ライプツィヒで体験すべき7つのこと。バッハの音楽や伝統レースに出合う旅へ
音楽の聖地「ライプツィヒ」。2025年は、この地に27年間住んだヨハン・ゼバスティアン・バッハ没後275年の記念イヤーです。バッハ、メンデルスゾーン、ワーグナー、シューマン、マーラーなど名だたる作曲家が活躍したゆかりのスポットを訪ね、さらに足を延ばして刺繍の街「プラウエン」で可憐なレースの世界に浸ってみませんか。2024年12月クリスマス市のリポートとともに、ライプツィヒ&プラウエンで体験したい7つをご紹介。
コンパクトで歩きやすく居心地よい!
観光&買い物が楽しすぎるライプツィヒ旧市街
ベルリンの南南西約190Km(電車で約1時間20分前後)にあるザクセン州最大の都市、ライプツィヒ。人口は約60万人。ヨーロッパ大陸を縦横に走る主要街道の交差点として、また大きな川の合流地にあったため古くから交易で栄え、ドイツ有数の商業都市として発展してきました。
音楽はもちろん、出版、印刷、毛織物、褐炭採掘の街として、また13世紀から見本市(メッセ)の街として有名。音楽はもちろん、ドイツ文学・哲学もライプツィヒ抜きで語ることはできません。写真は17~18世紀の頃のヨーロッパの街道。
街中心の旧市街は半日もあれば歩き回れる広さで、なにより、大切な観光スポットや市場、デパート、人気ドラッグストア、カフェなどがギュッとコンパトに詰まっており、とても便利。こんな旅人にやさしい街はなかなかお目にかかれません。たとえ滞在が1日であっても十分に満喫できるはず。
1. クリスマスマーケット巡り(ライプツィヒ&プラウエン)
560年もの歴史をもつ、ライプツィヒのクリスマスマーケットの2023年来場人数はなんと220万人! マルクト広場やアウグスツゥス広場、ニコライ教会前広場など、街中の広場という広場のほとんどにはショップブースが並び、広場と広場を結ぶ路地(グリマイッシェ通りやピータース通りなど)にもマーケットが続いています。
ハンドメイドのクリスマスオーナメントから、毛織物や木工細工などの伝統工芸品、ホットビール&ワインなどのブースが鈴なりに並び、12月23日までの4週間、毎日が縁日のような賑わいです。
地元の人たちは仕事仲間とここで一杯ひっかけて楽しんだり、普段会えない友人と語り合う年忘れの集いといった印象。ツーリストも大勢いました。いちばん混むのが17時から20時頃。人気フードは売り切れてしまうのでお早めに。
ブルーチーズとハチミツ入りガレットを注文(9.5€)。ホットビールは4.5€。
海外からの出店もあって、こちらはフィンランドのヘルシンキからのハチミツ店。
ライプツィヒから南へ車で1時間半のところにある、レースの街「プラウエン」のクリスマスマーケットは規模は小さめですが、レースの本場だけあって、レースのオーナメントやテーブルクロスを売る店が目立っていました。
楽しかったのが、さまざまな温かい飲み物。定番は、グリューワイン(Glühwein)。 赤ワインに香辛料(シナモン、オレンジの皮、クローブ等)や砂糖を加えて温めたもの。
プラウエンでは、白ワインと卵の黄身をミックスして作る黄色い「エッグワイン」なるものを見かけました。
本場ドイツの焼きソーセージとともにいただいたエッグワイン。古い時代から飲まれているそうです。ほかにもブラッグベリーやチェリーワイン、オレンジワインなどさまざまな種類がありました。燻製肉・魚なども売られていて、地方独自の食は興味をそそります。※ホットワインは7.5€、陶器カップを返却すれば3.5€が戻ります。クリスマス市では残念ながら冷たい生ビールは売られていません。
ライプツィヒのクリスマスマーケット
場所/記事を参照
開催時期/11月26日~12月23日
営業時間/日~木 10:00~21:00、金・土10:00~22:00。12月22日、23日は10:00~20:00。
プラウエンのクリスマスマーケット
場所/旧市庁舎前広場周辺
開催期間/11月終わり~12月22日、11:00頃~20:00頃
