菅田将暉インタビュー「裸一貫なミュージシャンに憧れる」
いま最も勢いのある俳優、菅田将暉が音楽という新たな表現に挑む。なぜ彼は歌い奏でるのか? ミュージシャンとしての菅田将暉の生の声、リアルな姿に迫る。本誌には載せられなかった未公開カットも掲載!(「ヌメロ・トウキョウ」2018年4月号掲載)
菅田将輝が音楽に込めたメッセージ
実力派若手俳優の筆頭であり、映画やドラマに欠かせない存在となった俳優・菅田将暉。2017年『見たこともない景色』でCDデビューし、続く『呼吸』『さよならエレジー』と、その豊かな表現力でミュージシャンとして頭角も現した。3月21日、ついに1stアルバム『PLAY』をリリース。自ら作詞・作曲を手がけるなど本格始動した、アーティスト菅田将暉が語る音楽へ思いとは?
──音楽を聴く側から、自ら音楽を発信する側へと意識がシフトしたのはいつ頃から?
「最初のシングル『見たこともない景色』のリリースが決まってからなので、つい最近です。それまでは表立って音楽をやるつもりはなくて、友人の太賀や二階堂(ふみ)たちと仲間内で楽しむ遊びというか『ちょっとコーラでも飲みたい』というくらいの気軽な感じでギターを弾いたり歌ったりしてたんです。友達とバンドもやってますが、最初は人前で歌うなんて恐る恐るですよ。学生時代も特に音楽に興味があるわけではなかったし、フジファブリックさんの『茜色の夕日』を聴いて音楽を好きになったのが19歳だったので、今も危機感はあります」
──今回のアルバムでも『茜色の夕日』をカバーしていますね。
「この曲を知ったのは、映画『共喰い』(13年)の頃で、北九州市に泊まり込みで撮影していたんです。港があって、神社や雑木林、新しいものと古いものが混在している街でした。そこで毎日見ていた夕日がすごくきれいだったんです。そしたら、共演者の方がこんな曲があると教えてくれて。その撮影のすぐ後に、20歳のバースデー記念ファンイベントがあったんです。昔、ピアノを習っていたので拙いながらも弾き語りをしてみようという話になり、『茜色の夕日』を演奏することにしました。その時、フジファブリックさんの楽譜を買って練習したんです。普通だったら1曲ずつ『Aメロはこんなふうに』『Bメロはこうするといい』とアドバイスが載ってるんですが、『茜色の夕日』は『魂で』と一言だけ。確かに、ピッチや音程うんぬんじゃない。魂を込めて歌うもんだよなと。この曲について話し始めると、いつも長くなるんですよ(笑)。僕にとって『茜色の夕日』は大きな存在なので、本格的に音楽活動をするに当たって、これはぜひアルバムに入れたいと思いました。今回はギターの弾き語りをしています」
──ほかにも、今作は石崎ひゅーい、渡辺大知(黒猫チェルシー)、米津玄師など多くのミュージシャンが参加していますが、その経緯は?
「大好きでよく聴いている方々にお願いしたかったので、今回初めてご連絡した方もいますし、以前から交流していた方もいます。石崎ひゅーい君は、もともと彼の音楽が大好きで、雑誌で対談して以来、ギターの弾き方を教えてもらったりしてます。去年の夏頃、3rdシングルの『さよならエレジー』を作ってもらったとき、そのついでに、二人でゲラゲラ笑いながら合わせて作った曲も今回のアルバムに入っています」
街ですれ違った少年への想いを綴る
──「いいんだよ、きっと」は作詞が菅田さん、作曲が石崎さんですが、曲作りは二人でワイワイと?
