Beckインタビュー「20年たってやっとみんなに歓迎された」 | Numero TOKYO
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Beckインタビュー「20年たってやっとみんなに歓迎された」

2017年の武道館&新木場Studio Coastでの来日ライブ公演、DAOKOとのコラボレーション、第60回グラミー賞最優秀ミュージック・ビデオ賞ノミネート、そしてサマーソニック2018のヘッドライナー決定と次々と話題を振りまくベック。13枚目となるアルバム『カラーズ』が生まれた背景と、24年前の「ルーザー」発表からの自身と周囲の変化を聞いた。


Beck「Loser」

一発屋だと思われた「ルーザー」から24年

──鮮烈なデビューを飾った「ルーザー」から24年が経ちますが、あれから大きく変化したこととは?

「まずは『ルーザー』。あの曲は、僕にドラマチックな変化をもたらしたけど、そのとき周囲からは一発屋だと思われていたんだ。次の『オディレイ』(96年)では、コイツ意外とやるんだなという反応だった。周囲はいつでも勝手に期待したり限界を予想したりするけど、僕はやりたいことをやるだけ。それより一番困るのは音楽を完成させるのに時間が足りないこと。実は、未完成の曲が山のようにあるんだ。今回の『カラーズ』でも収録した倍以上の曲を作ったしね。日本に住む小さな女の子、まめちゃんとスタンダード・プードルにミュージック・ビデオに登場してもらった『Fix Me』は、実は10年前に作った曲を掘り起こして、新たにドラムとギターを加えて完成させたんだ」


Instagram (@tamanegi.qoo.riku)で大人気のくろしろまめしろをフィーチャーした「Fix Me」のMV公開!

──最新アルバム『カラーズ』の意味とは?

「友達や家族との幸せな時間、素晴らしい音楽、人間同士の関係性、自然もそうだし、ふとした瞬間に、生きていること自体の美しさを思い出す瞬間がある。大げさなことじゃなくて、美しいものに気づいた瞬間の喜びを祝福するようなアルバムが作りたかったんだ。生きているのはいいことだよなって思えるようなものをね」

──そう思うようになったのは最近のことですか?

「徐々にね。ずっと音楽を作ってきたけれど、それはライブをするためでもあるんだ。ライブというものはひとつの枠組みで、音楽はその瞬間にしか存在しないもの。でも、オーディエンスとの間には、人間同士の繋がりが生まれる。その感覚が重要なんだと気付いたんだ。ライブで僕は、オーディエンスも含めた大きな空間を構成するひとつの要素なんだ」


Beck – Cutting 「Morning Phase」

──90年代のオルタナティブ・アイコンから世界的スターになるにつれ、心境の変化もあったのでは?

「僕自身のやり方や立ち位置は変わらないけど、ポップ・ミュージックが僕の方に近づいてきたんじゃないかって思ってる。20年前はどうしたらわかってくれるのか、悩みながらアルバムを作っていたんだ。当時は『こんな音楽くだらねえ』って笑われたし、メジャーが好きな人からは『何これ?』って眉をひそめられたし。1997年のグラミー賞最優秀アルバム賞に『オディレイ』がノミネートされたとき、対抗馬がセリーヌ・ディオンだったんだ。2015年に『モーニング・フェイズ』が最優秀アルバム賞を獲得したときは、一緒にノミネートされたのがビヨンセやファレル・ウィリアムズだった。この環境の変化、わかるかい?」

「僕は変わってないけど、ポップ・ミュージックが変化した」

──音楽界全体の流れが変わってきたということですね。

「そう。もちろん当時も、音楽を好きな人は理解してくれた。でも今は色々と説明しなくても、たくさんの人が理解してくれる。ファッションもそう。20年前はバギーパンツが流行していて、僕が好きなタイトなデニムは売っていなかったから、女性用を買うしかなかった。でも、今はちゃんとお店に男性用が置いてるし、あの頃、僕を笑ってた人たちが今では同じようなデニムを履いている。僕はずっと変わらない。周りが変わったんだ。それに、同じことをずっと続けてきたから、ここまで来れたんだと実感している。しかも、今は世間に歓迎されているんだよ。今回のアルバムでは、そのこともお祝いしたかったんだよね。初めてなんだ。世界に受け入れられていると感じながら、アルバムを作ったのは」

