アメリカとロシアの高官による会合が開かれたり、世界初の『ドラゴンボール』のテーマパークを建設していたり、2034年のサッカーワールドカップ(以下、W杯)の開催地に選ばれたりと、最近国際的にも注目度が高まっているサウジアラビア。2019年に観光ビザが解禁されるまでイスラム教徒以外の立ち入りが難しく、長らくベールに包まれた国だったが、現在外国人にとってどのような国になったのだろうか? 2024年12月、世界文化遺産にも選ばれている歴史都市でありサウジアラビア第二の都市・ジッダ(Jeddah)とイスラム教の聖地を巡ったので、現地の様子や見どころを紹介したい。
世界中のイスラム教徒が目指す二大聖地の玄関口・ジッダ
イスラム教の預言者であるムハンマド生誕の地で、イスラム教発祥の国と言われるサウジアラビア。首都はアラビア半島の内陸部に位置するリヤドだが、ユネスコの世界遺産にも選ばれている第二の都市・ジッダが商業の中心となっている。
ジッダは紅海に面した港町であり、世界中の船が集まる古都だ。また、イスラム教の二大聖地であるメッカとメディナの玄関口としての顔も持つ。そのため世界中から数多くの巡礼者や観光客が集い、いつも賑わっている。参考までにお伝えすると、2024年の東京・成田空港の国際線旅客数が3980万人なのに対し、ジッダ国際空港の乗客数は4910万人。ジッダは東京をはるかに上回る国際都市とも言える。
世界遺産に選ばれたジッダの歴史地区のアル・バラットを散策
ジッダの観光の中心地は、旧市街の歴史地区であるアル・バラットだ。この地区では「ラワシン」と呼ばれる通気性が良く、目隠しの役割を持つ木彫りの窓格子が設けられた、サウジアラビアならではの伝統建築を数多く見ることができる。
古き良きジッダのたたずまいを感じられるのが、初代サウジアラビア国王のアブドゥル・アズィーズ王も住まいとして利用した「ナシーフハウス」。19世紀から20世紀初頭にかけて栄えた商家だ。
旧市街でアザーン(イスラム教の礼拝の呼びかけ)が聞こえてきたら、それはきっと「アル・シャフィー・モスク」からだろう。礼拝時間はイスラム教徒以外の立ち入りができないが、外からでも美しい石造りの尖塔などが拝められる。
旧市街には繊維街やスパイス街など、スークと呼ばれる市場がいくつかある。暑さが厳しい日中はお店も営業していないが、夕方から夜にかけてはお店が開き、多くの人で賑わう。ぜひアラビアンナイトを体感しに訪れてみてほしい。
旧市街には地元客や観光客で賑わう飲食店も数多くある。こちらはひよこ豆を使ったペーストのフムスや、コロッケのファラフェルがいただける「ファラフェル アル ナダ」。料理はどれも植物性の食材でありながら、スパイスやハーブを使っているため味に奥行きがあり、辛さも控えめで日本人にも親しみやすい。ちなみにサウジアラビアではアルコールが禁止されているので、どのお店にもコーラやスプライトなど甘い飲み物が置いてある。
ファラフェル アル ナダ
住所/Al-Balad, Jeddah
TEL/+966533945544
紅海に面したジッダは魚介料理も名物だ。地元民をはじめ、観光客で連日行列ができる人気シーフードレストランが「Albasali seafood restaurant」。
お好みの魚介類を選び、焼く、揚げるなど調理法もオーダーできるのだが、地元民のおすすめは白身魚のフライとガーリックシュリンプ。つけあわせで様々なソースがついてくるので、それらのソースを混ぜて食べるのがツウなんだそう。
Albasali seafood restaurant
住所/Suq Bab Makkah, Al-Balad, Jeddah
TEL/+966504301163
URL/http://albasli.sa/
旧市街で今ホットなスポット「チームラボボーダレス ジッダ」

ジッダの歴史地区で最近話題となっているのが2024年6月10日、Culture Squareにオープンした「teamLab Borderless Jeddah(チームラボボーダレス ジッダ)」だ。チームラボのミュージアムはこれまで日本以外にもいくつかの海外都市に設けられてきたが、中東での常設展示は初めて。運営はチームラボとサウジアラビア王国文化省。サウジアラビアはオイルマネーに代わる観光資源を模索しており、その中の一つとして推し進めているのが、アートコンテンツの発展・誘致に力を入れる成長戦略「ビジョン2030」だ。この取り組みの一環として「チームラボボーダレス ジッダ」は誕生した。