「この曲は、去年、渋谷のオフィスビルで見た情景をそのまま歌詞にしました。暑い夏の日だったんですが、明らかにそのビルには用事がなさそうな制服姿の少年が、塾のバッグを背負って立っていたんです。『外は暑いから涼みに来たんだな。これから塾に行くのか、もう終わったのか、大変だな』と微笑みながら眺めていたら、彼が急にこっちをバッと振り返ったんです。彼からしたら、暑さを逃れて涼しい場所で一息ついている時に、誰かがじっと見てきてギョッとしたんでしょうね。もしくは怒っていたか。こっちも『じゃましちゃってゴメン』という気持ちになって。その少年が去った後、携帯にそこから生まれた気持ちをバーッとメモして。それをひゅーい君に送ったら、次の日には曲に仕上げてくれました」
──よほど印象的な光景だったと。
「その少年が他人事とは思えなくて。思春期は、自意識というアンテナがバリバリに立ち、自分の気持ちと行動とが一致しなくなる時期ですよね。学校に行きたくないけど、行ったら行ったで楽しい。夜、親に『おやすみなさい』と言って寝たふりをしながら2、3時間ぐらい起きていたりする。その感覚は、大人になってもあるし、それでいいと思うんですよ。忙しい毎日の中で、自分の時間をどうにか捻出するのも大事な能力の一つだから、その少年も躊躇することなく生きていってほしいという願いを込めました」
──応援歌なんですね。
「大げさなものじゃないけど、そうやって聴いてくれたらうれしいです。でも、考えてみれば『クーラーって最高だよな』『アイスクリームを食べようぜ』とか、普通は曲のサビにならない言葉ばかり使っていますね」
歌には歌の言葉がある。形を変えて伝えたい
──歌詞は書きためているんですか。
「とにかく初めてのことなので、ミュージシャンはどうあるべきとか、作詞・作曲の仕方もわからないから、とりあえず感じたことをメモしています。『いいんだよ、きっと』はちゃんと曲になりましたけど、形になってないものも、たくさんあります」
──文章を書くのは得意なほう?
「いや全然。母親が言ってたんですけど、小学校の作文も『遊園地に行きました。こんな乗り物に乗りました。楽しかったです』で終わってたみたいです。国語は苦手でした」
──歌詞があふれ出してくるようになったのは、俳優活動で言葉の蓄積があったからなのでしょうか。
「そうかもしれないですね。芝居では標準語の役が多く、仕事で話すときも標準語を使うんですけど、大阪出身なので、いつも気持ちは関西弁なんです。言葉には話し言葉のほかに『人に伝えるための言葉』があって、映画には映画の、文章は文章の、音楽には音楽で伝わりやすい言葉がありますよね。それぞれの場面にふさわしい形に変えて伝えていく。芝居をしていても、役の個性や場面設定によっても言葉の選び方は変わるから、それは常に想像するようにしています。それと同時に、自分自身の感性は、マンガとお笑いで育ったので、その影響もあるかもしれない」
──例えばどんな作品に?
「冨樫義博先生の『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』をはじめ、少年マンガ、青年マンガはほとんど」
──お笑いでは?
「ダウンタウンさん。松本人志さんのコントは死ぬほど見ています。視点を変えることで面白さを見出すとか、物事の捉え方を学びました」
──自身で作詞・作曲した「ゆらゆら」もユニークな曲ですね。
「迷っている時間が好きなんですよ。そういえば、アルバムタイトルの『PLAY』には、英語で‘奏でる’‘演じる’‘遊ぶ’‘仕掛ける’という意味のほかに‘漂う’もあるそうです。日々、白か黒かを決めなくちゃいけない場面が多いけど、その間でゆらゆらと漂っている時間もいい。それも他人からしたらどうでもいいような、例えばカレーかラーメンかという二択なんですが、自分にとっては大事なことなんです。ラーメンは塩分も油分も多いから、次の日は顔がむくむかもしれない。でも、明日は多少顔がむくんでも大丈夫な仕事だ。カレーならいつでも食べられる。とすると、ラーメンを食べるなら今だ。今日なら、顔がむくめれる」
──「むくめれる」!(笑)
「無駄に試行錯誤すると、こうやって笑いが生まれることもありますしね。この曲には『しょっぱいものを食べて/あまいものを食べて/しょっぱいものを食べる』という歌詞があるんですが、例えば、せんべい食べてからチョコレートを食べて、もう一度せんべいに戻る。『ダラダラしているな、俺は』と思いながらも、それって最高に幸せな時間じゃないですか。その幸せを否定したくない。だからポジティブなゆらゆらです」
──「左足の小指/タンスの角にぶつけて/悶絶しながら笑った」という歌詞もありますが。
「嫌なことがあったとしても、ただ笑ってしのぐしかできないこともありますよね。そんなふうにいろんな情景を思い描きながら、作ったんです。よく仲間とスタジオに集まって遊びで演奏してるんですが、これもみんなで一緒に仕上げて。今回、意外にもこの曲がアルバムに採用されたので、また同じメンバーで一からちゃんと作り直しました。初期バージョンでは、しょっぱい/あまい/しょっぱいの後に、コーヒーとタバコが来て、もう一度しょっぱい、あまい…と延々と続くんですが」
──最後はいつも「しょっぱい」?
