21世紀少女 vol.9きゅんくん次世代の女子型ロボットクリエイター | Numero TOKYO
Culture / Post

21世紀少女 vol.9
きゅんくん
次世代の女子型ロボットクリエイター

フォトグラファー田口まき&小誌エディトリアルディレクター軍地彩弓がお送りする「21世紀少女」。クリエイターやアーティストなど、21世紀的な感覚を持つ新世代女子を一人ずつ紹介。今回のゲストは、ロボットとファッションを融合させた新分野を開拓するエンジニアのきゅんくん。彼女が毎日制作や研究に明け暮れている秘密基地のようなラボで、取材撮影を行った。(「ヌメロ・トウキョウ(Numero TOKYO)」2015年12月号掲載

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軍地彩弓が読み解く 「多様性の時代の可愛いロボットの未来」 きゅんくんの写真を初めて見たとき、新しいアイドルなのかと思った。肩に乗ったアーム型のロボットはまるでアニメのキャラクターのようだし、彼女のヴィジュアルも実にアイドル的だったから。それが、肩に乗ったロボット「メカフ(Metcalf)」自体を彼女がデザインからプログラミング、制作までしていると聞いて、これはただ者ではないと思った。 現在21歳、機械工学科専攻の大学生でありながら、作品をSNSを中心に発表し続け、日本だけでなく、海外のメディアアート系のイベントからも招聘される。「子どもの頃から本が好きで、図書館にこもっているような子でした。親の影響でテレビやゲームにもほとんど触れなかったんです」。94年生まれ。気がつくと手元にはパソコンがあった。本を書きたいと思った小学生の頃、すでにキーボードで書き始めている。「父の本棚にあった『鉄腕アトム』を読んでロボットを作りたいと思いました」。 彼女が作る「メカフ」はいわゆるロボットの定義とは違っているのかもしれない。ガンダムのように身体機能を拡張するものでもなく、ソフトバンクの店頭にいるPepperのように人工知能を持ってしゃべるロボットでもない。「私にとってロボットは肩に乗っている小鳥のような存在なんです。動くときにきゅんきゅん鳴る音、肩に伝わる振動、それはまるでペットのような感覚」。実際に肩に乗せてもらうと「メカフ」はプログラミングされた不規則な動きをする。きゅんきゅんと鳴る音は、まるで『スターウォーズ』に出てくるR2-D2だ。 本好きで想像癖がある少女はしっかり中2病を経由して(彼女の言うところの「自我のビッグバン」)、私立の女子高から理系の進路を選んだ。途中CLAMPが描く漫画にもはまった。「理系とか文系とか分けるんではなくて、その間のことが面白い。グラデーションのようにその境目が曖昧なところがこれから進化していくんだと思います」。 彼女の創作を定義することは難しい。それを本人は「ジャンルにとらわれない多様性がいい」と言う。その彼女が作ったのは、いわば「着るロボット」だ。それはまるで女のコがバッグを持つように、肩に乗せて鏡をのぞきたくなる存在。 「ロボットって、まずどんな機能を持たせるかから開発は始まる。だけど、そこから機能を抜いたら『個』として存在するんじゃないかって思ったんです」。そんな彼女がワクワクしているのが2020年の東京オリンピックだという。「生まれてきてから楽しい時代を知らないけど、自分たちの世代が頑張れば、未来は変わるのかもしれないじゃないですか」。 そう語る彼女の肩で「メカフ」がきゅんと音を立てた。

the recipe of me
私の頭の中

21世紀的感覚を持った新世代の若者は、普段どんなことを考えているのだろう? そのヒントは、彼らの周りの“モノ”にもちりばめられている。理工学系のイメージが強いきゅんくんだが、意外にもそのルーツは文学だ。そのハイブリッド感も、21世紀的なのかもしれない。

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(左から)
1. ロボットを作る際に必要不可欠なサーボモーター。
2. 工業用ノギスも必需品。

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(左上から時計回りに)
3. 子どもの頃に読んだドイツの本『数の悪魔』。「数学の勉強ではなく概念を教えてくれた本。ここから数学に入ったので、すんなり数字に向き合えたのかもしれません」
4. 大好きなミヒャエル・エンデの『はてしない物語』と『モモ』。「文庫本ではなく、この布の装丁じゃなきゃダメなんです!」
5. 両親が持っていたルネ・マグリットの画集。「小さい頃から好きで眺めていたので、今年、初めて本物の展示を見に行って感動しました」
6. 「両親が買って読ませてくれた絵本たち。私が小さな頃に亡くなった父が作ってくれた本棚には、今も絵本がたくさんあります」。これは3冊とも、毎月絵本を届けてくれる「ぶっくくらぶ」から届いたもの。

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(右上から時計回りに)
7. 複雑な計算をするときに用いる関数電卓。
8. アンペアやボルトを測るアナログテスター。
9. 愛用のドライバーセット。
10. 2台持っているPCにはステッカーがたくさん!

