エレガントで強靭! いま推したいメンズのバレエダンサー
メンズのバレエダンサー(=バレリーノ)を主人公にした小説や漫画、バレエの要素を取り入れたメンズファッションが話題。実際に舞台を見に行くなら、どんなダンサーに注目するといいのだろうか。知れば知るほどバレエが見たくなる!(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年7・8月合併号掲載)
1.しなやかな筋肉にうっとり!いま推したいメンズダンサー
バレエダンサーの肉体の力強さに魅了された写真家、井上ユミコ。ダンサーを撮影し続け、バレエ公演も主催する彼女に“推し”を聞いてみた。
Shohei Horiuchi & Kentaro Mitsumori
(左)スウェーデン王立バレエ団 プリンシパル 三森健太朗 (右)K-BALLET TOKYO プリンシパル 堀内將平 演じ手でもある彼らの奥行きのある表現に引き込まれる。堀内は井上とともにBTNCをプロデュースし、舞踊監修も担当。三森はモデルとしてファッションブランドの広告等でも活躍中だ。
Haruo Niyama
二山治雄 ローザンヌ国際バレエコンクールで1位を獲得した実力者で、その体は指先までエレガントかつ強靭。パリ・オペラ座バレエ団の契約団員を経て現在はフリーで活躍。初の写真集『HARUO NIYAMA』(EDITORS)が発売中。井上が撮影を手がけた。
バレエのネクストステージを牽引する3人
「もとはクラシックバレエに興味はなかったのですが、8年前に仕事でパリ・オペラ座バレエ団のリハーサルを撮影することになり、衝撃を受けました。隅々にまで意識が行き届いている体って初めて見たんです。被写体に出会ってしまった、と思いました。それからはバレエに一辺倒。私の“推し”は全員私が主催しているバレエ公演『バレエザニュークラシック(以下、BTNC)』に出ているので、ぜひ見に来ていただきたいのですが(笑)、今って日本人のダンサーが世界中で大活躍しているんですよ。
写真の二山さんは身体能力がレベチ。中性的で妖精ともいわれていたけど、実はすごくマスキュランでもあって。もう“二山治雄”だけで一つのジャンルなんです。BTNCはバレエの新しい定番を作ることがコンセプトなのですが、彼はまさに“ニュークラシック”なダンサーです。堀内さんはなんといってもストーリーテラー。誰より役の解釈が深くて、それを表現することに突き抜けている。三森さんはマーク ジェイコブスやH&Mなどファッションブランドのモデルを務めたりもしていて、すごく視野が広いし、感覚が今っぽい。堀内さんと三森さんは今回のBTNCで振付も行うので、彼らによる新たな表現も楽しみです」
BALLET TheNewClassic 2024 バレエザニュークラシック
伝統あるバレエを現代ならではの解釈で表現するガラ公演。上記で紹介した3名ほか世界で活躍するトップダンサーたちが集結する。衣装にチカ キサダ、舞台演出にエルメスやコム デ ギャルソンなどのショーの演出を手がける若槻善雄などファッション界のトップクリエイターたちも参加しており、ファッションラバーにとっても見逃せない。
期間/8月2日(金)〜3日(土)全4公演
会場/新国立劇場・中劇場
URL/www.balletthenewclassic.com
井上ユミコ(いのうえ・ゆみこ) 写真家。バレエダンサーに魅了されて以来、ライフワークとしてダンサーの写真と映像を撮り続ける。2018年にダンサーの魅力を伝えるウェブマガジン『アレクサンドル』を創刊し、20年からバレエ公演『バレエザニュークラシック』を主催。その活動は写真の枠を越える。
2.バレエに打ち込む少年の青春譚
バレエを題材にした物語は多々あれど、いま話題なのは少年を主人公にしたこの2作。バレエを知り尽くしたライター、編集者の富永明子がその魅力をひもといた。
『spring』
舞台で踊ったあとのような気分に
バレエの神に選ばれた天才・萬春の姿を、最初の3章は第三者の視点から、最終章は春本人が語る構成で追うドキュメンタリーのような物語。特に4章で描かれる生身の春が実に魅力的だ。ダンサーであり振付家でもある彼が、バレエを通して「この世のカタチ」を表現しようとするプロセスが緻密に描かれて、彼の葛藤と歓喜を追体験することで私たちも大作を踊り終えたような気分になれる。そんな不思議と心地よい読後感のある一冊だ。
『ダンス・ダンス・ダンスール』
美しい筋肉で踊るシーンがド迫力
©︎ジョージ朝倉/小学館
「バレエの舞台って泣いたり笑ったり、大興奮するものなんだよ!」と言うと、驚かれることがある。そんなときは、この漫画を読んでもらうと伝わりやすいだろう。本作品はバレエの才に恵まれた主人公・潤平が、壁を突破しながら成長を遂げていく青春物語。ジョージ朝倉の描くダンサーは美しい筋肉を持ち、踊りのシーンは迫力満点! 男性ダンサーならではのスーパーテクニックも丁寧に解説されるので、舞台鑑賞の教科書にも最適だ。
富永明子(とみなが・あきこ) 編集者、ライター。5歳からクラシックバレエに親しみ、大学・大学院では舞台芸術を専攻。現在はバレエの書籍や記事の編集・執筆を行う。近著に『バレエ語辞典』『トウシューズのすべて』(ともに誠文堂新光社)。
3.バレエにスカート… 今のメンズファッションって?
バレエコアやスカートなど、“フェミニン”とされていた要素がメンズファッションに浸透しているようだ。WWDJAPAN編集長の村上要が解説。
ディオールは伝説的なバレエダンサー、ルドルフ・ヌレエフから着想を得た。東京のメンズブランドではエムエーエスユー(MASU)やカミヤ(KAMIYA)を筆頭にスカートルックが頻繁に登場。
ジェンダーを軽々と超越。東京ブランドで顕著
元来メンズはスタイルの幅が狭く、ルールも多い。ゆえにクリエイションはアップデート、特に男性に欠かせないスーツのアプデで現代のスタイルを追求してきた。数年前まで、アプデの参考はストリートだった。各ブランドはジャケットをオーバーサイズに仕上げたり、足元にスニーカーを合わせたり。ところが今の参照元は、完全にウィメンズだ。
2024-25年冬の「ディオール」もそうだろう。着想源は男性バレエダンサーに得ているものの、「ディオール」ならではの“ニュールック”を思わせる曲線のウエストラインや、繊細な生地感、随所に覗くフリルのディテールは、まるでウィメンズ。男性ならではのスーツに、フェミニンと称された要素が当たり前のように加わったことには時代の変化を感じざるを得ない。
実際、若い男性に話を聞くと、「メンズ/ウィメンズなんて関係ない。好きなものは、好き」というフラットな価値観が顕著だ。「ディオール」のキム・ジョーンズや今の若い男性は、旧態依然のジェンダー観に抗ったり、反旗を翻したりではなく、そもそも意識せず、だからこそ軽々と超越している。そんなムードは、東京のブランドでも顕著だ。今は、当たり前のようにメンズのスカートが登場している。
村上要(むらかみ・かなめ) 『WWDJAPAN』編集長。東北大学教育学部を卒業後、地元の静岡新聞で社会部記者として勤務。退職後はニューヨークの州立ファッション工科大学でファッション・コミュニケーションを学ぶ。現地での編集アシスタントを経て帰国し、WWDJAPANの記者に。2021年から現職。
Photos:Yumiko Inoue(1) Interview & Text:Mariko Kimbara(1) Text:Akiko Tominaga(2), Kaname Murakami(3) Edit:Mariko Kimbara