長らくハリウッドセレブにアーカイブドレスを提案し、レッドカーペットで着せつけを担ってきたリタ・ワトニック。昨今のセレブリティによるアーカイブドレス人気の立役者として知られている。彼女にアーカイブファッションの意義を聞いた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載)

──79年12月にLILY et Cieを開店するまで、どんな仕事をしていましたか。
「ハイジュエリーの分野でキャリアをスタートした後、イヴ・サンローランやヴァレンティノで、ラグジュアリーファッションの分野に従事しました」
──お店のコンセプトは?
「“数量が限られていて、非常に高品質で優れたラグジュアリーファッションのアーカイブドレスを提供すること”。 レッドカーペットに革命を起こすとことに使命を感じています。ある個人を最も際立たせる個性を大切にし、流行は追わず、常に流行を作る側でいることを大切に考えています。LILY et Cieがなかったら、この価値観はこれほど知られることはなかったはずです」
──競合店はいるのでしょうか。
「今日に至るまでいません。しかしMET※の元キュレーターであるハロルド・コーダは私たちをライバルだと呼び、我々が高いレベルで収集と着用を行ったことを認めていました」
※米国・NYにあるメトロポリタン美術館付属の服飾研究所の略。
──買い付けについて教えて下さい。
「ランウェイやアーカイブのなかから、エクスルーシブな買い付けの機会を得てきました。通常、ブランドはオリジナルのサンプルを自社で保管するので、アーカイブは販売しません。しかし、私たちが所有するアイテムの半数は、ランウェイで着用されたか、一度も着用されなかったアイテム。これまで時間をかけて非常に重要な友人関係や人脈を形成してきたからこそ実現できるコレクションなんです。これらの作品を長期的に保存することの価値や重要性も長らく提唱してきました」
──サイズ直しや修理はしますか?
「重要なピースは、お直しを行います。しかし、ほとんどが修理したりクリーニングする必要はありません。完璧な状態で保管して販売しています」

──レッドカーペットでLILY et Cieのアーカイブドレスを着た最初のセレブは誰ですか。
「92年のオスカーで着用した、デミ・ムーアです。彼女は熱心なコレクターで、LILY et Cieはデミが作った会社だと思っています。我々は、誰が誰を介して当店を訪れたかを把握するために“顧客の家系図”を作成しています。例えば、ウィノナ・ライダーがデミのおかげで来店し、ヘレナ・クリステンセンがカール・ラガーフェルドを連れて来て、カールはナオミ・キャンベルとケイト・モスを繋げてくれました。こうしてお店の存在はセレブリティを中心に知られ、アーカイブドレスの愛好家は増えていきました」

──ここ数年、なぜアーカイブドレスを着るセレブが急増したのでしょう。
「顧客たちが非常に知名度が高い人物だからだと思います。時代を映すスタイルは、彼らが作り出します。それに、誰しもがオリジナルで独創的なドレスを着たい、所有したいと願うのはごく自然なこと。昨今は、一般的な願望になっています。特に、初めて2つのルックを纏うことが許された『メットガラ2024』で、ゼンデイヤがイベントの締めくくりにふさわしい姿を披露して以来、希少なアーカイブドレスに対するニーズは高まり、世間的な注目度も加熱しています」

──アーカイブドレスを着用したセレブで印象的だったのは誰ですか。
「デミ・ムーアと09年のオスカーで最優秀助演女優賞を受賞したペネロペ・クルス。前述の「メットガラ2024」のゼンデイヤですね」
──“レッドカーペットのアーカイブドレス現象”をどう思いますか?
「現象ではなく変化だと思います。ここぞというとき、多くのセレブがアーカイブドレスを着ていますし、最大手のブランドからでさえ、過去のピースを借りて着用するようになっています。アーカイブは、未来のファッションやジュエリーにインスピレーションを与える投資であり、ある種のマーケティングなんです」
──アーカイブドレスが愛される理由は?
「現代は、ほとんどのものごとに簡単にアクセスができ、世界中の誰もが同じようなものを手にしています。特別なドレスを手に入れる唯一の方法は、オートクチュールを注文するか、アーカイブを購入することです。私たちが所有するドレスの多くは、唯一生産されたものか、ごく少数のもの。モニュメント的な存在と言っても過言ではありません」
LILY et Cie
住所/9044 Burton Way, Beverly Hills CA 90211, USA ※移転の予定あり
Instagram/@lilyetcie
Edit & Text:Aika Kawada Photos: Aflo, Getty Images
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