【インタビュー】ヴィヴィアン・サッセンが語る、写真に無我夢中な30年間
京都で開催される国際的な写真フェスティバル 「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2024」。国内外作家の貴重な写真コレクションを京都市内各所の歴史的建造物や近現代建築の空間に展示。その中でアーティストのヴィヴィアン・サッセンによる200点以上の作品が展示される。30年余りにわたって真摯に向き合ってきた写真との関係性とは。
──あらためてこれまでを振り返って、写真を始めた当初はこんなに長く続けると想像していましたか。
いえ、まったく想像していなかったです。とにかく、これまで写真のことしか考えてこなかったものですから。小さい頃からいつも何か作ることに夢中で、ある日写真を撮ってみたときに「ああ、これが自分らしいメディアなんだ」とハッとして。そこから先のことなんて考えずに無我夢中で撮り続けていたら、あっという間に30年たっていましたね。
──30年の間に数々のパーソナルワークから作品集出版、ファッションキャンペーンまで手がけてきました。個人制作とクライアントワークにおいて違いは感じますか。
撮影自体は変わらないですね。強いて違いといえば制作の進行の仕方でしょうか。出版物では個人制作と同じく、実験的かつ自由に撮影に臨みます。一方で広告になると、さまざまな条件をまるでパズルのように組み合わせるプロセスをたどります。といっても、そのパズルを完成させるチームワークも楽しいんです。反対に個人制作では、より孤独なプロセスに向き合います。その両方の仕事をする中で外向的/内向的な自分の二面性が養われているように思います。
──数々のクライアントワークを通して写真も自分自身も消費されることなく作品の価値を保つには、絶妙なバランスが必要なように思います。もし両立する活動を模索している若手写真家がいたら、どのようなアドバイスを投げかけますか。
そうですね…。私の場合、キャリアをスタートしたときからどちらも始めていました。なぜなら政府からの補助金に頼りたくなかったから。なので、コマーシャルワークは、私にとってクライアントが作品を気に入ってお金を払ってくれているという感覚に近く、不自由を感じたことはあまりないです。でも確かに、ファッションの仕事で難しいところは、個人制作における内向的で深い思考から外へ引っ張り出されること。締め切りやいろいろな人々とのコミュニケーションによって、個人制作に向き合う時間を見つけづらくなることはあります。
──写真の特性上、複製できることの良しあしもよく語られるトピックです。ヴィヴィアンさんがペインティングやコラージュを始めたきっかけを教えてください。
私の場合は、アートスクールに通っていた頃から写真にペインティングやコラージュを施していました。でも当時はそんなに夢中になれず、すぐにやめてしまいました。しばらくして『POP』をはじめ雑誌が実験の場を与えてくれたことを転機に、徐々に再開していきました。でも実は最初の自分の作品にそんなに手を加えたくなかったんです。というのも当時、まだデジタルでファッションを撮り続けていたコントラストとして、アートは純粋かつ、すべてアナログであるべきだと考えていたので。
──いまやヴィヴィアンさんの作品といったら、どちらも融合しているイメージなので、その考えは意外ですね。
性能のいいデジタルカメラを手に入れて作品を撮り始めたことをきっかけに融合していきましたね。ほかにも、キヤノンの小型プリンター「SELPHY」で簡易的なプリントを使うようになって。当時ファッションシューティングでは、撮影の方向性を確認するために、90年代のポラロイドの代わりとして簡易的なプリントが普及したんです。その延長線として、ある日なんとなくプリントを切って貼り付けているうちに楽しくなって。とても有機的なプロセスに魅力を感じ、さらにインクや絵の具などでレイヤーさせていき、最終的に作品のプロセスに取り入れるようになりました。いまの時代、SNS上にあらゆるイメージが流れる中で、フィジカルなオブジェクトとして写真を所有することは面白いことなんじゃないかと思います。
──撮影する瞬間と、ペインティングやコラージュをする瞬間に気持ちの違いはありますか。
