【撮り下ろし特別インタビュー】キム・ジュリョンという表現者──自ら道を切り拓く、その原動力とは

「行動を起こさないと何も起こらない」
そう語るのは、Netflixドラマシリーズ『イカゲーム』や『涙の女王』などで鮮烈な印象を残してきた俳優、キム・ジュリョンだ。『イカゲーム』シーズン1では、目的のためなら手段を選ばないプレイヤー212番のハン・ミニョを怪演し、世界中の視聴者に強烈な印象を刻んだ。そして今季放送された日本テレビ系連続ドラマ『10回切っても倒れない木はない』では、志尊淳演じるキム・ミンソクの養母・キョンファ役を熱演。近年広がりを見せる日韓共同制作作品への出演という新たな挑戦の中でも、物語を大きく動かす重要な役どころを担った。彼女が演じる人物たちは、観る人に恐怖や緊張感を与えながらも、その言動の奥にある人生や感情まで想像させる。平面的ではない人物像を丁寧に描き出すその演技は、いつも物語に深みを与えている。

今回、9月号(7月28日発売)「田中杏子のリアルモード」にモデルとして出演したキム・ジュリョン。実はこの撮影は、彼女自らヌメロ・トウキョウ統括編集長・田中杏子にメッセージを送ったことから始まった。バッグ特集をテーマにした撮影では、バッグとの物語を一つひとつ作り出すように向き合い、しなやかな動きとともにクールで芯のある表情を映し出していた。表現者として強烈な役柄に命を吹き込み、世界中の視聴者を魅了する一方、SNSでは娘との穏やかな日常も垣間見せるなど、その素顔は意外なほどチャーミングだ。演じること、生きること、そのすべてに挑戦し続ける彼女が、ヌメロ・トウキョウのどんな部分に心を動かされたのか。独自の演技論から家族との時間、これから目指す表現者像まで話を聞いた。
ファッションという新たな表現との出会い

──今回、ご自身からヌメロ・トウキョウ統括編集長の田中杏子さんへDMを送られたそうですね。どんな思いからアプローチされたのでしょうか。
「ファッション誌にはいつか出たいと常々思っていました。なぜなら、俳優として演技をしている自分とはまた違う一面を表現できる場所だと思ったからです。ちょうど日本でドラマを撮影していた時期でもあり、日本の媒体にも興味を持つようになっていろいろと調べ始めたんです。
そこで出合ったのがヌメロ・トウキョウでした。この雑誌はどこかとても挑戦的で独立性があり、女性が持つ魅力や個性を引き出しているところに惹かれました。さらに調べていくと、田中杏子統括編集長のことも知り、とてもかっこいいオンニ(お姉さん)だと思いました。この人と何か一緒に表現したい。そう思ってDMを送ったんです。お返事もとても誠実で温かく、快く受け入れてくださったことに感謝しています」
──撮影前にお二人でお会いになっているんですよね。
「はい。人生の先輩としていろいろなお話をさせていただきました。そんな出会いから今回のような素敵な撮影につながったことを、とてもありがたく思っています」
──初めてモデルとして撮影に挑戦されたそうですね。今回の撮影はいかがでしたか。
「実は昨日、一睡もできなかったんです(笑)。私は俳優であってモデルではないので『大丈夫かな』とずっと考えていました。でも途中で、もっと自分らしくやってみようと思ったんです。今回のテーマはバッグだったので、バッグをパートナーだと思って向き合いました。まるでバッグと一緒に演技をするような感覚ですね。
現場の皆さんが本当に素晴らしくて、カメラの前で遊んでいるような空気感を作ってくださいました。そのおかげで心から撮影を楽しむことができました。これまで私はカメラの前に立つと、頭が真っ白になってしまうタイプだったんです。でも今日はカメラと会話をしているような感覚がありました。新しい自分に出会えたような気持ちですし、大きな自信にもつながりました」
──今回の撮影ではビジュアルのムードについて、事前にジュリョンさんからもアイデアを出されたそうですね。
「最初は事前に考えていたイメージ通りにやらなきゃと考えていたんですが、実際にはそう簡単にはいきませんでした(笑)。ただフォトグラファーの方が具体的にディレクションしてくださったので、だんだんリラックスできたんです。その結果、あまり緊張せず自分自身をそのまま出せた気がします」
「とてもよかったと思います。最初フォトグラファーもディレクションしていましたが、自由演技にした方が良いよねと話して、それをジュリョンさんにお願いしたら途端に空気が変わりました。みなぎる自信の中で、自分自身と会話ができたのはそのタイミングだったのかなと思います」(田中杏子)
「本当にこんなに躍動的な撮影は初めてでした。新しい才能が見つかったんじゃないかと思うくらいです。それくらい新鮮な経験でした。
「私は長年撮影を経験してきて、その人が秘めて持っているものを見つけ出すのが得意なんです。初めてカフェでお会いしたときに、ジュリョンさんは変わっていく人だなと思っていました。だから今回のバッグ特集に出ていただくのが一番良いかなと思ったんです。とてもオープンで柔軟性があり、人を受け入れる柔らかな空気をお持ちでした」(田中杏子)
「私はいつでもオープンですので、次回はまた規格外のことをやりたいですね!」
平面ではなく、立体的な人物像を立ち上げる

