ファッション性と普遍性が共存する世界を描く「ART of TANAKA」の挑戦 | Numero TOKYO
Fashion / Feature

ファッション性と普遍性が共存する世界を描く「ART of TANAKA」の挑戦

デニムを主軸とするブランド「タナカ(TANAKA)」に新展開。今秋ローンチするコレクションライン「ART of TANAKA(アート・オブ・タナカ)」は、その名の通り、アート性を追求するハイエンドなクリエイションの場であり、後世に残したい伝統工芸やテクノロジーとの取り組みを通して、クチュールを見出していくという。メンズ、ウィメンズ問わず、国内外に多様なファンを抱えるTANAKA。その現在地と未来へのヴィジョンを「ART of TANAKA」のユニークなピースが生まれるまでのプロセスとともにひも解く。

──TANAKA は2017年にニューヨークでスタートしました。今、日本と行き来するペースは?

「以前に比べると、日本にいる期間が長くなりました。日本のチームメンバーが増え、2023年には直営店もオープンしたためです。ただ、ニューヨークがTANAKAのインスピレーションを得る拠点であることは変わらず、今も定期的に滞在しています」

──2025-26年秋冬のランウェイショーでは、新ライン「ART of TANAKA」を発表。クラフツマンシップを感じる素材使いが印象的でしたが、どんな位置付けのラインでしょうか?

「TANAKAのコレクションラインの位置付けです。よりアートの側面を追求するために、従来のラインから切り分ける形で新たに立ち上げました。今回のコレクションでは京都や尾州、桐生などの伝統技術を取り入れています。これまでも多少デザイン性の強い服はつくっていて、ファッション感度の高いショップさんにも買い付けていただくことが増えてきたところでした。だったら2軸にわけて整理したほうが、両極に振り切ったものづくりができますし、クリエイションの方向性がもっと明確になると思いました」

──定番のラインはそのまま続く?

「はい。従来のラインは『New Classic』として、引き続き新しいクラシック=傑作を再構築していきます。『ART of TANAKA』では、ジャパンデニムの可能性をもっと広げて、クリエイションとしてのデニムを見出していきたい。つまり、今後もTANAKAのコアがデニムであることは変わりません」

和洋の伝統工芸と新旧テクノロジーを折衷する

──そもそも、TANAKAといえばデニムである理由を改めて教えてください。

「まず、ニューヨークでブランドを立ち上げた時につくったのは、5ポケットに近いデニムなどのエッセンシャルなアイテムで構成した、とても小さなコレクションでした。なぜTANAKAがデニム軸になっているのかというと、世界に向けて売り始めた時、ニューヨークとヨーロッパからの反応が一番良くて、そのアテンションが『TANAKAがつくるジャパンデニム』というところに集中したからです。その延長線上で、ファッション好きの人たちが今着たいと思えるようなスタイルを追求していく中、ただベーシックなだけじゃないアイテムも増えていきました。私自身、感覚的に物心ついた頃からデニムに魅力を覚え、よく身につけていたということももちろん前提にあると思います」

──ART of TANKA では、ファッションとしてのデニムの可能性をさらに広げていくと。

「はい。アート性を追求することは、人の手もかかり、希少価値が高くなる。いわゆる量産のシステムとは違う作り方や売り方をする必要もあるかと思います。そしてこれまで伝えきれていなかったことをART of TANAKA で開放したいなと」

──具体的には、伝統工芸とのコラボレーションなどになりますか?

「日本の伝統工芸を後世に残したいと、いろんな場所に足を運んでますます思うようになりました。『今までの100年とこれからの100年を紡ぐ衣服』というTANAKAのヴィジョンとシンクロしますし、大事なミッションです。これまでも奄美大島の泥染めなど、伝統工芸との取り組みはありました。今後、さらに ART of TANAKAを通して、日本に限らず、東洋と西洋、新旧の技術と出合い、新しい形で後世に伝えていきたい」

「100年先に残すべきでない衣服」というカウンター発想

──25-26AWのテーマ“SIDE A”とは?

「“SIDE A”は、TANAKAが思い描く理想の世界です。“SIDE B”のほうが現実世界で、悲しいことにそこでは争いが絶えず続いています。今回、その“SIDE B”の象徴をミリタリーウェアとし、TANAKA流に解釈して、これからの100年に残してはいけないものと定義しました」

──古着の世界では、ミリタリージャケットが人気を集めた時期もありました。戦争のイメージは抜け落ちて、本来の用途から切り離されたところでファッションの価値が生まれた。

「ミリタリーウェアをミリタリーウェアだと気にせずに着ることができたら、それは平和の証ですよね。少し前まではそんな時期もあったように思いますが、今はミリタリーの存在がリアルに近すぎて、そのまま着ることに抵抗があるとも思います。その異常さに対して、自分たちの無力さに打ちひしがれるばかりですが、だからといって傍観しているわけにはいかない。今、TANAKAに何ができるのかを考えた時、ミリタリーウェアを後世に残さないために、まずは一度全部ほどいてみようかと」

ツイードボンバージャケット CLOSETにて予約販売中。テープ状に裂いたミリタリーナイロンを織り込んだファンシーツイード。裂織りの技術は、東北地方の農村部で生まれた襤褸(ボロ)がルーツにあり、近年海外のアートやファッション界でもBOROとして注目されている。着倒した古布や端切れを継ぎはぎして1枚の生地に戻すという、日本が貧しかった時代の知恵であり文化だ。

──ミリタリーウェアをほどくとは?

「今回トライしたのは、裂織りのテクニックです。ミリタリージャケットに使われるナイロンを裂いて、ラメ糸やリボンヤーンと一緒にファンシーツイードに織り込みました。ただ、アイデアは出たものの、実際にやろうとすると思った以上に難しく、いつもお世話になっているツイードが得意な生地屋さんに持ちかけたら、できないと断られて……。いわく『これができるのは小塚毛織のカナーレさんくらいだろう』と。それですぐに小塚さんの連絡先を探して相談したところ、TANAKAの取り組みにすぐに賛同いただけて、その1週間後には尾州の工場でつくり始めていました」

裏地は明るいフラワープリントをカモフラージュ柄に落とし込み、ハッピーなムードに
裏地は明るいフラワープリントをカモフラージュ柄に落とし込み、ハッピーなムードに

──「100年後に残すべきではない」という今シーズンのコンセプトは、「今までの100年とこれからの100年を紡ぐ衣服」というTANAKAのヴィジョンの反転であり、結果的にポジティブな未来へと接続していくアプローチにもなっていますね。

「ありがとうございます。ちなみに小塚毛織さんは、ションヘル織機という、今ではとても貴重なドイツ製の古い機械を集められていて、70〜80歳の熟練の職人さんじゃないと動かすことができないし、メンテナンスもできないそうです。長らく継承者がいなかったようですが、最近20歳前後の若い世代が修行に来ていて、それも素敵だなと思いました」

ツイードフィールドコート Numero CLOSETにて予約販売中。
ツイードフィールドコート Numero CLOSETにて予約販売中。

──ミリタリーナイロンを織り込んだファンシーツイードを、フィールドコートなどのユーティリティウェアに落とし込むのがTANAKA流ですね。

「今秋冬はもうひとつ『ブリティッシュ』のキーワードがあります。インスピレーショントリップとして、去年の秋口にイギリスに行ったんですけど、すれ違う人みんながBARBOUR(バブアー)のオイルドコートばかり着てたんです。天気も気温もまちまちな土地柄だと、長いコートより腰丈でバサっと羽織れるもののほうがが、汎用性があっていいんだなと。そういう実用的なところの気づきから生まれたアイテムです。展示会でもすごく好評でした」