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(上から時計回りに)
11. LEDなどをつないで作業をするブレッドボード。
12. 自らの作品「Metcalf(メカフ)」(“メカ服”と実在する女性宇宙飛行士の名前が由来)。両側のアームの動きはあらかじめプログラミングされている。「生き物っぽさと機械っぽさの境目を追求しています」
13. 作業場に置いてある、はんだごて。
14. 最近ずっと着けているUP 24 by Jawbone ライフログ リストバンド。運動量や活動量を測ることができる。

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きゅんくんの年表

2006年 11歳
ロボットクリエイターの高橋智隆さんを知り、ロボットの研究者を志す

2008年 13歳
電子工作を始める

2010年 15歳
被服部に入りテクノロジーをテーマにした服作りを開始

2013年 18歳
機械工学科入学。ロボットサークルでロボット製作開始

2015年 20歳
SXSWにてウェアラブルロボットMetcalfを発表
 

きゅんくんへの5つの質問

──今の日本をどう思いますか?(政治・経済・文化など総合的な意味で)

「いろいろ問題が山積みですね…。政治的なことでいえば、可決された安保法案のことで、同世代で国会前に行っている子たちもいるし、賛成の子も反対の子もいる。中身の話とは別として、議論ができる環境になったのは良いことだと思います。政治の話には触れないという暗黙のルールがあったのが、そうじゃなくなったので。3.11以降、SNSの使い方がガラッと変わって情報の扱い方への意識が芽生えたり。それは今の日本にとって、良い傾向だと思います」

──尊敬している人や憧れの人は誰ですか?

「特定の一人ではなく、いろんな人のエッセンスをもらいたいです。最近でいえば、落合陽一さん(メディアアーティスト/研究者)が好きですね。とにかく手を動かす人が好きなんです。どういうヴィジョンをつくるかも大事だけど、実際にモノを作ってそのヴィジョンを証明することも大事。逆にモノを作っていなければ、何も成し得ていないと思うので。彼は「見た瞬間にインパクトを与えるモノを作りたい」と言っていて、その点にも共感しています」

──今後の目標、挑戦したいことは何ですか?

「今まで自分の技術のことしか考えていなかったのですが、最近はもっと社会(=自分以外)に目を向けたいなと思っています。『メカフ』など、私の作品を着たことがある人も限られているので、そこをマスにしていけたらなと。でも、普段着にしようとは思っていないんです。これは、もっと先の未来にあるものだと思っているので。今は、ウェアラブルデバイスやロボットが日常に入り込んできたとき、社会がどう変わるかを観察していきたいです」

──今一番興味があること、今一番怖いと思うことは、それぞれ何ですか?

「興味があることは、本を買うこと。今までは図書館で借りて読んでいたので、いま昔読んだ本を自分で買い集めようとしています。怖いことは、大きいことをすること。もともと一歩一歩確実に進みたいタイプなのに、自分が今まで存在していた狭い世界から、急速に広い世界に飛び出してしまって、この世界にどう存在したらいいのか。いきなり大きなことをして、予想以上のことが起きてしまったらどうしようと恐怖を感じることがあります」

──10年後の日本はどうなっていると思いますか?

「オリンピックの5年後。明るくなっていてほしいですね。でも、ちょっと前よりは、最近、世の中も明るくなってきた気がします。私自身も同世代で頑張っている人たちと出会って、未来は明るいかもしれないと思っていたところです(笑)。ロボットに関しては、実はいま基礎技術が足りないところも結構多くて。カメラとコンピューターは進化しているけれど、モーターとか、ハードの部分の進化が追いついていないんです。そこをもっと解決できたらいいですね」

Photo:Maki Taguchi Director:Sayumi Gunji Text:Rie Hayashi

Profile

きゅんくん(Kyun_Kun) 1994年生まれ、東京都出身。高校生の頃より「メカを着ること」を目標にロボティクスファッションの製作を続け、機械工学を学びながらファッションとしてのウェアラブルロボットを制作している。機械設計、金属加工、電子工作を自身で行う。

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