栗野宏文が読み解くファッション動向「目を向けるべきは“中心地でない”場所!?」
長く国内外ファッションの動向、そしてトレンドやカルチャーが生まれる瞬間を見続けてきた栗野宏文が、現在と未来を冷静に見つめた。その先に見えた光とは。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2025年1・2月合併号掲載)
ファッションのキーワードは「Out of Center」
ファッションの現在と未来を考察するとき、そのキーワードは「Out of Center」つまり“中心ではない”ということだ。10月のパリ・ファッションウィークから帰国した知人のジャーナリストは、「いわゆるメインの例えばラグジュアリーブランドのショーに感動も共感も出来なかったが、カネックス(アフリカの銀行が運営するクリエイター支援)が開催したアフリカ・デザイナーの合同ショーは新鮮で美しかった」と語った。合同ショーではラゴス・スペース・プログラムやテベ・マググ、スケイナのコレクションが紹介された。
僕は2019年にFACE.A-J(Fashion and culture exchange. Africa-Japan)というプロジェクトを立ち上げ、東京とラゴスでショーを開催したが、テベ・マググはそのメインデザイナーでもあった。FACE.A-Jの趣旨も、それまでファッションや現代文化の中心であったパリやミラノではない場所から、中心的ではない新進デザイナーやアーティストを紹介する企画だった。コロナ禍の影響で足踏み状態となってはいるが、僕の思いは変わらない。
真の“多様性”は非中心的な場所から生まれる
ファッションやニュー・カルチャーの発信地や世界に影響を与えるナニカは従来の“中心地”ではない場所から生まれてくる……という確信がある。なぜなら従来型の中心地=先進国は政治的な行き詰まりやさまざまな制度疲労で社会が混乱しているからだ。
アメリカでは金と暴力が支配的で、政治的影響力を金で買おうとする資本家や政治的敗北を認めないがゆえに暴力的手段に訴える政治家が大手を振っている。欧州では移民の排除を声高に叫ぶ極右勢力が政治の中枢に食い込んでいる。このような状況はとても“先進国的”とはいえず、そこに真の“多様性”もない。多様性こそ社会の原動力であり、個性と創造性がそれを支える。非中心的な場所や組織からこそ、多様な創造や価値観、展望が生まれるのだ。
日本でいえば、中央政治の陳腐化や停滞は今回の選挙で過渡期に入ったといえよう。そして市町村等の自治体には希望が見える。生活や文化視点で見れば、おいしいレストランや気持ちの良い宿は不便な地方にあったりする。ファッション小売りも同じ状況で、渋谷の様にオーバーストア化している街よりも地方でオーナーが全てに責任を持っている“個店”が面白い。書店、ヴィンテージショップ、ギャラリーも同様だろう。
新人デザイナーのプレゼンテーションも東京以外、例えば富士吉田で“coconogacco(ここのがっこう)”が地元と共同し、開催する展示には“ファッションの濃度”を感じる。インバウンドが急増しているが、東京や日本全体が良い意味で“非・中心的”であり続けることこそが自分たちをより魅力的に見せるだろう。無理して“センターに行こう”としなくていいのだ。
魅力的なモノ、ヒトはOut of Centerにこそ在る。
リバプールで生まれハンブルグで成長したのはザ・ビートルズだった。
Text:Hirofumi Kurino