歴史とアート、ユニークな海辺の体験が待つ大西洋に面した港町サン=ナゼール | Numero TOKYO
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歴史とアート、ユニークな海辺の体験が待つ大西洋に面した港町サン=ナゼール

ナントからロワール川をくだり、大西洋の入り口サン=ナゼールへ。20世紀半ばまで隆盛を極めた港町は、往時の名残を生かした、おだやかな海辺の暮らしが心地よさそう。ここにも巨大なモダンアートを発見!

歴史を伝えつつ、アートがそばにある海辺の暮らし

ナントから河口の町サン=ナゼールまでロワール川を下りながら、芸術プログラム「エスチュエール ナント<>サン=ナゼール」で設置されたインスタレーションを鑑賞。両岸に次から次へと現れるモダンアートの作品を鑑賞しながら、サン=ナゼールへ向かいます。

ナントから約2時間、到着したサン=ナゼールは大型タンカーが停泊し、工業プラントやキリンのようなクレーンが立ち並ぶ港湾都市。フランス最長、全長3356メートルのサン=ナゼール橋もそびえています。

かつてこの街は大西洋を渡ったアメリカとの航路の拠点で、造船業や海運業によって繁栄がもたらされました。造船所の技師や羽振りのいい商人、船長など、裕福な人たちのお屋敷が集まっていたラ・アヴァンヌ地区にはその名残が感じられます。

ただ、それも20世紀半ばには転機を迎えることに。第二次世界大戦時、ドイツ軍が潜水艦のための巨大な要塞をサン=ナゼールに構えたことから、集中的に爆撃を受け、街の85%が壊滅する甚大な被害を受けました。

もちろん今のサン=ナゼールでは、そんな被害を微塵も感じさせません。壊された旧駅舎の跡地は映画館「シネマ・ル・フランス」として文化的に活用、かつての米国航路の優雅な船旅の博物館や、ベル・エポック時代が香るラ・アヴァンヌ地区など、街の記憶は今に受け継がれています。

華やかなりし大航海時代に思いを馳せる、豪華客船を体験できる博物館「エスカラトランティック」

20世紀の豪華客船といえば、映画でお馴染み「タイタニック」号だけれど、フランスにも伝説の豪華客船が存在していました。1935年に建造された「ノルマンディ」号は当時はじめて全長300メートルを超えた世界最大の客船。1962年デビューの「フランス号」もフランス人にとってはノスタルジックな響きを持つ大型客船だそう。

大洋を渡る2つのオーシャンライナー(定期航路のある大型船)の世界観を体験できるのが、博物館「エスカラトランティック」。

かつての潜水艦基地から、館内へエントリー。大型客船に乗船する演出にすっかり気分は往時の乗客です。館内には吹き抜けになった広間やランク別に分かれたキャビン、操舵室やエンジンルームなども展示されています。甲板に出てベンチに座ると、夜の潮風にリアルに吹かれているよう。館内に展示された200点以上の工芸品や家具などを眺めるだけでなく、インタラクティブな機能もあるので、20世紀の豪華客船体験に没入できます。

レストランではシルバーの食器や器、当時のメニューも展示されています。実際にバーエリアではオーダーも可能です。

そして退館時も、テンダーボート(下船などに使う小さなボート)に乗り込み、クレーンで下げてもらいます。こだわりの演出!

ちなみに、「タンタンの冒険」シリーズの「ななつの水晶玉」にサン=ナゼールも登場しています。

Escal’Atlantic
住所/Boulevard de la Légion d’Honneur 44600 Saint-Nazaire
TEL/+33-2-28-540-640
入場料/大人€15、子供€7.5(要予約)

解釈は自由でOK! 入り江にたたずむモダンアート作品


Le pied,le pull-over et le système digestif (足、プルオーバー、消化器官),Daniel Dewar & Grégory Gicquel,Saint-Nazaire,Estuaire Nantes<>Saint-Nazaire ©Franck Tomps / LVAN

サン=ナゼールは海岸線に沿って遊歩道が整備されています。その一角には自動車の通行が禁じられ、レストランなどが集まるコマンド広場があります。レストランのテラス席には海を眺めながらランチを楽しむ地元の人の姿も。

その近く、通称“カニの爪”と呼ばれる桟橋の間のビーチに、モダンアートの作品「Le pied, le pull-over et le système digestif (足、プルオーバー、消化器官)」が展示されています。

高さ7メートルの巨大な足首、セーター、内臓が、シュールにも小石のビーチに配置されています。「なぜ、この3つの要素?」と、地元の人に聞いてみると、「内臓は感情を司る脳であり、セーターはファッションの象徴。服を着るという基本的かつ普遍的な必要性をたたえています。足はスイマーや古代の彫刻を彷彿させます」とのご意見。ふーむ。解釈の仕方は人それぞれです。

この3つの巨大なコンクリート作品。波や風に風化していくのも、アートなのだそうです。

獲物を待ちつつ海を満喫する、シンプルな水上コテージ!?

海沿いの遊歩道をぐんぐんと進み、カーブしたあたりにはユニークな光景が広がります。それは“カルレ”と呼ばれる敷き網漁法の設備が付いた、海小屋の集まり。

波打ち際に足場を組んで、その上にちょこんとのせた小屋を“ペッシュリー”と呼び、通りから細い橋を渡って入ります。

部屋の中は3.5畳くらい。イスとテーブルが1セットあるのみで、テラスに出ると、カルレ漁に使う四角い網(四つ手網)が設置されています。ハンドルをぐるぐると回して手網を水中に没し、しばらく頃合いを見てから引き上げると、網に取り残されたカニや小魚を収穫できる、という仕組み。

小屋はいわば水上コテージのようなモンですから、波音に包まれながら、海の景色をぼーっと眺めてのんびりできそう。

ロワール=アトランティック県にはこうしたペッシュリーが200軒ほどあるそうで、ここサン=ナゼールの市街地近くには20軒があります。そのうち2軒は時間貸しも受け付け。1時間€50。金額分だけカニや魚が収穫できるとは思えませんが、ちょっと変わった海辺の時間が過ごせそうです。

サン=ナゼールにはタイプもさまざまなビーチが20カ所もあるそう。お気に入りを見つけてみましょう。

こんなところに名店が! 眼福なこだわりのヘルシーメニュー

港の目の前、“カニの爪”と呼ばれる桟橋の近くに2023年開業した、ヘルシークィジーヌのレストラン。NYの名店「ブルーヒル」やパリのレストランで経験を積んだバスティアンとシャルロットがクリエイティブなメニューを供します。

彼らの料理は、野菜が主役。野菜があって、肉や魚が脇をきっちり固めている、といったイメージです。いただいたのは、味噌風味のソースをかけた食感が心地いい焼いたズッキーニ、中央にナスがドンと鎮座した魚料理、スモークしたマヨネーズでマリネしたきゅうりとカリカリの海老のフライなど。メニューには肉や野菜の生産者の名前が明記されています。安心安全かつ美味な料理です。

GAMIN
住所/1 Bd René Coty, 44600 Saint-Nazaire, France
TEL/+33-2-40-22-20-03
URL/https://www.gamin.fr/

取材協力:
エールフランス航空
フランス観光開発機構
サン゠ナゼール観光局
ナント観光局

 

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