トム・フォードが描く美しすぎる傑作サスペンス!『ノクターナル・アニマルズ』公開 | Numero TOKYO
Culture / Editor's Post

トム・フォードが描く美しすぎる傑作サスペンス!
『ノクターナル・アニマルズ』公開

ファッションデザイナーであり、映画監督である、トム・フォードによる待望の二作目の映画『ノクターナル・アニマルズ』が公開された。前作『シングルマン』とはひと味違う、衝撃的なサスペンスに仕上がっている。

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まず、冒頭に流れる異様な映像が暗示する、違和感、ざわめき、狂気。
アートのギャラリストであるヒロイン、エイミー・アダムス演じるスーザンのギャラリーのプレビューから物語は始まる。

夫もいて、経済的にも恵まれたハイソサエティな暮らしぶりだけど、決して幸せではない日々を送っていた彼女のもとに、20年前に別れた小説家志望の元夫エドワード(ジェイク・ギレンホール)から、小説が送られてきた。タイトルは、『夜の獣たち(Nocturnal Animals)』。これは元夫がつけたスーザンのニックネーム(こんな呼び名って…)なのですが、その小説を読み進めていくとともに、物語は進行していく。

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テキサスの夜のハイウェイを運転中に、不良たちに絡まれ襲われるトニー(ジェイク・ギレンホール二役)とその妻と娘。家族を見失ったトニーはボビー・アンディーズ警部補と共に行方を探すのだが……。

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読書している今ここにいる私(スーザン)、元夫との20年前の過去の記憶、テキサスの土埃舞う田舎を舞台に展開される小説の中の出来事(同じくジェイク・ギレンホールが小説の主人公を演じていることがやけにリアルに元夫どダブります)。

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あまりにも、むごく暴力的で衝撃的な内容の小説という、いわば自分の分身を、元妻に送る、元夫の思い、意味、目的とは一体…。その一方で、精神的な弱さを軽蔑して別れた元夫の見違えるような激しさと才能を目の当たりにし、心の隙間に再び入りこんできた元夫の存在。しまいには再会を望むようになるスーザンだが、しかし…。20年という時を経てもなお残る愛なのか、決行された復讐なのか。

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という物語を彩るのが、トム・フォードの完璧なまでの美的センス。彼の作品では当たり前の衣装、美術、色彩、建築から、赤いソファに、車などの小道具まで。さらにはギャラリストだけあって、スーザンの自宅の庭には、ジェフ・クーンズのスカルプチャー、アレキサンダー・カルダーのモビールなども。そんなインテリアとしてのアートに混ざって、映画のために制作したオリジナル作品、ダミアン・ハーストといった意味深なアートが、ヒロインの心理描写の伏線のように、劇中要所要所で我々にヒントやメッセージを投げかけるのだ。

前作『シングルマン』で見せつけた完璧なまでの映像美、美意識はそのままに、サスペンスのハラハラドキドキ感を煽りながらも、人間の狡猾さ、狂気、欲、執念、裏切り、弱さといった、裏側にある闇の部分を鋭く描き出している。愛も憎悪もひっくるめて、人間の「情」の深さを思い起こさせれる、いい意味でなんとも苦みの残る作品でした。

最後に、トム・フォードは自作についてこう語っている。「人生の中で私たちがなす選択がもたらす結果と、それを諦めて受け入れてしまうことへの、警告の物語です。すべてが、人間関係すらも、あまりに安易に捨てられる廃棄の文化にあって、この物語は、忠誠、献身、愛を語ります。私たちみなが感じる孤独、私たちを支えてくれる人間関係ををめぐる物語なのです」と。

まずは、スタイリッシュな映像美にくるまれた、人間の弱くて強い心を鋭く生々しく描いた世界に迷い込んでみてほしい。

『ノクターナル・アニマルズ』
脚本・監督/トム・フォード
出演/エイミー・アダムス、ジェイク・ギレンホール他
原作/『ノクターナル・アニマルズ』(オースティン・ライト著)
URL/www.nocturnalanimals.jp/
2017年11月3日(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

Profile

佐々木真純Masumi Sasaki フィーチャー・ディレクター/ウェブ・コンテンツディレクター。大学在学中から編集プロダクションにて雑誌などに携わる。『流行通信』編集部に在籍した後、創刊メンバーとして『Numero TOKYO』に参加。ファッション、アート、音楽、映画、サブカルなど幅広いコンテンツを手がける何でも屋。操上和美が撮影する「男の利き手」や「東信のフラワーアート」の担当編集。ここ数年の趣味は山登りで、得意芸の“カラオケ”は編集部名物。自宅エクササイズ器具に目がない(なんならコレクター)。

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