嵐莉菜・奥平大兼インタビュー「国と人種を背負わなくちゃいけない“普通の”高校生がいる」
「国」「民族」「難民」と聞いて思い浮かべるものは? 川和田恵真が初監督を務める『マイスモールランド』が5月6日(金)に公開する。クルド人は「国家を持たない世界最大の民族」と呼ばれ、埼玉県に2,000人ほどのコミュニティがある。しかし、日本ではこれまで難民認定されたケースはないに等しい。幼い頃に日本へ逃れ、日本で育ったクルド人のサーリャ。埼玉の普通の高校生だが、家ではクルド文化を大事にする父親との間に葛藤を感じている。そのサーリャを映画初出演となるViVi専属モデルの嵐莉菜が演じる。サーリャとバイト先で知り合う、東京の高校生・聡太を演じる俳優の奥平大兼とともに、2人が体感したクルド文化や、撮影中のエピソードについて聞いた。
素の表情と演技が混在した、クルド人と日本人の高校生の青春
──嵐さんは映画初出演にして初主演です。撮影はいかがでしたか。
嵐「初めての経験だったので、先輩の奥平さんや、共演する方の足を引っ張るんじゃないかとすごく不安でした。でも、監督やスタッフ、キャストのみなさんが色々な場面で支えてくれたので 撮影中もすごく楽しくて、クランクアップしたときは寂しくて泣いてしまいました。撮影が終わって1ヶ月くらいは“撮影ロス”状態になりました。これからも、もっと演技に挑戦したいなと思っています」
──嵐さんに先輩と言われた奥平さんは、映画は2作目となりますが。
奥平「僕もまだ2作目なんですが(笑)、ドラマやCMの現場を経たので、前作に比べてカメラ位置に対してどう芝居をするかとか、良くも悪くも撮影に慣れてしまった部分もあったので初心に立ち帰ろうと。今、嵐さんの話を聞いて、僕もデビュー作で、撮影が終わって普通の学生生活に戻ったとき、全く同じ感覚だったのを思い出しました。今作も撮影期間にいろんな場所に行って、すごく楽しかったです」
──特に印象的だったシーンは?
奥平「僕は絵を描くことが好きで、それを監督に話したら、聡太は美大志望という設定にしてくれて。サーリャたちと絵を描くシーンがあるんですが、芝居というか自由に遊ばせてくれたような感じで、すごく嬉しい演出でした」
嵐「サーリャと聡太のシーンは、演技に素の状態も混じっているような感じでしたよね。河原でシュークリームを食べながら話すシーンがあるんですけど、カメラが回ってないときもたくさん話したし、シュークリームもたくさん食べちゃって(笑)」
奥平「あれはサーリャと聡太の最初のシーンだったしね」
嵐「演じていて辛いシーンもあるんですけど、楽しいシーンもあったので、感情の切り替えが出来て、落ち込み過ぎることがなくてよかったなと」
初めて触れたクルドの文化、おいしい料理
──今作のテーマになっている、日本に住むクルド人のことはご存じでしたか?
嵐「詳しく知らなかったので、事前に自分で調べていました。撮影前にはワークショップで、実際にクルド人のご家族にお会いする機会を設けてくれたんです。お話を聞いたり一緒にクルド料理を食べたりして、そこでクルドの文化など色々と教えていただきました。その家族の私の1歳年上のすごく元気な女の子と、一緒にK-POPや趣味の話をしたりしてすごく楽しかったんですけど、生活の中に不自由なことがあると教えてくれて。日本で育って普通に生活したくても、できない状況があると知って胸が痛みました」
奥平「僕は監督と話し合って、全く予備知識を入れずに、実際にお芝居するときに初めてそのことに触れるようにしたんです」
──戸惑う表情も素直な反応だったんですね。
奥平「そうですね。事前に調べていたら、もっといろんな気持ちが入ってしまったかもしれません」
──劇中では、クルドの結婚式や料理が登場したり、映画を観ながらクルドの文化に触れることもできますね。
嵐「クルドの方に民族衣装のドレスを借りて撮影したんですけど、こんなに綺麗なドレスがあるんだと初めて知りました。お料理もとてもおいしくて。新しい発見がありました」
奥平「クルド料理を食べるシーンがあるんですけど、最初、どうやって食べるのかわからなくて。僕は1シーンだけだったから、もっと食べたかったです。ヨーグルトを使った料理があったよね?」
嵐「あります! お料理はお肉がメインなんですけど、ヨーグルトの中に塩とキュウリを入れたスープがあるんです。私もイラン・イラクにルーツがあるんですが、中東の地域ではよくある料理なんです。イランに行ったとき、朝ごはんとしてしょっぱいヨーグルトをよく飲んでいたんですけど、キュウリを入れるとこんなにおいしいんだという発見もありました」
奥平「ほんと、あれはおいしかったです」
嵐「東京でも十条に、クルド料理が食べられるレストランがあるんです。撮影前に伺わせていただいたのですが、クルドのランプがあったり、文化が感じられて、また行きたいと思います」
素顔はゲームオタクと、アート好き
──プライベートの趣味について伺います。今、ハマっていることは?
