ROTH BART BARON三船雅也インタビュー「みんな血の色は同じはずだから」
収録曲「極彩 | I G L (S)」の「君の物語を絶やすな」という一節がコロナ禍における希望として、多くの聴き手に刺さったアルバム『極彩色の祝祭』から一年。ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)の新作は『無限のHAKU』。「不安や孤独で傷ついた人とともに歌うフォークミュージック」を目指したという今作では、混迷から蘇生へ向かうストーリーが、陽性のシンフォニックな音像と明快なメロディと言葉で描かれている。ポカリスエットのCMソングが話題になったBiSHのアイナ・ジ・エンドとのプロジェクトA_oをはじめ、ここ最近、点が線となるような注目を集めているROTH BART BARON・三船雅也に新作のことに加え、影響を受けた本と映画、さらに写真家としての顔についても聞いた。
空白、そして生まれ変わりの一年
──新作は『無限のHAKU』です。前作の『極彩色の祝祭』から一転して“白”をひとつのモチーフとして掲げたのはどうしてだったんでしょう?
「『極彩色~』のツアーの途中で2021年を迎えて、でもみんな実家には帰れないし、外にも出られない、よくわからない状況で。僕は東京で生まれ育ったんですが、多くの人が実家に帰って東京が空っぽになってる正月の時間がすごく好きなんですけど、それすらない感じで。でも街は静かで居留守みたいな感じがすごく不思議だった。
2020年が変わりゆく中でみんな生きようと必死に新しい生き方を模索している極彩色の曼荼羅みたいな世界だとしたら、2021年は頑張りすぎて疲れちゃった感じを受けました。そこで『今年、次の世界で鳴る音楽って何だろう?』って考えたときに、……例えば不死鳥って灰になってから生まれ変わりますよね。俺たちは今その灰の状態というか、生まれ変わりの最中で沈黙していて、でも未だ回復しない傷を抱えている。だから、誰かの傷を癒やすような音楽が作れないかなと思ったんです。
それで、去年(2020年)がカラフルな世界だとしたら、今年(2021年)は真っ白い空間の中にいるんじゃないかと。でも、白い紙でもそれぞれの白さは違うし、いろんな白がある。人間も大体同じ形だけど魂が違いますよね。白一色でカラフルみたいな音楽にしようっていうイメージが浮かんだんです」
──アルバム作りはどの曲から始まったんですか?
「最初いくつか曲があったんですけど、『Eternal』という曲ができた時に、『こういうアルバムなんだ』っていう確信がありました。『無限のHAKU』の“無限”部分ですよね。
今年、2020年をもう一回リピートしている気持ちになったんです。“オリンピック2020”って街中に書いてあるし、空白の一年を生きてる感覚があって。そんななか『Eternal』のピアノのイントロダクションの音ができて、今の世界に鳴ってる音楽としてしっくりきたんです。そこからいろいろマップして作っていきました」
──アルバムを作るにあたって、インスピレーションを受けたものはありましたか?
「ずっと千利休の本を読んでいました。千利休って茶室の空間デザイナーでもあって。たった2畳のほとんど何もないデザインされたスペースで、人間が身分の垣根を超えて1対1でお茶を嗜む。そこには緊張感があるんだけど、心がチューニングされていく場所でもあって。
そういった、すごくいろんなことが行き届いたデザインの音楽が今必要なんじゃないかなって思ったんです。信頼の置ける数人と時間を共有して、自分の気持ちと相手の気持ちに丁寧に向き合っていく、茶室で過ごすような感覚を自分は欲しいのかもしれないと。だから音楽に役立つかはわからないけど、A_oのミュージックビデオの撮影の合間に京都に行ってひたすら枯山水を見たり、茶畑の見学に行ってお茶の違いを教えてもらったりしたんです。
それで、2畳しかなくて入口が狭い、あのちょっと意地悪な感じもあって、奥に入り込んだらいくらでも深くなるような音楽、でもポップスではあるからみんなが入れるようにものにしたいなと思いながら作っていきました」
みんなをインクルードできる音楽に
──タイトル曲の「HAKU」の歌詞に「僕らでは ダメですか?」「形を 変えてゆけ 新しい血の色で」という歌詞がありますが、『極彩色の祝祭』でもコロナによって人間が地球から拒まれたような描写を感じました。
「今ってソーシャルネットワーク上のひとつのトピックに対し、みんなで飛びついて怒ったり悲しんだり喜んだりしているような状況があって、『僕は味方、君は敵』みたいなことが行われている。飢饉が起きたときに異教徒を火あぶりの刑で裁いていたような中世の時代みたい。でも、燃やしている側も燃やされている側も血の色は一緒なはずなので、みんなをインクルードできる音楽になったらいいなと思いました。
あと、コロナによって『人に無闇に触ってはいけない』と教えられた10代の子たちが、いずれどういう風に人に触れようと思うんだろう。僕の世代には全く想像できない価値観の違いが生まれそうですよね。混沌のなか、若い世代には強く生きていってほしい。その方法の答えは出ないけど、それを探し続ける渦中の音楽になったとは思ってるんです。20代以上の人も10代だった時代があるわけだし、それぞれのDNAに刻まれた“10代”に響くといいなってところをグーッて開いた結果、聞く人の年齢を選ばないレンジの広い音楽になった気がしています」
──A_oで発表された「BLUE SOULS」のロットバージョンもアルバムには収録されていますが、アイナさんと活動したことでどんな学びがありましたか?
「ポカリスエットのCMの企画がなかったら、アイナちゃんと一緒にやることはなかったかもしれない。でも、出会ったら昔からの友達みたいにすごくハモって。
アイナちゃんはBiSHでのグループ活動とかソロ活動とか、いろいろな“アイナ・ジ・エンド”として歌ってきたからなのか、どういう歌い方をしたらいいかをすごく気にするんです。でも俺とやるんだったら、絶対に今まで誰もディレクションしてない“アイナ・ジ・エンド”にしたいなと思って、『素のままの歌が聞きたいし、ピッチが外れてもいいから自由に歌ってみて』って言ったんです。
それで、最初に公開された“春編” 1発撮りぐらいの感じではめちゃくちゃ素のまま歌っていて。アイナちゃんには目から鱗だったみたい。『こんなんでいいんですか?』って聞かれて『全然いいよ』って。
それが“夏編”で曲がフルになったときに、アイナちゃんから『こういう風に歌っていいですか?』とガンガン提案してくれたんです。『一緒にやった価値があった』と思いました。だからやっぱり、それまで違う世界にいたけど、会っちゃえば血の色は一緒だったっていうか。俺にとっても、A_oによって自分の可能性がぐっと広がった。
2021年はいろんな人とコラボレーションできて本当に良かったと思います。アジカンのゴッチ(後藤正文)がずっと前からロットを推してくれていたり、『関ジャム』で蔦谷(好位置)さんが2020年の1位に選んでくれたり、小さな点が線になって混ざっていくことが本当に多かった。調子の良いときだけ近づいてくるんじゃなくて、こういう大変な時代に出会えた仲間とは一生何か一緒にできるんだろうなっていう確信がありました。
それに、これから生み出す音楽はもっと広がっていくんだろうなっていう実感もありましたね。でもそれは、ずっと変わらずにロットらしく音楽をやってたから、みんなが信用して声をかけてくれたんだと思うので、出会うべき人たちと出会う時期が来たっていう気がしています」
影響を受けた本や漫画、映画について
──改めて三船さんが影響を受けた本、映画を教えていただけますか。
「最近だと、カナダ人の作家エリック・マコーマックの『雲』っていう本がすごくおもしろくて好きです。ひとりの男性の物語なんですが、神話というかSFの要素も混ざっていて。主人公が失恋のトラウマを抱えながら世界中を旅するんですが、奇妙な人たちに出会いながら成長していく中で、変なことが次々と起きるんです。プチ『インディ・ジョーンズ』みたいな。日常から少し踏み込んで、いつもと違う路地裏に行ったら奇妙な体験が待ってる感じで、俺が音楽でやってるとことと近いなと思いました。
あとは、漫画なんですけど、入江亜季さんの『乱と灰色の世界』っていう魔法使いの女の子の話がすごく好きです。絵も上手でおしゃれで。
映画は、ベタですけど、フランソワ・トリュフォーの『大人は判ってくれない』。それに影響を与えたジャン・ヴィゴの『新学期 操行ゼロ』もすごく好きです。1933年の古い映画なんですけど。ロットの世界観にも影響を与えてますね」
──また、三船さんというととても素敵な写真を撮られますが、ご自身にとって写真を撮ることとはどういうものなのでしょう?
「音楽を始める前、15歳ぐらいからずっとフィルムでこつこつ撮ってたんです。映画監督になりたくて、10代の夏休みに撮影現場にお邪魔する機会があって。そのとき監督に『もし映画を撮りたいんだったら、カメラの使い方を早いうちに勉強しておいた方がいいよ』って言われたことがきっかけで中古カメラを買ったんですね。それで、切り取りたい景色があったら撮れるよう、ずっとカメラを持ち歩いていて。
音楽を始めたときは、『これはすごく好きだから真剣にやりたい』って思ったんですけど、写真はもっと日常に近いんです。肩肘張らずに、本当に自分のためにやろうと。誰にもおびやかされない自分だけの聖域。それがずっと続いている感じなんです。そうしたら、おかげさまで友達のアーティスト写真を撮ったり、ZINEを作ったり、自分の作品のアートワークに使ったりして、結果、音楽ともつながりましたね。
写真を撮ることはずっとそんな感じで好きなんだろうなと思っていて。歳取ってもシャッターを押すぐらいはできそうじゃないですか。もし歌えなくなったら、街を徘徊して写真を撮るおじいさんになっているかもしれないです(笑)」
Photos:Ayako Masunaga Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Mariko Kimbara