2. 「ゲヴァントハウス管弦楽団」の演奏を聴く(ライプツィヒ)
ヨーロッパに現存する最古のオーケストラが「ゲヴァントハウス管弦楽団」。世界初の民間オケとして1743年に結成されました。そのルーツはライプツィヒ商人たちが資金を出し合って発足させたコンサート愛好会。初めて専用ホールでの定期的な演奏会を開き、入場料を払えば誰でも生演奏を聴けるスタイルを確立させました。
ゲヴァントハウスのコンサートホールは、観客席がステージを囲む変形六角形をしています。舞台に近い壁には分厚いメタルプレートを、観客側の壁には木材の壁を使用し、音響効果をアップ。オーケストラの舞台ポジションも独特です。たとえば米国のオーケストラは、バイオリンを一か所にまとめて配置しているところが多いそうですが、ゲヴァントハウスは、第一バイオリン、第二バイオリンを左右に分けて配置し、音が‘会話する’ようにセットします。
演奏者たちはドイツを含め26カ国から集まってきており、毎週末のコンサートに加え、毎週トーマス教会でのJ.S.バッハのカンタータ演奏会、オペラハウスの公演も行い、1シーズンにライプツィヒ以外の都市でも30~40の以上の演奏を行っている、といいます。おそらく世界一、多忙なオーケストラではないでしょうか。
ライプツィヒ滞在中に、ここでグスタフ・マーラーの交響曲第7番を聴く機会がありました。マーラーの世界観がほとばしる迫力の演奏に圧倒されながら、最後の地元観客の盛大な歓声を聞き、オーケストラと観客はとても近い良い関係にあって、なるほど民間が育ててきたオケだと肌で実感させられました。
ゲヴァントハウス・コンサートホールの広報マネージャーは「音が大きすぎても、観客に届かない演奏もあります。しかし、ゲヴァントハウスは観客の心にダイレクトに響く演奏でありホールなのです。日本のサントリーホールの音に似ています。個人的には札幌コンサートホールkitaraが大好きです」とも!
ゲヴァントハウス・コンサートホール
住所/Augustusplatz 8, 04109 Leipzig
※ゲヴァントハウス管弦楽団は2026年の5月に東京のサントリーホールで演奏予定。
https://www.gewandhausorchester.de/
3. バッハゆかりのスポットを訪ねる(ライプツィヒ)
言わずと知れた音楽の父バッハ。バッハは音楽家としての人生後半の27年間(1723~1750)をライプツィヒで過ごし、65歳で亡くなるまでトーマス教会(市内の主要教会も)の音楽監督を務めました。とともにトーマス教会附属学校の教師も兼任。バッハが活躍したバロック時代(1600年頃から1750年頃)、音楽は教会のミサや王族貴族のために存在したため、バッハの究極の聴き手は神だったといわれています。
今回の旅で初めて知ったのが、バッハは、「路上で暮らす孤児や貧しい子供たちを学校の寄宿舎に入れ、お金をもらう代わりに声楽と楽器のレッスンを受けさせ教会で歌わせた」という事実です。写真はトーマス教会付属の学校跡。
バッハ抜きには語れないトーマス教会。バッハの遺骨が納められ、敷地内にバッハの銅像が建てられています。13世紀前半に創建と伝わっており、7度の改修を経て、現在は後期ゴシック建築となっています。教会内の美しいステンドグラスは必見。
トーマス教会に隣接して建つバッハ博物館は、バッハ家と深い交流のあった商人ボーゼ家の邸宅跡を改装したもの。バッハの生涯を分かりやすく展示しており、バッハ愛用の聖書も保管されています。
館内に入ってすぐのところにある、現代の人気ミュージシャン、ポール・マッカートニー、レディー・ガガ、ポール・サイモンなどがバッハから受けた影響がよく分かる「音楽の比較」視聴コーナー、これは実に楽しい展示です。たとえばポール・マッカートニーの「ブラックバード」とバッハの「組曲ホ短調BWV996」両方を視聴できます。
バッハ博物館
住所/Nikolaikirchhof 3, 04109 Leipzig
