松尾貴史が選ぶ今月の映画『サブスタンス』 | Numero TOKYO
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松尾貴史が選ぶ今月の映画『サブスタンス』

50歳の元人気女優エリザベス(デミ・ムーア)は容姿の衰えから仕事が減り、ある再生医療“サブスタンス”に手を出す。現れたのはエリザベスの上位互換“スー(マーガレット・クアリー)”。一つの精神をシェアする二人には絶対的なルールがあったが、スーが次第にルールを破りはじめ……。映画『サブスタンス』の見どころを松尾貴史が語る。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年6月号掲載)

オリジナリティが光る風刺的ホラー

当欄を書いている時点ではまだ稽古中ですが、4月後半から5月11日まで(新宿の紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAと京都劇場)上演の舞台『リンス・リピート ―そして、再び繰り返す―』で、摂食障害に苦しむ主人公の大学生を娘に持つ父親の役を務めています。(※編集部注:公演は終了しています)容姿ばかりを評価することを「ルッキズム」と呼びますが、この障害に悩む人たちはその被害者ともいえるのではないでしょうか。拒食症や摂食障害について浅いながらも多くのことを学ばせてもらっています。

容姿についての評価が重要視される社会的な問題は多岐にわたって悪影響を及ぼしますが、「美」を過大評価する社会では、自分がそこに該当しないと思う人にとっては自身の価値すら否定的に見てしまいがちです。「美」を過剰に重んじることで自己評価ができない、あるいは自己嫌悪に陥るなどの弊害もあります。

見た目で人を分類することで差別を生み出すことにもなりましょう。これはテレビなどのメディアの責任も大きいと思います。ハリウッドでも、年齢差別、性差別、美容産業の問題点が多く、この作品ではその社会的圧力が、あまりにも痛烈に風刺されています。
 

主人公のエリザベス・スパークルはタレントとして、美容エクササイズのインストラクター役でテレビ番組に出演しています。演じるデミ・ムーアは変わらぬ魅力を保持し続けていることに驚きを禁じ得ません。私のこの表現は美だけを過剰に評価しているのではありませんから、ルッキズムではないですよね?

しかし、彼女を「ババア」呼ばわりする下劣なプロデューサーの横暴によって番組を降板させられてしまうのでした。年齢を重ねることと、人気が衰えることに悩む毎日です。さまざまな葛藤の中、合法なのか違法なのかがわからない謎めいた不可思議な薬に手を染めてしまうのでした。

その後の展開はここでは秘すことにいたしますが、私はこの予測不能な展開に翻弄されまくりました。これは皆さんにもぜひ体感していただきたいものです。

彼女が若返った場面を演じるのがマーガレット・クアリーです。彼女も、素晴らしくこの役柄が大当たりです。すこぶる現代的な美しさとキャラクターで強い印象を残します。

作品は「ホラー映画」であるとはっきり言えるものですが、この設定は非常に独創的で、話の種にもぜひご覧になることをおすすめします。恐怖ものが苦手だと言う方にはあえておすすめしないほうがいいのかもしれませんが、ホラーが基本的には苦手な私でも最後まで見ることができたのは、そこにある批評精神や、ダークなユーモアが程よくちりばめられ、洞察を掻き立てられたからかもしれません。見終わってサブスタンスという英語を辞書で引いて、合点がいったことは内緒です

『サブスタンス』

監督・脚本/コラリー・ファルジャ 
出演/デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド
5月16日(金)より公開中
https://gaga.ne.jp/substance/

配給/ギャガ
©2024 UNIVERSAL STUDIOS

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Text:Takashi Matsuo Edit:Sayaka Ito

Profile

松尾 貴史 Takashi Matsuo 俳優、タレント、創作折り紙「折り顔」作家など、さまざまな分野で活躍中。近著に、毎日新聞のコラムの書籍化第5弾『違和感にもほどがある!』 。最近の出演作に映画『敵』『サンセット・サンライズ』など。映画『ぶぶ漬けどうどす』(6/6公開)も控える。カレー店「パンニャ」店主。

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