──90年代当時からメインストリームに対する、ある種の憧れのようなものがあったのでしょうか。

「それより、アートやカルチャーの一部として、認められたいという気持ちはずっとあった。今は、アート寄りのMVも喜んでもらえるし、色んなTV番組や人気の音楽番組にも出演させてもらえる。世の中全体がオープンマインドになっているのかもしれないね」


Beck 「Up All Night」

──トランプ大統領が就任して、人々の価値観が逆行するのではと心配している人もいますが。

「僕の周りには、自分の道を信じて突き進む人ばかりなので、彼が大統領になったからといって変化はないけれど、アメリカと他国との繋がりを心配している人はたくさんいるよ」

──政治に対して、音楽がカウンターカルチャーになることもありますよね。

「音楽は人間が表現しうる代表的なもの。世界は政治や経済で動いているけれど、それだけじゃないよね。どんなに人生が深刻なものになったとしても、子どものように純真で無邪気な気持ちは決して無くなったりはしない。それを思い出させてくれるのが音楽なんだ。それが音楽の力なんだと思うよ」

Photo:Peter Hapak
Photo:Peter Hapak

──そういった音楽観に至るまでには、どんなものに影響を受けましたか?

「たくさんあって数えきれないよ。音楽だけで言うなら、例えばプリンス。『パープル・レイン』は、ロック、パンク、アート系、R&B、ダンスミュージック、あらゆるジャンルの音楽ファンが支持したよね。彼自身、ジャンルの垣根を超えていたし、彼の音楽からは“音楽産業”の匂いが全然しなかった。ニルヴァーナの『ネヴァーマインド』も好きだし、ピクシーズの『ドリトル』はパンクとポップを融合させた素晴らしいアルバム。ザ・ホワイト・ストライプスの『エレファント』も衝撃的だった。ハートとインスピレーションさえあれば、著名なプロデューサーや機材が揃っている必要はないんだ。そういう意味では、アーケイド・ファイアーの1st『フューネラル』も、自力で有名バンドと同じレベルに到達した作品。素晴らしい作品を聴くと、音楽のスピリットに繋がることができると感じるよ」


「UP ALL NIGHT x DAOKO」のセッション映像

──「UP ALL NIGHT x DAOKO」を配信したりと、様々なアーティストとコラボレーションをしていますが、今、注目している人は?

「それもたくさんいるよ。ミュージシャンが大好きなんだ。『カラーズ』と同じ日にP!NKのアルバム『ビューティフル・トラウマ』が発売されたんだけど、実は1曲コラボレートしてたんだよね。いい曲だったのに、収録されなかったんだけど(笑)。以前、ケミカル・ブラザーズの『Wide Open』に参加できたのは光栄なことだった。彼らが僕を評価してくれたんだと感動したよ。ポール・マッカートニーやテイラー・スウィフトとも共演できたし、テーム・インパラ、リアーナ、トム・ウェイツ…、コラボレートしたい人の名前を挙げれば本当にキリがないよ。デヴィッド・ボウイとも一緒にやりたかった。だから、逆に声をかけて欲しいよ。連絡をくれれば、いつでも」


Beck 「Colors」


¥2,490(Hostess Entertainment)

Beck『Colors』

3年半ぶり、13枚目となる本作は、アデルの「Hello」を手がけたグレッグ・カースティンとの共同プロデュース。日本在住のスタンダードプードルと小さな女の子「まめちゃん」が登場したMVが話題の「Fix Me」も収録。

Text:Miho Matsuda Edit:Masumi Sasaki

Profile

Beck(ベック) 1990年代から現在に至るまで第一線で活躍を続け、名実ともにアメリカの音楽シーンを代表するアーティスト。94年に発表した「ルーザー」が全米モダン・ロック・チャートで5週連続1位を獲得。96年に発表した『オディレイ』でグラミー賞2部門を受賞。2014年、約6年ぶり通算12作目のスタジオ・アルバム『モーニング・フェイズ』を発表。同作は第57回グラミー賞「最優秀アルバム賞」をはじめ計3部門を獲得。17年、待望のニュー・アルバム『カラーズ』リリース。シングル「Up All Night」が第60回グラミー賞において"最優秀ミュージック・ビデオ賞"にノミネートされる。

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