漫画家・安野モヨコの30年を振り返る「安野モヨコ展 ANNORMAL」 | Numero TOKYO
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漫画家・安野モヨコの30年を振り返る「安野モヨコ展 ANNORMAL」

会場風景
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漫画家・安野モヨコのデビュー30周年を記念して、その創作の軌跡をたどる展覧会が東京・世田谷文学館で開催中。文筆家の長谷部千彩がレポートする。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年10月号掲載)

会場風景
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女たちは無限の動きを持っている

安野モヨコはいま、どんな存在の作家なのだろう。この規模の展覧会が開かれるのだから、既に巨匠の域にいるのかもしれない。けれど、私のように『ハッピー・マニア』からリアルタイムで作品を追ってきた同世代の読者は、彼女を聡明な女友達のように感じているのではないか。と同時に、ここまで冷徹に物事を見る目を持っていたら、見えすぎるがゆえのつらさがあるのではと案じてもいた。だから2008年、休筆を知った時は、待っているからゆっくりしてね、と思ったが、その気持ちこそが女友達に対するそれではなかったか。

「花とみつばち」2003 年 ⓒMoyoco Anno/Cork
「花とみつばち」2003 年 ⓒMoyoco Anno/Cork

彼女の美意識、繊細にして力強い言葉、画力とユーモアのセンスについては今更語る必要もないだろう。ならば私は彼女の作品に惹かれる最大の理由を挙げよう。強烈な解放感を覚えるのだ。彼女が描く女たちの身体に。だらしなくあぐらをかき、足を引きずり歩き、背を丸めてうずくまり、男と絡み合う時は大きく脚を広げる。美しいとはされない一瞬一瞬。女に求められたポーズに収まることなく、紙の上で女たちは転げ回る。乱れ髪で走る。狂ったように笑う。修正跡の残る原画の隅々に、あきらめずに描き抜こうとする彼女が透ける。生きるということは、無様に生きるということなのだと気づかされる。

会場で最初に目にするのは、原稿を抱えて歩む若い女の後ろ姿。出口付近にさりげなく置かれたのは、ペンを握る現在の自画像だ。彼女の生み出したものを見る。その奥に彼女を見る。十年後、二十年後も自画像を見せてほしい。心から願っている。

「さくらん」2002 年 ⓒMoyoco Anno/Cork
「さくらん」2002 年 ⓒMoyoco Anno/Cork

澁澤龍彥『バビロンの架空園』装画 2017 年 ⓒMoyoco Anno/Cork
澁澤龍彥『バビロンの架空園』装画 2017 年 ⓒMoyoco Anno/Cork

「安野モヨコ展 ANNORMAL」

会期/開催中〜2020年9月22日(火・祝) ※事前予約制
会場/世田谷文学館
住所/東京都世田谷区南烏山1-10-10
電話番号/03-5374-9111
開館時間/10:00~18:00(入館は17:30まで)
休館日/毎週月曜 ※ただし9月21日(祝・月)は開館。
URL/www.setabun.or.jp/

※掲載情報は9月7日時点のものです。
開館日時など最新情報は公式サイトをチェックしてください。

Text:Chisai Hasebe Edit:Sayaka Ito

Profile

長谷部千彩Chisai hasebe 文筆家。雑誌や広告で、ファッションや音楽、香水、旅等をテーマにしたエッセイ、ショートストーリーを執筆。著書に『メモランダム』、『私が好きなあなたの匂い』(河出書房新社)など。ウェブマガジン『memorandom』主宰。

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