延床面積約10,000平方メートルに及ぶ「チームラボボーダレス ジッダ」は「ボーダレスワールド」、「ライトスカルプチャー」、「運動の森」、「学ぶ!未来の遊園地」、「ランプの森」、「EN TEA HOUSE」、「スケッチファクトリー」で構成され、80以上の作品群から成る。
作品のいくつかは日本にあるチームラボボーダレスと同じだが、規模や表現が少しずつ異なる。例えば「ボーダレスワールド」の作品では壁に触れたり、足で踏んでみたり、人間の動きに呼応するかのように作品の動きが変化するのだが、一部は「麻布台ヒルズ」の作品へもリアルタイムで影響を及ぼすなど、まさにボーダレスに作品が変容するのだ。

「チームラボボーダレス ジッダ」には新作もある。その一つが「憑依する炎:闇で生まれ闇に帰る」。人々が、塊の中で燃える炎の前に立つと、黒い絶対的な存在が現れる作品だ。

個人的に印象的だったのが「世界を身体で認識し、立体的に考える」をコンセプトにした空間認識能力を鍛える「運動の森」。例えば「あおむしハウスの高速回転跳ね球」は、同じ色の球体を連続して踏むと、あおむしが生まれ、最後まで連続して同じ色の球体を跳び続けると、空間の球体が全て弾け、たくさんのあおむしが生まれる。

流れ出ていく光による巨大な光が、見る人を飲みこんでいく「ライトスカルプチャー」シリーズの「The Haze」など、様々なテクノロジーを駆使したコンセプチュアルな作品が揃う。現地の人だけでなく、中東各地から観光客が訪れる人気のスポットだ。
チームラボボーダレス ジッダ
住所/Hamzah Shehatah, Al-Balad, Jeddah
URL/https://www.teamlab.art/jp/e/jeddah/
サラ・ジェシカ・パーカーなどセレブも来場した「レッドシー国際映画祭」
「チームラボボーダレス ジッダ」と同じく、「サウジ・ビジョン2030」の一環として生まれたのが「Red Sea International Film Festival(レッドシー国際映画祭)」だ。
サウジアラビアでは長らく「偶像崇拝につながる」などとして映画館での映画の上映が禁止されていたが、2019年の観光ビザ解禁に合わせて変化。2021年からは「レッドシー国際映画祭」が開催されるようになった。
私が訪れた2024年12月には、ちょうど4回目となる「レッドシー国際映画祭」が開催されていた。12日に行われたクロージングのレッドカーペットや受賞式にはサラ・ジェシカ・パーカーやジョニー・デップなどの世界的セレブや豪華俳優陣が登場。映画祭の審査員長を務めたスパイク・リーなど、有名な映画監督も参画しており、世界的な映画祭の一つとして頭角を現していると感じた。
レッドシー国際映画祭
URL/https://redseafilmfest.com/en/
世界最大の噴水やショッピングモール、最新カフェやホテルが揃う「新市街」
旧市街からジッダ空港にかけての北部エリアは新市街と呼ばれ、ジッダの今を感じられる新しい施設や名所が揃う。紅海に沿って遊歩道が整備された「ジッダ・コーニッシュ」は新市街を代表する観光エリアの一つだ。このエリアには遊園地や水族館、フォトスポットにもなっている「ジッダ・サイン」などがある。完成したら世界一となる高さ1000メートル越えの「ジッダ・タワー」もこのエリアに開業予定だ。
「ジッダ・コーニッシュ」でぜひ立ち寄りたいのが「Al Rahmah Mosque(アル・ラフマ・モスク)」。満潮時には海に浮かんでいるように見えることから「フローティング・モスク」の異名を持つ。女性用と男性用で礼拝所が分けられているが、内部の美しい装飾にも注目したい。
Al Rahmah Mosque
住所/Al kurnyash,Br.Rd., Ash Shati, Jeddah
TEL/+966504301163