「それは大事なところです。締めはしょっぱいもの!」
ストレートな感情を今しか鳴らせない音に込める
──パンクな曲調の「ピンクのアフロにカザールをかけて」では「自由に自由にやらせてよ」というフレーズが印象的でした。
「自分が望んでやっている仕事でも、せわしない毎日にどうしても疲れててイライラしてしまう。そんな自分が嫌になったことがあって。そんな2017年のフラストレーションを書きました。去年の自分を決して否定したいわけじゃないし、誰にでもあることですよね。怒りのエネルギーで一気に歌詞を書き上げたんですが、最初は、これは他人に見せるものじゃない、恥ずかしい、人としてもマズいぞと思ったんです。でも、もしかしたら人生の先輩でもある『忘れらんねえよ』の柴田さんなら、この気持ちを咀嚼してくれるかもしれない、まずは見てもらおうと連絡したんです。それまでも交流があって『何かあったら連絡してこい、俺が曲にするから』と言ってくださっていたので。そしたら予想を遥かに超えた曲に仕上げてくれました。今じゃなきゃ歌えない曲です。来年になったら違う感覚になっているかもしれない」
──男らしい曲調が多いですが、甘いラブソングを作る予定は?
「恋愛って、甘いだけじゃないですよね。苦さもあるからこそ甘さを感じる瞬間もありますし。男くさい曲が多いのは、男同士でワイワイやりながら物づくりをするのが好きだから」
──菅田さんが思う、男らしくカッコいいミュージシャン像は?
「ザ・ブルーハーツ(現ザ・クロマニヨンズ)の甲本ヒロトさんや真島昌利さん、銀杏BOYZの峯田和伸さん。何かを必死に伝えようとしていたり、生み出そうとしていたり、愛そうとする様がカッコいい。伝えなくちゃいけないことに対して誠実に向き合っている感じがして。短い言葉で端彼らの言葉はシンプルで、真っすぐ伝わってくる。すごく好きです」
仲間たちと生み出す新しいシーン
──自分の想いをぶつける音楽と、役を演じる俳優とでは、スイッチの切り替えはありますか?
「音楽を始めた時ほど差別化はしていません。芝居では決められた役がありますし、音楽はよりパーソナルな私情が出てくるけれど、どちらも『物語』を演じるという意味では同じ。曲が生まれるのは個人的な想いがきっかけになるけれど、人前で披露するときには『見せる』という意識が出てくる。だから、曲によってテンションも声色も変わります。それに、あまり個人的な部分をさらけ出しすぎても、俳優業に支障を来すので、いいバランス、距離感でやっていけたらいいなとは思います」
──どこかセルフプロデュースしているような感覚に近い?
「たださらけ出すだけではつぶれてしまうし、閉ざしすぎても不自由になる。それに、せっかく表に出るなら恥ずかしい姿は見せたくないじゃないですか。両親やご先祖様にも顔向けできないし、将来、結婚して子どもが生まれて、昔のパパの映像で子どもがいろいろ言われてしまうのも嫌ですし。全ての責任を自分一人で取れるわけじゃないけど、発言、髪型、衣装、表情一つにしても、自己プロデュースしていかなきゃとは考えています」
──音楽ではより自己プロデュースする場面が多そうですが、同時にやりたいことも増えていきそうですね。
「そうなんです。とにかく時間が足りない。音楽によって表現できるフィールドが広がったので、個人的にやりたいこともあるし、それを実現できる人との出会いもあったので、どんどん作っていかないともったいない。同世代にも、映像や絵画、コラージュ、服なんかで、すごいヤツらがいっぱいいるんです。みんな忙しくてなかなか時間も合わないけれど、これだけ才能のあるクリエイターが身近にいるんだから、一緒に面白いことをしたいし、新しいシーンを作っていきたいなと思っています」
オールインワン¥135,000/Facetasm(ファセッタズム 03-6447-2852) Tシャツ¥21,000/Self Made by Gianfranco Villegas(ザ・ウォール ショールーム 03-5774-4001) シューズ¥32,000/Satto&Silva(スタジオ ファブワーク 03-6438-9575) ソックス/スタイリスト私物
菅田将暉の撮影オフショットはこちら
全力で音楽を遊ぶ!疾走感のあるロックが菅田将暉の今を体現
石崎ひゅーい、amazarashi、忘れらんねえよ、黒猫チェルシーなど実力派ロックアーティストとの共作や楽曲提供を受け、あらゆる角度から今の菅田将暉を表現した1枚。シングル『見たこともない景色』『呼吸』『さよならエレジー』や米津玄師との『灰色と青』、桐谷健太との『浅草キッド』も収録。
『PLAY』
通常盤¥3,200(EPIC)
発売日/3月21日(水)
URL/www.sudamasaki-music.com
Photos:Piczo Styling:Chie Ninomiya Hair & Makeup:HORI Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki