「今、写真から何が絶滅したのか。それは写真の証拠能力に他ならない」*──。日本文化に精通し、数寄者(すきしゃ)の風(ふう)をもってその名を轟かせてきた現代美術作家、杉本博司。その芸術思想の柱をなす写真作品に光を当て、偽物(フェイク)累々の世の中に挽歌(レクイエム)を捧げる展覧会。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2026年7・8月合併号掲載)

現代美術作家、杉本博司(1948年生まれ)。その創造の広がりを、いかに表せばよいだろう。書、陶芸をたしなみ、彫刻、建築をものしつつ、古美術蒐集に目を光らせ、神奈川県に「小田原文化財団 江之浦測候所」を開設。自作の光学硝子(ガラス)舞台で能を上演するなど、余人をもって計りがたい活動に勤(いそ)しんできた。
その才人が言う。「私は銀塩写真全盛の頃に生を受け、その終焉の頃に人生の幕を下ろそうとしている」*。そう、杉本芸術の原点はフィルム写真にあり。代表的なシリーズを挙げるなら、アメリカ自然史博物館の展示を撮影した「ジオラマ」。黄金期を偲ばせる映画館の建物にて一本の映画を長時間露光で写した「劇場」。世界各地の水平線を同じ画角に収める「海景」。虚像に動きを与え、時間芸術たる映画を光に還元し、太古の人々が眺めた風景を甦らせるなど、確たるコンセプトのもとに写真表現を極めてきた。彼はこうも綴る。「私は現代美術という世界に、メディアとしての写真をプロモートできたのではないかと自負している」*
杉本の写真作品で構成する国内美術館の個展としては、2005年以来となる本展。その機に臨んで彼はなぜ“絶滅”の語を掲げるのか。“絶滅写真”の表現が私たちに突き付けるものとは。デジタルをもって代えがたい、時代の深淵がここにある。
*本展に寄せた杉本博司のステートメントより。

「杉本博司 絶滅写真」
日本を代表する現代美術作家の、活動初期から新作へ至る銀塩写真約60点で構成。同館所蔵の杉本作品に加え、制作の秘密を明かす未公開資料「スギモトノート」もサテライト展示される。最新情報はサイトを参照のこと。
会期/6月16日(火)~9月13日(日)
会場/東京国立近代美術館
住所/東京都千代田区北の丸公園3-1
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
URL/https://art.nikkei.com/sugimoto/
Edit & Text : Keita Fukasawa