モスクのすぐ近くには、ジッダ最大のショッピングモール「Red Sea Mall(レッドシーモール)」がある。242,000平方メートルもの広さを誇り、国際的な有名ブランドのショップが600以上立ち並ぶほか、80以上のレストランやカフェ、映画館などがあり、1日かけても遊びきれない大充実のモールだ。
Red Sea Mall
住所/N. King Abdulaziz Road, Jeddah
TEL/+966122151551
URL/https://redseamall.com/
夕方から夜にかけては「ジッダ・コーニッシュ」の南側にある「キング・ファハドの噴水」を拝みに行こう。ジャンボジェット機に使われるエンジンで海水を吹き上げており、最高到達点312メートルにも及ぶ世界一高い噴水となっている。鑑賞するなら、中心地からもアクセスしやすく噴水を対岸から眺められる遊歩道兼公園の「AlHamra Corniche」がおすすめだ。夕方以降になると家族やグループでピクニックを楽しむ地元客や、観光客で賑わう。
AlHamra Corniche
住所/Al Kurnaysh Br Rd, Al-Hamra’a, Jeddah
「世界一」関連でもう一つ。ジッダには高さ171メートルにも及ぶ「ジッダ・フラッグポール(Jeddah Flagpole)」という大きな旗がある。エジプトのカイロにある「カイロフラッグポール」に抜かれる2014年~2021年まで、世界一高いフラッグポールとしてギネスにも認定されていた。新市街から旧市街へ車で移動する際など、注意して見てみるといいだろう。
Jeddah Flagpole
住所/Al-Baghdadiyah Al-Gharbiyah, Jeddah
新市街エリアで立ち寄った飲食店で印象的だったのが、地元民おすすめのサウジアラビア料理のレストラン「Al-Romansiah」。ぜひオーダーしたいのが、牛肉や鶏肉、羊肉やラクダ肉を使ったスパイシーなサウジアラビアの炊き込みご飯「カブサ」。インドのサモサのような「サンブーサ」、モロヘイヤのスープ、フムスなど何を食べてもおいしいお店だ。ただしサウジアラビアのローカルレストランは、1人前の料理でも日本では2~3人前ほどの量が来るので、オーダーの際にはご注意を。
Al-Romansiah
住所/Qouraish, Al Bawadi, Jeddah
TEL/+966920000144
URL/http://alromansiah.com/
日本とは文化や慣習が異なるサウジアラビアに滞在するなら、やはり国際的に名のあるホテルチェーンに泊まるのが安心だろう。ジッダは新市街を中心にIHGやハイアット、マリオットなどインターナショナルなホテルがいくつもあるので、その中から選ぶのもいいかもしれない。
今回私が宿泊したのはフランス発のホテルチェーンであるアコーグループが展開する5つ星ホテルの「Mövenpick Hotel Tahlia Jeddah」。ショッピングモールが立ち並ぶ商業エリアのタリアに位置し、近くにはスーパーマーケットもあるので何かと便利だ。
ホテルロビーにはアラビックコーヒーとデーツが用意されているなど、中東ならではのおもてなしも嬉しい。客室はスタンダードタイプで27平米以上と広々。施設内にはプールもあり、快適なステイが叶う。
朝食では焼きたてのパンや卵料理はもちろん、メゼやタブレ、フムスやひよこ豆のスープなど、中東らしい絶品メニューが味わえる。ホテルだけでも一通りサウジアラビア料理が楽しめるのが嬉しい。
Mövenpick Hotel Tahlia Jeddah
住所/8749 Hael, Al Andalus, Jeddah
TEL/+966122132000
URL/https://movenpick.accor.com/en/middle-east/saudi-arabia/jeddah/hotel-jeddah-tahlia.html
ジッダから高速鉄道に乗って、イスラム教の聖地メディナへ
ムハンマドが生を受けたメッカは、非イスラム教徒は町に入ることすら許されていない。しかし、もう一つの聖地であるメディナは街の周辺部に限り非イスラム教徒も立ち入ることができる。