西陣織の帯を、カジュアルウェアのグラフィックアートに

フィールドコートの背面に貼り付けた西陣織のグラフィック。通常のジャカードではできない、独特な色合いが目を引く。マルチパターン フィールドコート Numero CLOSETにて予約販売中。

──アート作品をそのまま貼り付けたようなフィールドコートもあります。

「西陣織の帯をつくっている京都の工場とご縁があり、今シーズンのテーマを描いたグラフィックを織ってもらいました。“SIDE A” を背面に、“SIDE B” はひとつの柄を半分に切って、両袖に」

──大胆なドッキングですね。

「横幅が決まっている帯というのは、生地として使おうとすると制限になってしまいますが、洋服に嵌め込むグラフィックと考えれば、むしろ耳まで使えていい。和の要素を、スポーティーなウエアに組み合わせたいというのがずっとあって、それが実現したのがこのコートです」

「デニムをどれだけエレガントに表現できるか」

ノーカラーレイヤードデニムジャケット(ブラックレース)と レイヤード ストレートジーントラウザーをセットアップで。Numero CLOSETにて予約販売中
ノーカラーレイヤードデニムジャケット(ブラックレース)と レイヤード ストレートジーントラウザーをセットアップで。Numero CLOSETにて予約販売中

──そして主力のデニム。加工がかなり凝っています。

「レーザー加工の応用です。デニムをレーザーで焼き、ウォッシュで色を抜く技術なんですけど、この技術自体は以前からヒゲのユーズド感を出す際などに使われています。ART of TANAKAでは、この技術を使って絵を描きました。色を抜いた上から、さらに型をおこし、ステンシルで幾重にも色を重ねています」

──レースを重ねたピースもあります。

「デニムをどれだけエレガントに表現できるか、というところを目指しました。フェミニンというよりも、よりシックに昇華させたい考えから、見え隠れするインディゴとレースの組み合わせがあったらいいなと思ったんです。レースをレザー調にコーティングできる技術が京都にあると知ったことが始まりでした」

ワークジーントラウザー(ブラックレース)Numero CLOSETにて予約販売中。
ワークジーントラウザー(ブラックレース)Numero CLOSETにて予約販売中。

──デニムのベースは定番の型ですか?

「はい。人気のダブルニーです。インディゴの色にもこだわって、ムラブリーチと呼んでいるんですけど、レースの透け感と相まって、なんともいえない複雑なカラーに仕上がったと思います」

刺繍スカルプチャージャケット CLOSETにて予約販売中。
刺繍スカルプチャージャケット CLOSETにて予約販売中。

──白のジャケットは、ウエスタン風味ですね。

「ウエスタンの要素は、主軸のデニムと相性がいいので、よくジャケットに取り入れています。今回のジャケットの素材はウールですが、サージという綾織なので、ざっくりとしていてデニムに近い。ウエスタンシャツとジャケットの間のような着用感です。そこに、桐生の手振り刺繍を入れました。手振り刺繍というのは、わかりやすいところでいうとスカジャンによく入っている刺繍の技術です。職人さんの手仕事なので、立体感があって味が出ますよね。今回、ダウンやツイードにも入れてもらったんですけど、どうやら生地との相性が良くないみたいで、職人さんは最後まで納得がいかず……。私たちから見るとすごくきれいなのですが、それくらい職人さんたちはプライドを持って繊細な仕事をなさっています」

世界の「TANAKA」へ。その壮大なポテンシャル

──ブランドタグも目を引きます。手書きのサインですか?

