anoインタビュー「東京をサバイブする秘訣は“自分らしさ”」|私たちのトウキョウ vol.1
『ヌメロ・トウキョウ(Numéro TOKYO)』200号(2026年10月号)では、ファッションからカルチャーまでさまざまな角度から絶えず姿を変え、蠢き続ける“トウキョウ”に迫った。インタビューでは、東京を拠点に活躍するアーティストやクリエイターたちに彼らにとっての東京の姿を聞いた。この街から生まれるクリエイティビティやコミュニティ、ここだからこそ描ける未来とは。第一弾は短編アニメーション映画『しらぬひ』の主人公の声を務めているano。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年10月号掲載)

東京をサバイブする秘訣は“自分らしさ”
──東京にたくさんあるムーブメントのひとつが、あのさんご自身じゃないかと思いますが、その中心にいることはどう感じますか?
「単純にそれを楽しめたらいいな、と思ってます。だってずっと続くものじゃないと思いますし、こういうタイミングなんだ、と。楽しみたい半面、ちょっと疲れちゃうときはもちろんあるんですけどね」
──立ち止まるわけにはいかないけど、ずっとそれだと疲れますものね。スイッチの切り替えみたいなものはありますか。
「家で好きなものを観ているときとかかな。外にいると常に時間に追われているし、家にもそれを持ち込んでやらないといけないことに追われてしまうんですよ。だから、自分を甘やかす時間をあえて作る」
──ご褒美ですね。
「そう。好きなものに囲まれたり、好きなものを買いに行ったり。ガチャガチャとかやってると、ストレス発散になります」
──逃げてもいい、という価値観が定着しつつあるのはごく最近のこと。が、その半面、逃げられなくて潰れた人たちがたくさんいるのも東京ですよね。
「そうですね。壊れる前に逃げるのはいいと思う。でも、甘えるばかりじゃなくて、戦うべきときには戦って、自分の大事なものを守り、噓をつかないで自分を貫くことも必要だと思います。それでもダメで周りに理解されなかったら、僕は逃げていいと思う。それは別のやり方を探すときだから」

──さまざまな挑戦のなかで短編アニメーション映画『しらぬひ』では、主人公の少年・湊の声を担当。男の子の声は初めての挑戦となりましたが、表現者としてこの役に挑むにあたり、どういう準備とトライアルがありましたか。
「最初にお話をいただいたときは、とてもうれしく思いました。やったことがないことなので、成果が何もないところでのオファーだけに、僕の可能性にかけてくれているのかと思うと、その期待に応えられるように真摯に向き合わないといけないな、と覚悟を持って挑む気持ちが生まれました。実際にやってみると、少年の声なので、声のトーンはもちろんですが、まだ成長の過程にある微妙な感情の揺らぎみたいなところが難しく、探り探り作り上げていけたと思っています」
──難しかったですか?
「すごく難しかったです。単純にいろいろなトーンで声を出すことはできるんですが、湊は感情が声色に出る役柄なので、そのときどきの感情によって声を柔らかくしたり硬くしたり。しっかりできたとは思いますが、想像していたよりもずっと難しかったです」

──探り探りでした?
「そうですね。このお話を引き受ける前、最初に僕の声を聞きたいとリクエストがあって、事前に本読みを一度させていただいたんです。そのときに、監督と話し合って、どのトーンがいいかということを確認し、収録のときも監督から細かい指示をいただきました。いろいろだしたパターンがありましたが、僕にとっては一番無理のない範囲で挑ませていただいたと思っています」
──湊は呪い……というか、恨み節がものすごい熱量ですよね。自分で抱え込むには大きすぎて、その熱量に自分が負けそうになっている。
「そこで重要なのが、この物語で湊にとっては唯一の理解者となる弁天島のべんちゃんでした。僕にとってのべんちゃんみたいな存在はあまりない、とは思っているんですが、強いて言うと僕にとっての『音楽』がそれにあたるな、と。ちっちゃいけど希望の光になる、と思っています。湊にとってのべんちゃんはイマジナリーフレンドなのかもしれないけど、僕にとって自分を維持する力の源になるのは、詞や曲を書いているときじゃないか、と思いながら演じました」