嵐「ゲームオタクなんです。電車の中とか、少しでも空き時間があるとスイッチや携帯でゲームをしてます」
奥平「意外!」
──劇中では、サーリャの弟がゲームで遊ぶシーンがありましたね。
嵐「そうなんです、撮影中もずっとゲームできるなんて羨ましくて!」
──好きなジャンルは?
嵐「戦闘系が好きです」
奥平「(笑)」
嵐「キャラ育成のために素材を集めてボスと戦ったり、『あつまれ どうぶつの森』みたいにゆったりと自分の世界を作って行くのも好きだし。ずっとやっていられる終わりのないゲームが好きです」
──サーリャのイメージとはかなり違いますね。
嵐「よく言われます(笑)。でも、映画では違う一面を見せられたということなのかなと思うので、嬉しいです」
奥平「僕はRPGが好きです。小学生の頃によくドラクエをやってたんですけど、最近、初代に戻って、1と2をやって」
嵐「ドラクエはヤバい!」
奥平「ファイナルファンタジーシリーズもやりすぎて、親にコントローラーを隠されたこともあったくらい(笑)。あと、監督に聡太を美大志望という設定にしていただいたくらい絵が好きです。自分でも描きますし、印象派の絵をよく観ていて、最近はルノワールが好きです。美術館の年間予定表を見て、これに行こうと計画を立てているんです」
──よく行くのは?
奥平「大きい美術館があるので上野に行くことが多いですね。静かなところなら箱根のポーラ美術館に行ったり。地方に行く時は、その土地の美術館を探します」
──お二人とも意外な素顔をお持ちでした。最後にこの映画の見どころを教えてください。
奥平「この映画を僕らと同世代の10代が観たら、ちょっと難しい問題だと思うかもしれないけど、サーリャと聡太の恋愛だったり、進路決定に悩む高校生だとか、2人のいる環境やバックグラウンドとか、どこか共感するところがあると思うので、自分に繋げて観てくれたら嬉しいです。クルドの文化や、日本にこういう状況に置かれている方がいるんだと知っていただくきっかけになれば」
嵐「この作品は、国籍や人種をテーマに取り上げていますが、いろいろな視点で共感していただける部分があると思います。例えば、日本語とトルコ語を話せるサーリャが、近所に住むクルド人と日本人の連絡係になっていたり、長女だから家族の責任をすべて一人で背負おうとしたり。また、クルドの文化を知っていただく機会にもなると思います。恋愛要素もそうですし、いろんな感情がかき立てられると思うので、ぜひご覧いただきたいです。私ももう一度観たいと思っています」
『マイスモールランド』
17歳のサーリャは、幼い頃、家族とともに来日し日本で育った。埼玉の高校に通い、親友もいて、将来は小学校の先生になりたいという夢がある。数年前に母を亡くし、クルド人文化を大切にする父と、妹、弟との4人暮らし。日本語ができないクルド人の親戚や知人のサポートをすることもサーリャの役目だ。大学進学のために、父に内緒で始めたバイト先で、東京の高校に通う聡太と出会い、交流を深めていく。ある日、一家は、出入国在留管理局から、難民申請が不認定となったことを告げられる。在留資格を失った“仮放免”という状態になり、許可なしでは居住区である埼玉県から出られず、就労も禁じられてしまう……。
監督・脚本/川和田恵真
出演/嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
音楽/ROTHBARTBARON 主題歌「NewMorning」
製作/マイスモールランド」製作委員会
企画/分福
配給/バンダイナムコアーツ
URL/mysmallland.jp
5月6日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
(C)2022「マイスモールランド」製作委員会
Photos: Yu Inohara Interview & Text: Miho Matsuda Edit: Yukiko Shinto