今回現地在住40年以上の日本人ガイドで、現在はイスラム教徒のカナモリヨウコ(カマル)さんにアテンドしてもらえることになったので、メディナへも足を延ばしてみた。
メディナへは、ジッダとメッカを結ぶサウジアラビア唯一の高速鉄道である「ハマライン高速鉄道」を利用して約2時間でアクセス可能だ。近未来的でスペーシーなジッダの駅舎や、車窓に広がる砂漠地帯などアラビア半島の原野を見るだけでも鉄道を利用する価値があると感じた。
メディナは、ムハンマドや使徒である正統カリフたちのイスラム教を初めて受け入れた町として二大聖地に数えられている。特にムハンマドの墓がある「預言者のモスク」(非イスラム教徒は内部への立ち入り禁止)は巡礼者の目的地の一つだ。
このほかにもコーランに記されている最古のモスクと言われる「クバ・モスク」や聖戦が繰り広げられた「ウフド山」などメディナには見どころがいくつもある。
メディナは世界中からイスラム教徒が集う聖地の活気を、非イスラム教徒でも肌で感じられる数少ない場所だ。また高級デーツの産地として有名な場所なので、お土産として買って帰るといいだろう。注意点としては、イスラム教の安息日である金曜日は避けた方がいいということ。ジュムアと呼ばれる集団礼拝を行う人でかなり混み合うので、金曜日以外に訪れることをおすすめしたい。
サウジアラビアの物価や移動事情は? 旅する上での注意事項
サウジアラビアは、敬虔なイスラム教徒の国だ。そのため様々なルールが存在し、現状外国人に対しても適用されているものもある。例えば飲酒は一切禁止で、アルコールの持ち込みもNG。賭け事も禁止されている。
また、外国人であっても女性はなるべく体のラインが出ず、肌の露出を控えた服装が望ましい。モスクを訪れる場合は、必ず髪を隠すためのスカーフを持参し着用すること。特に聖地メディナに行く場合は、非イスラム教徒であっても女性の場合はヒジャブやアバヤを着用した方が安心だ。実際、長袖長ズボンで肌を露出していない服装で訪れたものの、イスラムの宗教警察であるムタワに注意されたという女性の話も聞いた。
写真撮影に関しても注意が必要だ。禁止区域が明示されていない場合でも、王宮関連施設や政府・軍関連施設を中心に撮影が禁止されているケースも少なくない。無断撮影が発覚すると身柄を拘束される恐れもある。カメラでの撮影には政府の許可が必要な場所が多いので、禁止されていない区域の場合も手持ちのスマートフォンで撮影することを推奨したい。
また、偶像崇拝を禁止しているイスラム教では、現地の人の撮影も控えた方が良い。特に女性は配偶者や家族の許可も必要なため、トラブルを避けるためにも現地の女性は撮影しないように。
ローカルな飲食店では飲食店の入り口も男性だけと、女性を含む家族の2つに分かれている。これもなるべく女性が家族以外の男性と同席しないための工夫だ。基本的には家族やグループは、個室を利用して床に料理を置いて食事をとる。ただしこの規制も緩和されていくようだ。
一方で厳しいルールが設けられていることもあり、治安はかなり良好。4日間滞在したが、一度も危険な目に合うことはなかった。そして日本のイメージはかなり良く「日本人」と伝えるだけで、多くの人からかなりの歓待を受けた。
移動に関してはハマライン高速鉄道以外、あまり公共交通機関が発達していない。しかしUberなど配車サービスがかなり浸透しており、日本に比べ安価に使えて便利だ。
物価は日本と同じくらいか少し高め。しかし値段が高いものの料理の量はかなり多いので、量あたりの値段は日本と同じくらいかもしれない。通貨はサウジアラビア・リヤル。キャッシュレス決済がかなり浸透しており、クレジットカードだけで済ますこともできた。
日本からサウジアラビアまでの直行便はないため、中東や南アジア、東南アジアを経由するのが一般的。今回私はカタール航空を使い、ドーハ経由でジッダに飛んだ。
イスラム教の聖地を有するムスリム憧れの地でありながら、今では世界中の人々を呼び込もうと新たな文化や芸術の発展にも力を入れているサウジアラビア。まだまだこれからも開発が続き、国としての進化が止まらなそうだ。
取材協力:チームラボ、サウジアラビア王国文化省
Photos & Text:Riho Nakamori