──表現者として、アーティストとしての活動が、他の仕事も支えていると?
「いろいろな選択肢をいただけていることには感謝していますし、俳優や声優のお仕事も表現することには違いがないので、そこのボーダーはないと思っています。ですが、もっとも自分らしい表現ができる場はどこかと聞かれたら音楽になりますね。ただ、そこには相互作用があり、どんな表現のお仕事もやればやるほど、内から湧き上がるものの大切さや、どれだけ内面と向き合えているか、ということを感じさせられます」
──表現の手段をたくさんもっていられるのは素晴らしいですね。
「本当にありがたいなと思っています。音楽を作るときは、自分の感情だけを出す曲作りのアプローチもありますが、たとえばタイアップや何かの作品とコラボして作るときとなると、そこからインスピレーションを受けて一緒にものを作り上げていくことになります。そうすると、自分ひとりで作ったものとは違う、このコラボ相手がなかったらできなかったという曲が仕上がる。こういう経験ができるのはすごく嬉しいですし、素晴らしいことだと思っています」
──音楽活動が今回のお芝居に生きた、と感じられることは?
「歌う、ということがダイレクトに声のお芝居に生きていると思いました。歌手も声優も声を扱うお仕事ですし、声の出し方や絶妙なニュアンスのとり方、トーンの違いなどなど、音楽をやっていなかったら理解できなかったと思います。声優の勉強をしたこともなければ、誰かに教わったこともない僕が、声のお仕事をできたのは、音楽に携わったおかげです」
──何かのアニメーション作品や、特定の声優さんからくみとったものは?
「実は本当にないんです。というよりも、詳しくないもので。逆に詳しく知っていたら、恐れ多くてうまくできなかったと思います」
──知らなくてよかったですよね。
「どんなジャンルのお仕事にも、先人でまっとうされている方々がいらっしゃるじゃないですか。すごい人はごまんといらっしゃいますし、その皆さんをリスペクトする気持ちがなかったら先には進めませんよね。しかも新しいことにチャレンジするためには、新しい人達とつながっていくことになりますから、恐縮することもたくさんありますし、そこで僕ができることはなんだろうと探っていくしかない。今回は、詳しく知らないところで思うままやらせていただけたのがよかったんだと思います」

──収録はいつごろ?
「この作品は1月に収録したんですが、そのあと自分の作品のリリースや他の作品の撮影などがあって。ようやく皆さんにご覧いただけるのがうれしいですね。ご覧いただいた方がそれぞれ受け止めるものがある、とても多様なテーマを持つ作品ですので、できるだけ多くの方に劇場に足を運んでいただきたいですね」
──ものすごいスピード感と詰め込み方でクリエイションに関わっていますよね。著書『哲学なんていらない哲学』のときも、構想は長かったけれど執筆は半年とか。
「実質の制作期間で年単位に関わるというのが少ないかも」
──それって東京っぽいと思うんです。せっかちとは違うんですが、とてつもない竜巻みたいなものがたくさんあって、そこに爆速で乗っからないと生きられないような焦燥感がある。
「そうかも。ちょっと油断すると奈落の底に落とされそうな空気が東京にはあると思います。みんなの歩幅やスピードについていかないと、排除されちゃうみたいな不安かな。その感覚は昔からありましたし、以前は『弱いと巻き込んでももらえないんじゃないか』って不安もありました。でも、ちょっと違いましたね。巻き込まれない自分を持っていないと、乗っかることができないんです。だからこそ、自分にとって何が大事で、何が好きかということを明確に意識していくことが大事だと思っています」
──それに気づけたのはいつごろですか?
「3〜4年前くらいかな。コロナ禍で嫌でも自分と向き合う時間があった時期だったと思います」
──これから挑みたいことは?
「やりたくないことをあえてやらないと、本当にやりたいことにつながらない、ということがあったので、『こういうことをやりたい』とは僕は思わないんです。何事も経験していくと、次第に自分が行きたい方向で必要なことにつながっていく。そう感じています」
『しらぬひ』
監督/片野坂亮
出演/あの、花澤香菜、三木眞一郎
公式サイト/https://gaga.ne.jp/shiranuhi/
©2026 ⽚野坂亮/しらぬひ製作委員会
Direction & Styling:Ako Takana Photo:Keiichi Nitta Hair & Makeup:Uri Fashion Associate:Makoto Matsuoka Interview & Text:Masamichi Yoshihiro Edit:Mariko Kimbara
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