開館時間/10:00~18:00(日 ~16:00)
http://www.bachmuseumleipzig.de/
4. 東西ドイツ統一のきっかけとなった「ニコライ教会」でミサを聴く(ライプツィヒ)
これまで筆者が入ったヨーロッパの教会の中で、もっとも神聖な空気に包まれ、荘厳な気持ちにさせられた教会。1981年からここで毎週月曜日に「平和への祈り」という会が開かれ、次第にそれが全国規模の民主化運動デモに発展し、ベルリンの壁崩壊への契機となったことは有名です。現在でも月曜日の集会は絶えることなく受け継がれています。
1165年頃の創建。旅人と商人の守護聖人、聖ニコラウスを祀っていて、創建当初は2つの塔をもつロマネスク様式で造られ、16世紀初頭にゴシック様式で拡張されてバロック様式の主塔と玄関は18世紀に建てられました。大ホール内のヤシの木をイメージした石柱が印象的です。
ニコライ教会
住所/Nikolaikirchhof 3, 04109 Leipzig
開館時間/10:00~18:00(日 ~16:00)
https://www.nikolaikirche.de/
5. 「メンデルスゾーン・ハウス」へ行く(ライプツィヒ)
結婚行進曲やバイオリン協奏曲など多くの名曲を残したフェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847)。バッハの「マタイ受難曲」を復活上演(1829年)し、約100年間忘れられていたバッハを世に復活させた功績は西洋音楽史の金字塔とされています。メンデルスゾーンは38年の短い生涯で750曲以上を作曲。
そんな彼の住んだ家が博物館となり、さまざまな生活道具や遺品、直筆の楽譜、得意だった水彩画、デスマスクなどが展示されています。見どころは1階のビーダーマイヤー様式(※)の居間や書斎。毎週日曜11時から、館内の音楽サロンでメンデルスゾーンやその時代の音楽のミニコンサートが開かれています。
ちなみに、メンデルスゾーンは、ミュンヘンのオペラハウス音楽監督や音楽雑誌編集部への仕事の誘いを断り、1835年「ゲヴァントハウス管弦楽団」の指揮者の仕事を選びました。ライプツィヒで活動することは音楽家にとって大きなステータスだったのでしょうか。彼は自ら資金を集め、ライプツィヒ音楽院を開校(滝廉太郎もここで学んでいます!)。ゲヴァントハウス、オペラハウス、トーマス教会少年合唱団など、ライプツィヒの音楽水準の向上になくてはならない存在でした。写真はメンデルスゾーンのデスマスク。
メンデルスゾーン・ハウス
住所/Goldschmidtstraße 12, 04103 Leipzig
営業時間/10:00~18:00 無休
https://www.mendelssohn-stiftung.de/
6. プラウエンレースの魅力に触れる(プラウエン)
プラウエンはチェコ国境のエルツ山地に近い丘陵地帯に位置するフォクトランド郡の町。人口約6万4000人。町中を流れるバイス・エルスター川の水質が良かったこともあり、15世紀にはプラウエンで布生産が始まりました。
17世紀以降は木綿、とくにヴェール作りが盛んで、19世紀半ば以降は機械刺繍が中心となり、現在でもレースやカーテンの産地として有名です。とりわけ繊細な織の「プラウエンレース」はパリ国際展示会でグランプリを獲得するほど評価されています。
まずは没入型のミュージアム「製糸工場」を訪問。フォクトランド地方の高品質の糸作りの工程が見学できるとともに、華麗なレースの世界に浸れます。エントランスから入ってすぐの部屋には、巨大な機械編み機がアーティスティックに展示されており、2階、3階に行くと刺繍作りの「糸」の世界へ。
手織りからミシン、ミシンからマシンへの変遷を見ることができます。
2つ目の糸の世界は、「プラウナー・シュピッツェ」。ここでは実際、何千という小さなレースを一気に作る機械編みを実際に動かして、そのプロセスを見学。何世代にもわたってこの地方に根付いてきた独自のレースパターン、そしてその背景にある伝統的な技法と職人技を、古い写真や展示とともに学ぶことができます。
