スイーツ専門店に、お手頃ビストロ、星付きのホテルレストラン……。フーディーの夢、アラン・デュカスなパリ滞在
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スイーツ専門店に、お手頃ビストロ、星付きのホテルレストラン……。フーディーの夢、アラン・デュカスなパリ滞在

2024年秋、日本橋に「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」が初上陸したのも記憶に新しいところ。そんなデュカスさんのお膝元、パリへ。世界で最も多くのミシュランの星を持つスーパーシェフの魅惑の世界をめぐる!

まるでお菓子の職人街! ビスケット、アイス、ショコラの工房が点在するマニュファクチュール

日本橋に2018年に開業したチョコレート専門店「ル・ショコラ・アラン・デュカス」に併設するように2024年秋オープンしたビスケット専門店「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」。ラボのような工房と売り場が合体した“マニファクチュール”スタイルは、パティシエの職人技を目の当たりにすることができ、視覚からも美味しさが感じられます。

その原点ともいえるスタイルがパリにあります。「アラン・デュカス・マニファクチュール」はパリ11区、バスティーユ広場近くのロケット通りに、チョコレート、アイス、カフェ、ビスケットの専門店が点在しています。2011年、最初に誕生した、いわば“長男”が「ル・ショコラ・アラン・デュカス」。続いて、アイス専門店の「ラ・グラス・アラン・デュカス」(2012年)、カフェ「ル・カフェ・アラン・デュカス」(2019年)、ビスケット専門店の「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」(2022年)がオープンしました。

ここロケット通りを目指せば、ランチやディナーの食事の間に楽しみたいビスケットやチョコレート、つまりおやつやデザートをホッピングしながら、楽しめるわけです。しかも、アラン・デュカスの職人技が結実した、珠玉のおやつです。

地下鉄の駅から歩いて最初に目に付いたのが、アイス専門店、そしてチョコレート専門店、ビスケット専門店と、マニファクチュールが続きます。通りからも工房の大きな窓からパティシエたちがてきぱきと手を動かしているのが見えます。えてして厨房は地下や裏方に置かれていますが、ここでは表舞台。パティシエたちは主役なのです。

同じ場所に専門店が集まっていると、メリットがいろいろとあります。食材をまとめて仕入れられるので、輸送の手間が少なく、ロスも少ない。そして何か足りなくなったら、近隣の専門店に借りに行くことだってできます。効率がよく、しかもSDGs! 加えて異なる専門分野のパティシエが交流することで、新しいレシピのアイデアが生まれるかもしれません。いいこと尽くし!

今回、パリで訪れたのはビスケット専門店とアイス専門店(日本未上陸)。デュカスさんのいう「オートクチュールなビスキュイ」の“オートクチュール”の意味を知りたくて訪ねてみることにしました。

パリの「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」の店内は、ショーケースの中に様々なビスケットが整然と並んでいます。まるで、ジュエルのような美しさ! セットになったボックス入りを手にするお客もいれば、指さしオーダーで好みのものを詰め合わせているお客も。あたりにはバターと香ばしい焼き立てのビスケットの匂いが漂っています。

パリのラインナップには、東京の「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」と同じものもありますし、パリでしか手に入らないものもあります。

日本でも取り扱っている六角形の「エグザ」は香ばしい穀物のおいしさを最大限に生かしたもの。サラザン(そば粉)、ポレンタ(トウモロコシ)など、素材がそのままフレーバー名になっている中で、ひとつだけ地名なのが「サンポール」。これはデュカスさんの奥様の出身地、ブルターニュ地方のサン=ポール=ド=レオンに由来するそう。バターやそば粉が名産のブルターニュ地方ならではのフレーバーです。

「スブリ」は、北イタリア・マントヴァで生まれた伝統菓子「スブリソローナ」から生まれた焼き菓子。ナッツやトウモロコシ粉、バニラ、レモンゼスト(レモンの皮をすりおろしたもの)などが入った、ザクザクとした食感が特徴で、割ってシェアする楽しみがあります。選んだピースによって味わいが異なり、自分が食べたい量だけつまむこともOK。パーティーなどで使えそう。

チョコレート好きには、ガナッシュやプラリネを挟みチョコレートでコーティングした「パレ」や、片側をチョコレートでコーティングした板チョコ感覚の「タブレット・ビスキュイ」がおすすめ。

