松尾貴史が選ぶ今月の映画『子どもたちをよろしく』
デリヘルで働く優樹菜(鎌滝えり)は、実の母親・妙子(有森也実)と義父・辰郎(村上淳)そして、辰郎の連れ子・稔(杉田雷麟)と暮らす。辰郎は家族に暴力を振るい、稔の友だちの洋一(椿三期)はいじめを受ける…。居場所をなくした子どもたちがとった行動とは。映画『子どもたちをよろしく』の見どころを松尾貴史が語る。(『ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)』2020年4月号掲載)
大人は何を思うか
元文部科学省の官僚で、現在は京都造形芸術大学映画学科教授でもある寺脇研さんと、元文部科学省事務次官の前川喜平さんが共同で企画し、隅田靖さんが監督と脚本を務めたこの『子どもたちをよろしく』は、すこぶる確かな「問題作」です。
ここでいう子どもたちとは、文字通りの子どもや、大人との中間にいる未成年を指します。子どもたちは、国のみならず、人類全体の宝であり、未来そのものであり、頼みの綱でもあります。
さて、日本は先進国ヅラするのに躍起で、一般の私たちも、「日本すごい」「世界が日本に憧れている」と言い募る番組を喜んで見ています。今、日本に外国からの観光客が大挙して押し寄せていますが、なぜでしょうか。世界遺産が増えたから? もちろんそれも少しはあるでしょうけれど、本質は、日本が「安く」なったからです。バブルの頃、自身の収入は凡庸であっても、例えば東南アジアのどこかの国に旅行して、豪遊を自慢する人がわんさかいました。今その対象が日本になっているだけなのです。
いっとき、日本は一流の国になれそうでした。ところが、どんどんとジリ貧になって、アジアのお友達からお金を落としてもらうことが必要になってきました。目玉の経済成長戦略が賭博の施設だというお粗末な状態で、少子高齢化が叫ばれて何十年も経つというのに、7人に1人の子どもが貧困状態だということです。
子どもへの虐待のニュースが頻繁に伝えられるようになったのは皆さんが実感するところでしょうが、虐待と貧困の相関関係は密接です。こんな状況で子どもを産めよ増やせよなどと都合の良いことを言っている政治屋の何とおぞましいことか。それなのに、子どもへの支援は民間の子ども食堂に負んぶに抱っこでそっちのけ、アメリカの言いなりになって人殺しの道具を爆買いするような政治が続いています。
この作品は、ストーリー自体はフィクションですが、次から次へ起こる事象はリアルそのものです。まさに現実が描かれています。リアリティというよりもアクチュアリティというべきかもしれません。映画を見た後の私は、言いようのない怒り、憤慨があふれました。
衆議院議員会館の会議室を使った試写で鑑賞したのですが、スケジュールを繰り合わせて見に来た心ある国会や地方議会の議員による意見交換なども行われていました。私たちの子や孫の世代に社会を受け継いでゆくために、ぜひ多くの人に見てほしいと感じます。
主演の鎌滝えりという女優の技量と、何かに腹を括ったような覚悟を感じる空気に気圧されました。達者な役者たちに恵まれ、物語としてもしっかりとした逸品に仕上がっています。
Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito