日常のなかにアートが息づく街、パリ。異国の空気に身を置きながら自らのルーツを探り、自分らしさを模索する日本人女性クリエーターたち。皿の上に季節を映し、土に触れ、花と対話する。そんな彼女たちの現在地を見つめる。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年7・8月合併号掲載)
佐野恵美子
100年続く伝統の味を目指して

「福岡のチョコレートは世界に通じる。それを証明したいんです」、そう語るのは、パリ・マレ地区でショコラトリー「Les 3 Chocolats」を営むショコラティエ、佐野恵美子さん。福岡で84年続く老舗「チョコレートショップ」の3代目でもある。

「最初の3年は本当に大変でした。日本人で、女性で、しかも3歩歩けばチョコがあるといわれるマレでショコラティエをやるなんて無理だって、みんなに言われました」。その言葉どおり、最初は本当に誰も来なくて苦戦したという。「認知もないし、目的を持ってこないと辿り着かない場所ですし」。それでも、あるフランス人のお客様に言われた言葉が励みになったという。「“あなたのチョコレートはちゃんと美味しい。頑張ってる気持ちも伝わる。だから3年は続けなさい”って」。その言葉どおり、3年を過ぎた頃から、毎日来る常連客もでき、店の前に列ができはじめた。

25歳でフランスへ渡った。菓子経験もなく、フランス語もわからない状態からのスタート。地方のMOF(国家最優秀職人)のもとで修業を重ね、憧れだったクリストフ・ミシャラクの下、パレスホテルのプラザアテネで働き、さらにジャック・ジュナンでも経験を積んだ。
何よりも自信となったのは、パリのサロン・デュ・ショコラでの受賞だった。「客席で見ていた表彰台に、自分が立てた。そのとき、“私もパリで挑戦したい”と思ったんです」

一方で、彼女がフランスで学んだのは技術だけではない。「“センスのない人間に、センスのいいものは作れない”ってシェフに言われて衝撃でした。職人でも、おしゃれやヘアメイクを大事にしろ、と。職人でも自分の個性を出していいんだって、フランスで初めて思えました。逆に言われたことをやっているだけではダメで、自分らしさを自由に出さなきゃいけない、と学びました」

日本の食材への誇りも強い。「柚子や抹茶は、小さい頃から知っている味。だからこそ、本当に美味しい状態で届けたい」
そして今、彼女の視線は再び福岡へ向かう。「祖父も父も、博多で愛されてきました。その博多の味が世界に通じることを証明したい。東京じゃなく、福岡から世界へ。それが私の挑戦です」

Photo: Yusuke Kinaka Interview & Text: Hiroyuki Morita Edit: Shiori Kajiyama
