ショービズ界の式典やプレミア、ファッションイベントなど、セレブリティが華々しく登場するレッドカーペット。昨今、アーカイブドレスを纏うセレブが急増中。なかでもひときわ輝いていたルックについてファッションエディターの岡部駿佑と語り、現象の背景を紐解く。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年3月号掲載)
ニッチな存在からメインストリームへ

──セレブのアーカイブファッションブームはいつから注目していました?
「2019年から予兆はあったものの、21年にモデルのベラ・ハディッドが着たジャンポール・ゴルチエによるオートクチュールコレクションのドレスで引き込まれました。最も注目を集める“イットガール”だったベラがアーカイブドレスをチョイスしたことが新鮮で。ベラは、日頃からアーカイブに限らず、世間に対して “モード検定クイズ”をやっていますよね。『私が着ているこれ、当ててごらんなさい』とゲームを勝手に仕掛けてくる(笑)。衣装の設定や着こなしに細部までこだわり、エディターやスタイリストと視点が近い。本当に玄人なんです。そんな彼女が、映画祭で何を着るかはものすごく政治的なゲームが背景にあるはず。アーカイブドレスの選択をしたとき、次なるトレンドが来る予感がしました。立役者として、スタイリストも大きく関与していると思います」


──これまではランウェイで発表されたルックがそのままレッドカーペットで着用されることが主流でした。ただ、ケイト・モスやウィノナ・ライダー、デミ・ムーアなど、90年代から表舞台でアーカイブドレスの愛用者がいたのも事実。メインストリームに対する少数派のオルタナティブが、ここ2、3年は着る意味も変わり、選択する人が急増しています。
「ディーバ系やラッパーも着るようになっています。ミーガン・ジー・スタリオンは、パコ・ラバンヌの1997年のプレタポルテを着ていました。正直、このピースってデザイン的にヴィンテージである必要はない気が。今のラバンヌに頼んでも十分作れると思うんです(笑)。でもおそらくですが、何かで見つけて『あら素敵。これを着たい!』となったのではないかと。そういった出合いは素敵だし、90年代に活躍した肌が褐色のスーパーモデル、ヤスミン・ゴーリがランウェイで着たので、そのコスプレ感もあっていいと思います」

「デュア・リパは、もっとエモさがある。伝説のスーパーモデルでシャネルの顔だったクラウディア・シファーがランウェイで着たシャネルの92年のオートクチュールドレスを着たのですが、『子どもの頃、部屋にこのドレスの写真を貼ってずっと眺めていた』と語っていて。憧れだったルックを着て、夢を叶えた背景があるんです。00年代初頭までは、基本的にセレブは同じドレスを着ない、着回さないが鉄則だったし、ましてや誰かが着たものを着るのはありえないことだったはず。価値観がひっくり返るような変化が起きていると思います」

──あえて過去のドレスを着用する思惑はそれぞれ。ウォッチャーとしては、時代背景とセレブが発するメッセージに考えを巡らせるのも楽しいですね。
「頻繁に着回すといえば、女優のケイト・ブランシェット。どのブランドに頼んでも、ドレスは選びたい放題なはずなのに絶対しない。確実に意思表明ですね。ショービズの業界人ではなく、ロイヤルファミリーの人たちは物を長く使うことが美徳ですよね。特に宝石は顕著で、継承することで忠誠心を表すわけです。ケイトも着せかえ人形ではなく、思い入れがあって長く愛用している一着であり、物に対して揺るぎないこだわりがあると示して、格の違いをアピールしているのかも」

──ある種のスノビズム。どこで何年代の誰が作って着たアーカイブドレスを着るのか、審美眼や服飾史への深い造詣など、クレバーさが試されます。これまでに誰のルックが最もインパクトがありましたか?
「ゼンデイヤが着たミュグレーの近未来的なボディスーツ。セレブファッションの集大成、もはや作品。気概がないと着られないし、ゼンデイヤの驚異的な身体能力があってこそ。彼女は感覚的にはベラに近くて、スタイリストのロー・ローチによるメソッド・ドレッシングで、二人三脚で彼女のペルソナを作りあげている。セレブファッションの新しい型を作ったとも言えます。これまでは、とにかくドレスをセレブがお気に召すことが大事で、90年代まではデザイナーとセレブが直接やりとりした時代もありました。いまは、もっと戦略的になっています」


──「さすが!」と驚きがあったアーカイブドレスはありましたか。
「圧倒的に意外性があって驚いたのは、カイリー・ジェンナー。森英恵が98年に発表したオートクチュールのドレスを着用しています。彼女はティモシー・シャラメの晴れ舞台にガールフレンドとして同行していたのですが、私のティミーと終始イチャついて本当にむかついて(笑)。でも、ドレスを選ぶセンスと本人がとても似合っていたことで、怒りが収まりました。個人的に一番好きなルックは、リアーナ。なんとクリスチャン・ラクロワをチョイス。02ー03年秋冬クチュールコレクションから、ターコイズブルーのファーコートを着用しました。SNSで写真が流れた瞬間に話題になって、注目度もかなり高かった。ラクロワみたいなクチュリエは大好きなんですが、スポットを浴びてきていないと思うので、『ついに! ここで』感はありました」