窓にディスプレイされているカーテンの使い方が実に新鮮です。実際に日本の我が家のインテリアコーディネートでアレンジしてみたくなります。
製糸工場(Factory of Threads)Fabrik der Fäden
住所/Bleichstraße 108527 Plauen
開館時間/10:00~17:00
休館日/月
https://www.fabrik-der-faeden.de/
プラウナー・シュピッツェ(Plauener Spitze by Modespitze)
住所/Obstgartenweg 1, 08529 Plauen
開館時間/10:00~17:00。デモンストレーション11:00、13:00、15:00。日・祝日は要予約。
https://www.schaustickerei.de/
https://www.modespitze.de/(通販サイト)
7. 温泉町の公共スパに入る(バート・エルスター)
バート・エルスターはプラウエンから南へ車で約40分、チェコとの国境近くに位置する温泉町。飲用、入浴用泉、泥湯があり、婦人病や肝臓の疾患などに効用があるといわれています。この町のザクセン州立公共バス(スパ)の広さと施設の充実度には目を見張ります。
ホテル、ショップなども併設されおり、ビール風呂、イスラム式のハンマムなども整い、映画「テルマエロマエ」を思い出すほどの巨大な温泉施設です。
ザクセン州立浴場(The Saxon State Baths)
Sächsische Staatsbäder GmbH Soletherme & Saunawelt Bad Elster
住所/76MQ+8P, Bad Elster
営業時間/9:00~22:00 無休
※ホリデーシーズンは、2泊3日€210~のお得なパッケージもあり
https://www.saechsische-staatsbaeder.de/en/
さらに足を延ばして…
チェコ国境に近いエルスタ山地の北部にあるマルクノイキルヒェン(Markneukirchen)は、世界的な楽器製造で有名。バイオリン、チェロ、管楽器…。ミュージアムや楽器のための製材所などの見学ができます。写真は、この地で4世代続く楽器工房のマルクス・デートリッヒさん(www.guitar-lute.com)。
ライプツィヒの街中で気になったあれこれ
ショッピングモールと一緒になったライプツィヒ中央駅の美しい駅舎。
古くから見本市の取引所としても使われてきた「メドラーパッサージュ」は、ライプツィヒを代表するショッピングアーケード。貴金属や高級ブランド店、カフェなど老舗店が保存されています。ホーフと呼ばれる中庭式の商館もあり、マルクト広場の近くにある1750年築の「バルテルス・ホーフ」(旧商業裁判所の建物群)が有名。
詩人ゲーテもご贔屓だったレストラン「アウアーバッハス・ケラー」は、今や超有名観光スポット! バッハ、シューマン、ワーグナー、リストも通ったトイツ最古のカフェ「カフェ・バウム」(2024年12月現在改装中、2025年春に再オープン予定)もぜひ。
ドイツのクリスマス菓子といえばシュトーレンが有名ですが、ディスカウントスーパー「EDEKA(エデカ)」で、サイコロ型のシュトーレンを発見! ちなみに、ここで購入した6切れ入りシュトーレンはなんの遜色もなく美味でした。
コスパ最高のドラックストア「dm(ディーエム)」は必見。UVデイクリームなど、オリジナルブランドのクオリティの高いこと。まつ毛をぐっと上げてくれるビューラーなど、優秀すぎます! 日本では見かけないコスメグッズも多いので、ばら撒き土産はぜひここで。
取材協力/ドイツ政府観光局
ライプツィヒ観光局
フォクトランド観光局
Photos & Text: Sachiko Suzuki(Raki Company)