オーダーを受けてからパティシエが目の前で仕上げる「ビスキュイ・ミニュット」は、職人の技が見られ、ちょっと手の込んだデザートのよう。既製品ではない、このプラスアルファな演出も“オートクチュールなビスケット”と呼べるゆえんでしょう。

また、「エリゼ・パレ」はパリでしか買うことができない、エリゼ宮の公式ストアでも販売している、いわば大統領府公認のお菓子です。アーモンドと砂糖漬けの柑橘類のビスケット2枚でアーモンド プラリネを包み、全体を75%のダーク チョコレートでコーティングしています。柑橘類のフルーティーさとアーモンドの香ばしさ、そしてダーク チョコレートの濃厚さがまさに三位一体。すべてフランス産の最高級の材料を厳選した、まさにフランスのお菓子の最高峰! 大切な友達のお土産におすすめです。

「エリゼ・パレ」以外は東京の「ル・ビスキュイ・アラン・デュカス」でも購入できます。オートクチュールなビスケット、ぜひおためしを。

10メートルくらい離れたアイス専門店「ラ・グラス・アラン・デュカス」

日本には未上陸ですが、きっと近い将来にオープンが期待されるのが、アイス専門店の「ラ・グラス・アラン・デュカス」。ガラスのショーケースにアイスクリームやジェラートがずらりと並び、それぞれのフレーバーが実にユニーク!

3カ所の産地をブレンドした「バニラ」、ベルモットのソースをかけた「グレープフルーツ」、「チョコレート」にいたっては、アイスクリームはペルー産、ソルベはマダガスカル産と産地を使い分けるなど、こだわりがたっぷり。

おすすめは「オリーブオイル」。オリーブオイルのアイスに塩味の効いたブラックオリーブをトッピングし、オリーブオイルをたらりと垂らして、できあがり。そんな食材がアイスに!?と目からウロコです。さらにヘーゼルナッツ×ハイビスカス、抹茶×キイチゴなど、組み合わせも絶妙です。

食事のようなフレーバーもあり、なんて自由なアイスなの! 早く日本に上陸してほしいですね!

パリでお手頃にデュカスさんの食の世界が楽しめるビストロ2軒

アラン・デュカスさんの魅惑の食を楽しめる場所は星付きの最高級レストランだけかと思いきや、実は手頃に素晴らしき食の世界に出会えるビストロやカジュアル・レストランも手掛けています。気軽だけれども、しっかりとしたコンセプトを持つ、美味なる2軒。ミシュランは憧れるけれど、リラックスして楽しむ料理も心を豊かにする食体験です。

95%がプラントベースのサピド

「誰もが訪れることができる、グルメで色彩豊かで、本格的な料理と出会える親しみやすいレストランを作りたい」。そんなデュカスさんとロマン・メデールさんの夢を叶えた、食堂のような雰囲気のヘルシーなレストラン「Sapid(サピド)」。

Bertille Chabrolle
Bertille Chabrolle

食材は95%がプラントベース。陸と海から得られる、野菜や穀物そして海産物(お肉などの畜産系は使いません)を煮込んだり、乳化させたり、発酵させたり。あのテこのテの技を駆使して一皿に仕上げます。どれも脂っこさや甘さ、塩味を押さえた、毎日でも食べたくなるフランス料理。食材の仕入れ先は二人のシェフの知り合いである、サスティナブルかつ理にかなった方法で生み出す生産者から。ディナーは5コーステイスティングメニューで54€。

※現在、移転に伴い休業中。場所と再開についてはサイトをチェック。

Sapid(サピド)
URL/https://www.sapid.fr/

リヨンのおふくろの味をモダンに楽しむオー・リヨネ

リヨン地方では家庭料理を出すビストロを“ブション”と呼びます。「Aux Lyonnais(オー・リヨネ)」は、パリにおける老舗の“ブション”です。

Atelier Mai 98
Atelier Mai 98

路地裏に佇む1890年建造の建物は、石炭、木材、ワインの倉庫として使用された後、第2次世界大戦後に“ブション”としてオープンしました。本場リヨンの味にこだわり、情熱を込めて伝えるこの店には、多くのリピーターが詰め掛けました。実は、デュカスさんもその一人。そして、2002年にこの伝説的な店を傘下に収め、伝統を受け継ぎました。現在も真っ赤なファサードと看板を残し、当時と変わらないブションの雰囲気を伝え続けています。