──日本テレビ系連続ドラマ『10回切っても倒れない木はない』では、志尊淳さん演じるキム・ミンソクの養母、キム・キョンファを演じられました。近年、日韓共同制作の作品も増えていますが、今回の出演オファーを受けた時はどんなお気持ちでしたか。
「私自身、日韓共同制作の作品にいつか挑戦してみたいと思っていたので、オファーをいただいた時は『ついに私にも来た!』とうれしかったです。実際に現場へ入ってみると、慣れない環境の中で日本のスタッフや視聴者の皆さんに私の演技がどう届くのか、とても気になっていました。でも作品への反応も良いと聞いていますし、参加できて本当によかったと思っています。この作品をきっかけに日本での活動にもさらに興味が湧きました。今回は韓国語でセリフを話す役でしたが、次はぜひ日本語での演技にも挑戦してみたいと思っています」
──『イカゲーム』でも今回のドラマでもそうでしたが、物語の空気や展開を一変させるような強烈な存在感のある役柄を多く演じられています。観る人に緊張感を与える人物を演じる中で、迷いや葛藤を感じたことはありますか。
「迷いや葛藤があると、この仕事はできないと思います。俳優は役として割り切ってやるものなので、そういう思いは一切ないですね。もちろん強烈な役柄を演じることも多く、時には厳しい反応をいただくこともあります。でもそういう視聴者の声を聞くと、ちゃんと見てくれているんだとある意味喜びも感じます。また人間は誰も完璧ではありません。どこか欠けている部分があって、その人なりの事情や背景を抱えて生きています。
だからその人物が、なぜ思いもよらない行動を起こしてしまうのか、なぜそうせざるを得なかったのかという部分にフォーカスして、役づくりをしています。『イカゲーム』のハン・ミニョ役もそうでした。彼女はとても孤独な女性です。その孤独を抱えながら生きてきた人生そのものを表現したいと思いました。人物が平面的ではなく、立体的に見えるように。それはいつも意識していることです」
──キム・ジュリョンさんの演技を見ていると、主人公だけではなく“物語を支える存在”の重要さを改めて感じます。人物を理解するために実践していることはありますか。
「答えはいつも台本の中にあると思っています。『この人物はなぜこう思ったのだろう』『どんな人生を歩んできたのだろう』と何度も台本を読み返しながら、その人の物語を想像します。そして私は作品で出会った役の人たちに向けて、手紙を書くようにしているんです。例えばジュリョンから自分が演じる役へ、または役から共演者が演じる人物へ。そうやって気持ちを整理していくと、シーンに入る時に人物の感情や関係性が自分の中でより鮮明に見えてくるんです。それが私なりの役作りの方法ですね」
──今回の『10回切っても倒れない木はない』でも、誰かに手紙を書かれましたか。
「もちろんです。私が演じたキョンファの夫であるキム・ジョンフン(オ・マンソク)さんや、主人公のキム・ミンソク(志尊淳)さんに書きましたよ」
人を「強い」「弱い」と簡単に分けることはできない

──キム・ジュリョンさんが演じる女性たちには、強さや信念を持って生き抜こうとするエネルギーを感じます。ご自身は“女性の強さ”とはどんなものだと思いますか。
「私は“強さ”は女性に限ったものではないと思っています。男女関係なく、人は誰でも自分の思い通りに生きられるわけではありません。困難にぶつかることもあれば、良くないことが起きる日もある。時には挫折してどうしていいか分からなくなってしまうこともあります。大切なのはそのあとどう立ち直るかだと思うんです。
私はどれだけ早く現実を受け入れて、もう一度前を向けるかが重要だと思っています。もちろん、人によってその形は違います。不幸な出来事に立ち止まってしまう人もいれば、それを受け入れて前へ進もうとする人もいる。どちらが正しいということではなく、自分なりに乗り越えようとすることが大事なんだと思っています。
これまで私が演じてきた人物たちは、『強い女性』という印象で語られることが多いかもしれません。でもその強さの裏には、弱さや孤独が隠れていることもあります。内面の不安を隠すために強く振る舞っている人もいるし、欲望のままに突き進んでいるように見えても、本当はそうではない人もいる。だから私は人を簡単に『強い』『弱い』と分けることはできないと思うんです。強さとは何かを一言で定義するのは難しいですが、私は困難にぶつかった時に、そこからどう立ち上がるかにその人らしさが表れるのではないかと思います」
──キム・ジュリョンさんは、そんな時どう立ち直っていますか。
「やはり私にとって大きな力は家族ですね。俳優という仕事は感情の影響を受けやすいので、眠れなくなったり、心や体のバランスを崩したりすることもあります。夫も演技を教える仕事をしていて同じ業界にいるので、そういう時も理解してくれます。娘も本当に良い子なんです。よく『良いチームだね』と言われるのですが、私もそう思います。この3人のメンバーが最高ですね。
一人の時間には、瞑想をしたり太陽礼拝をしたりしています。最近は散歩も好きです。とにかく歩くこと。仕事のない日はカフェで本を読んだり、音楽を聴いたりして過ごしています。でもやっぱり最後に戻る場所は家族なんです。今回も夫と娘と一緒に東京へ来たんですよ」
──ここまでのお話にも通じますが、キム・ジュリョンさんが大切にしている言葉や考え方はありますか。
「どんなことも挑戦してみる。とりあえずやってみる。行動を起こさないと何も始まりませんよね。もちろん挑戦して失敗した時は落ち込むこともあります。でもその時はまた次に挑戦すればいいと思っています。他の人たちは『もう若くないから』『今の自分には難しいから』と、できない理由を探す人もいます。でも私はできない理由ではなく、できる理由を探したい。私は中堅世代の俳優で、年齢を重ねたからこそ向き合う現実もありますが、それを理由に諦めたくはありません。今の自分にできることを探しながら進んでいきたい。今もその過程にいるなと思っています」
Photos:Yusuke Miyazaki Fashion Director:Ako Tanaka Interview & Text: Saki Shibata Hair:Tetsuya Yamakata Makeup:Yuka Washizu Edit:Makoto Matsuoka