──若くして成功したセレブたちも背伸びのためなのか、アーカイブファッションのパワーを借りています。
「シドニー・スウィーニーは、マーク・バウアーの深いV開きのホルターネックドレスで登場。かつてアンジェリーナ・ジョリーがアカデミー賞授賞式で着たものです。『私、往年の女優と肩を並べられる実力派です』『ティーンアイドルから銀幕のスターになるような存在であり、今後その方向に舵を切ります』と所信を述べているみたい。マイリー・サイラスも似た系譜。昨年、グラミー賞を獲得した彼女は、これまでダイアナ・ロスやティナ・ターナーなど超大物ミュージシャンに衣装を提供してきたボブ・マッキーの衣装でライブパフォーマンスを披露。着用後にビバリーヒルズで開催されたオークションで落札し、正式に入手したそう」

「キム・カーダシアンもボブ・マッキーのマリリン・モンローが着用した伝説的なドレスを着ました。が!ドレスのサイズ直しをしない代わりに、断食して7キロ減量するという…。『ドレスのサイズを変えてはいけない、自分の体型を変えなくては』という彼女のリスペクトとガッツは見直しました。ドレスを破損した疑惑もありますが、本物を着た後にレプリカに着替えていたそう。西洋人であってもかつては小柄な人が多かったので、現代人が当時のドレスを買っても着用するのはサイズ的に不可能。リプロダクションの選択を取る理由は、そんな背景がありそうです」

──黄金期を彩ったレジェンドのストーリーを背負うとは、強い覚悟を感じます。一方でJ.LOやナオミ・キャンベル、ケイト・モスなど、自分が過去に着たドレスを再び纏う風潮も。
「あれは、『20年経っても変わらず美しい私』『ファッション史に名を刻み、これからも刻み続ける私』と偉人宣言をしているのでは(笑)。実績があって誰もが疑わない存在ですが、あえて周囲にリマインドしているんでしょうね」
なぜ、いま注目されているのか
──ヴィンテージドレスではなく、アーカイブドレスと呼ぶ理由は?
「完全にニュアンスの問題なんですが、前者はやや年代が限定的で、後者の方が年代ごとに体系化されている感じがします。そもそもファッションは、ワインや家具のヴィンテージに比べて、概念がやや曖昧。アートの分野よりも商業的だと考えられてきたし、メトロポリタン美術館のコスチューム・インスティトゥートも1949年にようやくスタートした。年代ごとに体系的な研究がされた期間がまだまだ短いのです」

──特に注目を集め、リバイバルしたブランドはどこだと思いますか。
「へルムート・ラング、マルタン・マルジェラもですが、一番はジャンポール・ゴルチエだと感じます。でも、ここぞというときにアタックしたいのは、ミュグレーかと。現行のコレクションも好調なのに、アーカイブが選ばれるという不思議な現象が起きています。ブランドものではないアーカイブドレスを着用した好例もあります。パメラ・アンダーソンは、自身が主演を務める、ジア・コッポラ監督作の映画『The Last Showgirl』(日本公開未定)のプレミアで、60年代のケネディ大統領夫人の装いを彷彿させるシフトドレスを着用。歴史に名を残すファッションアイコンのオマージュ的なアプローチも新鮮で素敵です」
──着用するセレブが急増した理由は何でしょう。
「確かにサステナビリティの意識はあると思いますが、セレブが着た=環境にいいかは疑問です。空輸で届けていると思うし。背景としては、ラグジュアリーの二次流通市場の盛り上がりがあるのでは。日本も米国もデザイナーズヴィンテージの値段が上がっている。業界的にも、大量に新品を手に入れて買い替えるより、どちらかというといいものを少量買って長く使う風潮が高まっていますし。理にかなったトレンドなのではないかと。
先日、やっとシャネルのクリエイティブディテクターにマチュー・ブレイジーが指名され、長らく続いたデザイナー交代劇も一区切りついた印象です。これまでの数シーズンは、デザイナーの入れ替えによって、ブランドがトレンドを牽引するよりもマイクロトレンドが乱立した状態だった。このアーカイブファッションの流れも、『これまでにどんなファッションがあったか今のうちにちょっと見てみましょう』という棚卸し作業だったのではないかと考えています。もちろん『メットガラ2024』のテーマ『スリーピングビューティー』の影響も大きい。『アーカイブを復活させる』という意向があったので」
──セレブが選ぶアーカイブドレスもどんどんマニアックになっています。このブームに、今後何を期待しますか。
「リアーナが着たクリスチャン・ラクロワは決定的でした。過去に活躍した偉人デザイナーやブランド、クチュリエをフックアップすることで、再び注目を集めるのは喜ばしいこと。エマニュエル・ウンガロやマダム・グレ、ルイ・フェロー、マリアノ・フォルチュニ…今だからこそスポットライトを当てるべきデザイナーは枚挙に暇がありません。
今年、北青山のヴィンテージショップ『ライラ ヴィンテージ』を手掛ける『ライラ』が、3D技術を用いて撮影とデータ化した衣服や装飾品を展示するバーチャル美術館アプリ『ラ・ミュージアム』をローンチしました。ここではバーチャルで貴重なアーカイブが鑑賞できるのでオススメ。セレブのファッションはもちろん、過去の写真や映像を掘って『こんなブランドあったんだ。最高だよね』と新たな視点でファッションを知ったり、語ったりする人が増えたらいいなと思っています」
ラ・ミュージアム
チケット料金/1DAY:12ユーロ(チケット使用から24時間有効)
7DAY:28ユーロ(チケット使用から168時間有効)
公式HP/www.la-museum.com
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