「洋画家の父に頼んで書いてもらいました。生地もこだわっていて、キャンバスを白く塗る前のリネンを画材屋で調達しました。独特の素材感があって、プリントもテクスチャーのある乗り方をしています。それを手縫いでまつりつけています」

──サイズも大きいし、かなりインパクトがあります。

「TANAKA=田中って、日本でトップ5に入るくらいに多い苗字じゃないですか。TANAKAは私個人のブランドであり、ファミリーレガシーを残したい気持ちもあって決めたブランド名ですが、同時に日本を代表する存在として、世界に羽ばたいていきたいという願いも込めています」

──羽ばたくといえば、鳩のモチーフをよく使っていますよね。TANAKAのクリエイションは、平和の希求と常にリンクしていますか。

「鳩はまさに平和を願うモチーフで、ホワイトドーブと呼んでいます。今、世界で起こっている悲惨な出来事と、私たちのクリエイションは、どうしてもつながってしまう。毎日暗いニュースばかりが飛び込んでくる中、そのやるせない気持ちや、世界を変えたいという強い信念をポジティブなパワーに変えてクリエーションに込めることができたら、と思っています」

──ファッションはまさに時代を移す鏡。

「アメリカには本当にいろんな国の人がいて、遠い国の話であってもニューヨークにいれば、それだけで身近に肌で感じることがたくさんあって、危機感もリアルに感じますし、それはずっとTANAKAの根底にあります。その中で私が今できることをやるしかない。ファッションには世界を変えていく力があって、社会的な問題に対する訴えも起こす力があると信じています。TANAKAの影響力はまだまだごくわずかですが、継続する中で発信力を高めていきたいです」

──70年代はフラワーチルドレンのような現実逃避的なムーブメントがありました。時代とともに、ファッションのあり方も変わっていますが、今どうあるべきだと思いますか。

「今のファッションは一辺倒の価値観でなく、皆それぞれの価値観や思想で自由に表現していけることが理想。それはこの先も変わらない理想のあり方だと思います。かつてファッションを巻き込んだムーブメントがあったことを知った上で、今に照らして考えることも1つの選択肢かと思います。
私の価値観としては、自分のコミュニティだけ平和だったらいいみたいな保守的なムーブメントではないところを目指せたら。最終的にはやっぱり服を着ることで、テンションが上がったり、誰かの日々のサポートになったり、というのが衣服やファッションの素敵なところですよね」

平和への想いを象徴するするようなホワイトデニムで飾ったフィナーレ。
平和への想いを象徴するするようなホワイトデニムで飾ったフィナーレ。

──以前のインタビューで「リーバイスやヘインズのような普遍的なブランドになりたい」とおっしゃっていました。改めて、TANAKA というブランドのこれからの成長をどのように見据えていますか?

「たくさんのモノで溢れている今の時代に、自分が新しくブランドを始める意義については、立ち上げのタイミングでとても考えました。考えた末、目指す方向はリーバイスのような存在になることだと思ったんです。リーバイスは、ワーキングウェアにファッションの価値を与えた。ここで意識したいのは、それは自分ひとりでできることではないということです。TANAKAではこれからも同じような志を持ったメンバーと一緒にチームで成果を上げていきたい。そして私がもしいつか倒れたとしても、ブランドは続いていくようにしたい。早い段階で後継者のことも考えるつもりです。あと、これはまだ先になると思いますが、TANAKA NY TYO LTDの中に他のメンバーや新しいデザイナーによる新しいブランドを立ち上げることも視野に入れています」

──TANAKAというブランドそのものが概念になる。TANAKAであるからこそ追求できる、他にないブランド設計ですね。

「デザインと会社、デザイナーズブランドと企業組織を、新しい形でハイブリッドしたい。今はまだ初期段階ですが、夢は大きく描いています」

TANAKA
URL/https://www.tanakanytyo.com/ja
Instagram/@tanakanytyo

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Photos:Ai Miwa, Ko Tsuchiya Interview&Text:Miwa Goroku Edit:Masumi Sasaki

Profile

タナカサヨリ Sayori Tanaka 2017年、ニューヨークを拠点に“これまでの100年とこれからの100年を紡ぐ衣服。時代、性別を超えて永く愛される衣服。”をコンセプトにした自身のブランド「TANAKA」をスタート。ヨウジヤマモト社での企画/デザイナーを経て、ユニクロのウィメンズグローバルデザインチームのリーダーを務めた経歴を持つ。
 

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