そうですね。撮影の場合はよりインタラクティブで、周りの人々と世界を共有しているような気持ちになります。一方で、スタジオにこもってコラージュやペインティングに取り組んでいるときは、音楽をかけて自分だけのゾーンに入ります。でも、どちらも基本的な感覚は共通しています。撮影していても、子どもの頃に戻ったかのように時々流れに身を任せながらも真剣に遊んでいるような感覚をつかむことがあります。自宅で一人で制作していても同じような感覚に入るんですよね。
──締め切りや制作に追われているときに、そうした感覚で集中力を高めるのは意外と難しいように思います。リフレッシュする方法があれば教えてください。
眠ることですね。日中に起きた多くのことがあふれ出てくる夢は、昼間の生活と同じくらい大切な時間だと思います。また撮影でよく訪れる自然も、周りの景色を眺めるだけでも心が落ち着きます。
──自然はヴィヴィアンさんの作品にとって象徴的なモチーフだと思います。自然とはどのような存在ですか。
自然はすべての源です。いまの私たちは自然界からあまりにも遠ざかっていますが、本来は私たちも自然の一部ですよね。理屈もなく、美しく素晴らしく、同時に神秘的な存在でもあって。アニミズムの考え方にある石や岩、樹木すべてに魂が宿っているという考え方に共感します。15歳の息子と自然にまつわるドキュメンタリーをよく一緒に見ています。
──今回の展示に際して来日はされますか。
2016年ぶりに日本へ行きます。夫と息子も一緒なのですが、特に息子はずっとアニメや漫画が好きで、日本に行くことを夢に見ていたので、かなりワクワクしているようです。
──それは楽しみですね! 展示会場の京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)は約1000平方メートルのスペースですが、展示構成をどのように決めていきましたか。
建築家の遠藤克彦さんに協力していただき、会場構成を詰めているところです。最初、遠隔で考えているときは、どこから構成していくべきか悩んでいたのですが、遠藤さんからアイデアをもらい、自分では思いつかないような面白い内容かつ日本的な構成にとても驚かされました。学生時代も含め昔の作品から「Umbra」シリーズまで30年の集大成が凝縮されています。音と映像によるインスタレーションも発表するほか、メインパートとしては、アフリカで撮影した初期作品「Parasomia」と「Flamboyar」シリーズが公開されます。
──展示以外にも日本を回る予定はありますか。
1カ月ほど滞在するので、いろいろな所に行きたいですね。まず最初の1週間は、息子が「KYOTOGRAPHIE」でボランティアとして参加できないかと考えています。今回は私の母も来るので、じっくり京都を散策できたらと思ってます。ほかにも直島に行ったり、長崎の原爆ドームに行ったり。夫からはキャンピングカーを借りて郊外へ旅に出るのもいいんじゃないかというアイデアも挙がってます。最後の週は東京に戻ってきて、もしかしたらフォトシュートができたらいいかなと。息子はファッションにとても興味があるので、アシストできる機会だと思って私に「日本で撮影できるよね? 僕も手伝えるよ」としきりに促してくるんです(笑)。
「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」
京都で開催される国際的な写真祭 「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2024」。国内外の重要作家の貴重な写真作品を趣きのある歴史的建造物やモダンな近現代建築の空間に展示。2024年は「SOURCE」をテーマに12の会場で13の展覧会を開催。
会期/2024年4月13日(土)〜5月12日(日)
場所/京都市内各所
URL/www.kyotographie.jp
「PHOSPHOR: 1990-2023 Fashion & Art」
Presented by DIOR
In collaboration with the MEP – Maison Européenne de la Photographie, Paris
アーティストのヴィヴィアン・サッセンが1990年から2023年まで手がけた200点以上の作品を京都新聞ビル地下1階の印刷工場跡で展示する。音と映像によるインスタレーションも発表するほか、アフリカで撮影した初期作品「Parasomia」や「Flamboyar」シリーズも公開。
会場/京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)
Interview:Yoshiko Kurata Edit:Michie Mito