BertilleChabrolle 2
BertilleChabrolle 2

シェフに抜擢されたヴィクトリア・ボレールさんはリヨン生まれ、ボジョレー育ち。高級レストランで経験を積み、リヨン料理の深い造詣とこれまで磨いてきた技を駆使して、美しい一皿に仕上げます。リヨン料理といえばどっしり重い印象だけれど、ヴィクトリアさんは基本を大切に守りながら、実に軽やか。美味なる、現代のリヨン料理です。

ある日のランチは、前菜に「パイクパーチ(カワカマス)のクネル、オマールエビのソースとタラゴンを添えて」18ユーロ。繊細な味わいのカワカマスのすり身をクリーミーなクネルに、オマール海老のソースが絶妙。メインは「鳩のロースト、プラムを添えて」42ユーロは、やわらかな鳩肉にベリーの酸味が合い、トウモロコシのプリッとした食感もアクセントに。デザートにはプリンのような「アラン・チャペルのシグネチャー、ジャスミン茶の“プチポット”」14ユーロ。また食べたい!

Aux Lyonnais
住所/32, rue Saint-Marc 75002 Paris
TEL/+33 1 42 96 65 04
URL/https://www.auxlyonnais.com/en/

一生に一度は泊まってみたい、羨望のホテル「ル・ムーリス」

デュカスさんの食をめぐるパリ滞在、宿泊はできることなら、パリの中心部でラグジュアリーの頂点を極めるドーチェスター・コレクションの「ル・ムーリス」を。1835開業、パリで最も歴史のあるホテルにして、5ツ星を超える最高峰“パラス”です。2020年に改装を終えた客室からはパリを一望することができ、部屋によってルーブル美術館、エッフェル塔、凱旋門にチュイルリー公園など、誰もが知るパリの名所を望みます。

顧客名簿には王侯貴族やセレブリティの名前が連なり、多くのアーティストが定宿として利用したこと歴史も。なかでもサルバドール・ダリのエピソードは、部屋に羊の群れやバイクを持ち込むなど、耳を疑うようなことばかり。そんなダリにも理解をしめすル ムーリス、このホテル自体がいわば“生きる芸術”なのかもしれません。

ル ムーリスのメインレストランは「レストラン・ル・ムーリス・アラン・デュカス」。デュカスさんと料理長のアモリー・ブウールさんが率いる、ミシュラン2ツ星の美食の殿堂です。シンプルな食材も、シェフの直観的なフレーバーの組み合わせと洗練された技術から、まさに芸術のような料理が生まれます。

レストランの内装はヴェルサイユ宮殿の平和の間「サロン・ド・ラ・ペ」からインスピレーションを得て、フィリップ・スタルクが再解釈。壮麗なエレガンスの中、モダンなウィットも感じさせます。

ル ムーリスといえば、パリで大人気パティシエ、セドリック・グロレさんのアフタヌーンティーも名物。見た目がちょっとボリューミーかな?と思ったけれども、あら不思議、ぺろりと行けちゃう。「世界一のパティシエ」に選ばれたことも納得です。

ちなみに、メインレストランの料理長アモリー・ブウールさんの料理が日本でこの冬、味わえます。日本・京都のMUNI KYOTOのシェフのアレッサンドロ・ガルディアー二さんと二人で開催するコラボ・イベント「フォーハンズ ディナー」、2月26~27日19:00~、場所はMUNI KYOTO by 温故知新 内MUNI ALAIN DUCASSE。料金は1名9万円。詳しくは、MUNI ALAIN DUCASSE TEL075-873-7771(10:00~18:00)へ。

Le Meurice
住所/228 rue de Rivoli, 75001 Paris
TEL/+33(0)1 44 58 10 10(代表)
   +33(0)1 44 58 10 55(レストランの予約)
URL/https://www.dorchestercollection.com/paris/le-meurice

街角のマニュファクチュールでビスケットやアイスを楽しみ、気軽なビストロで舌鼓、本格的に味わうなら星付きレストランへ。デュカスさんが奏でるあらゆる食の体験がここパリなら、まとめて体験できますよ。

通訳/林薫子(NARAFRANCE

 

Photos & Text:Chieko Koseki

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