、イタリア、スペイン、ドイツといった欧州諸国、そしてカリフォルニア、オーストラリア、チリといった国々が思い浮かぶが、今回のRAW WINE TOKYOには、文字通り世界中から多彩な国の生産者が集まっていた。
たとえばスロバキア、スロヴェニアといった中央ヨーロッパ諸国。レバノンやジョージアといったワインの原産地とされる国々。メキシコ、ペルーといった中南米の国々。さらには北欧、そしてアジア……といったところ。筆者はワインが大好きで、常に色々な国のワインを探し求めているが、それでも飲んだことのない生産国がいくつもあった。
フランスやイタリアのワインは飲む機会が多いが、台湾やフィンランドのワインを飲めるチャンスはそう多くない。というわけで、各国の自然派ワイン事情も探ってみた。
まず面白かったのはお隣・韓国のワイン。MEOGOMはソウルの中心部に位置するというガレージワイナリー。白と赤を1種類ずつ造っているが、白ワインの品種は「Cheongsoo(チョンソ)」という聞きなれないもの。なんでも、韓国の固有品種なのだそうだ。
「韓国では100ほどのワイナリーがありますが、自然派ワインを造っているのは3軒ほど。私たちは、このチョンソという固有品種の魅力を引き出したくて、ナチュラルな造りにしています」と、ワインメーカーのJoshua hojung chungさんが教えてくれた。
その味わいはアルコール度数が低いこともあってさっぱりとしていてスムーズ。焼肉やチヂミなど、韓国料理と合いそうな味わいだと感じた。
2か国2生産者をまとめてしまうのは乱暴だが、メキシコの生産者Botega Dos Buhosや、ペルーのBodega Murgaが口を揃えていたのは、「(メキシコやペルーなど)中南米の市場はコンサバティブ」だということ。
そんな中、メキシコのBotega Dos Buhosはフランス・ブルゴーニュのような冷涼な気候でエレガントなナチュラルワインを志向し、一方のペルーのBotega Murgaは太平洋から20キロという海の近くの砂質の土地で地元の品種によるクリーンなナチュラルワインを造っている。
酸化防止剤などの添加をごく少量に留め(あるいは使用せず)、フィルターも使わない自然派ワイン造りは微生物汚染と隣り合わせ。だからこそブドウが病気になりにくい土地でないとそもそも難しいという話を聞いたことがあるが、彼らはそのような土地でワインを造っているという印象を受けた。
メキシコやペルーのワインというだけで胸が躍るが、それがさらに自然派ワインだというのだからなおさら面白い。
オランダで造られる「PIWI品種」
さらに驚かされたのが、オランダ、ベルギー、フィンランドといった従来ブドウ栽培には適さないとされた寒冷な国の生産者たち。気候変動の影響でブドウ栽培の北限が北へと移動するなか、これらの国々がワインの生産国として存在感を高めていることがまざまざとわかった。
ややマニアックな話になってしまうが、オランダの生産者・ダッセムスはPIWI(ピーヴィー)と呼ばれる耐病性の高いハイブリッド品種を使ってナチュラルワインを造っている。オーナーが化学薬品の摂取にセンシティブな元アスリートなため、添加物を使わないナチュラルなワイン造りを志向しているのだそうだ。
PIWI品種は日本ではほぼ馴染みがなく、まだ国際市場でも一般的ではないと言っていい。しかし、これらワインの“新興国”がいち早く取り入れているというのが面白い。
ワイン好きの方は、こういうワインをワイン会に持っていくと、話題の中心になれるかもしれない。
フィンランドでワインが?
そして、ワイン会に持ち込んだらさらに盛り上がりそうなのがフィンランドのワインだ。Noita Wineryはオーストリアなどから原料となるブドウを輸入して、国内で製造しているというワイナリー。
フィンランドはワイン用ブドウの栽培地としては現状まさに北限のようで、自社でもわずかながら前述のPIWI品種を栽培し、地元レストラン用に醸造を行っているそうだ。
そのラベルは「いかにも自然派!」というイメージだが、テイスティングした「シャルドネ」は非常にクリーンで、ちょっと驚くほど美味だった。ブースに常駐していたインポーターの方も「このシャルドネがイチオシなんです」と太鼓判を押していたが、どこかで見かけたら手に取ってもらいたいワインだ。
このまま気候変動が進んでワイン用ブドウ栽培の北限が北に北に移動していったとすれば、いずれフィンランド国内栽培・国内醸造のワインが当たり前のように日本に並ぶ日が来るかもしれない。
気候変動は人類すべてにとっての脅威だが、ワインラバーとしては同時にワクワクしてしまう気持ちがないとは言い切れない。ワインとはかくも罪なものである。
日本のドメーヌ・タカヒコも大人気
このように、世界中の人たちが自然派ワインを造っていることを知ることができたのも、今回のRAW WINE TOKYOの収穫だった。忘れてはいけない、日本もそのうちのひとつ。日本を代表する生産者の一人、ドメーヌ・タカヒコのブースも大人気となっていた。
日本初上陸のRAW WINE TOKYOは、入場までに数十分かかるほど大人気のイベントだったが、その入場列では関西や九州のイントネーションが聞かれ、日本中から自然派ワイン好きの愛好家や関係者が集結している印象を受けた。
そしてその期待に応えるかのように、会場はまさに自然派ワインの“今”がしっかりと映し出されていたように感じられたのだった。
Photos & Text:Hima_Wine
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