展覧会レビュー:現地でも体験できない礼拝堂内部の光を再現。「マティス 自由なフォルム」 | Numero TOKYO
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展覧会レビュー:現地でも体験できない礼拝堂内部の光を再現。「マティス 自由なフォルム」

展示風景 ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部再現
展示風景 ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部再現

アンリ・マティスの切り紙絵に焦点を当てながら、絵画、彫刻、版画、テキスタイルなどの作品や資料を紹介する「マティス 自由なフォルム」が国立新美術館(東京・六本木)で開催中。なかでも切り紙絵の代表的作品である《ブルー・ヌードⅣ》ほか、日本初公開の大作《花と果実》など必見の作品がそろう。さらに、マティスが最晩年にその建設に取り組んだ、芸術家人生の集大成ともいえるヴァンスのロザリオ礼拝堂にも着目した本展「マティス 自由なフォルム」をアートプロデューサーの住吉智恵がレビュー。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2024年5月号掲載)

敬虔さと慈しみに満ちた場所

展示風景。アンリ・マティス《花と果実》1952-1953年 切り紙絵 ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse
展示風景。アンリ・マティス《花と果実》1952-1953年 切り紙絵 ニース市マティス美術館蔵 ©Succession H. Matisse

アンリ・マティスの約150点もの作品を一堂に集めた大規模な展覧会が開催中だ。なかでも見どころの1つは切り紙絵の大作《花と果実》。所蔵するニース市マティス美術館ではガラスケースに収められているが、そのケースが巨大すぎて運搬できず、本展ではガラスで覆われずに展示された。そのおかげで、身体が不自由になった晩年に切り紙絵の着想により再び開花したマティスのおおらかな造形感覚を直接体感することができる。

展示風景 ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部再現
展示風景 ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部再現

さらに本展では、「一生の仕事の集大成である」とマティスが語ったヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部が実物大で再現された。この村で療養していた画家を献身的に看護した女性がのちに修道院に入り、その礼拝堂建立のためにマティスは自身の最晩年の日々を捧げた。かつてこの礼拝堂を見るために南仏を訪れ、屋根の十字架から燭台や上祭服のデザインに至るまで、マティスの美学がゆきわたるこの場所から深い幸福感を受けとったものだ。白いタイルに緩やかに描かれた聖母子像。切り紙絵の手法で誂えた涼やかなステンドグラス。あらゆるものが敬虔さと慈しみに満ちている。

展示風景 ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部再現
展示風景 ヴァンスのロザリオ礼拝堂の内部再現

本展では自然光の移り変わりによって刻々と変容する空間の様子をも再現している。蝋燭が灯る夜のヴァンスのロザリオ礼拝堂に朝の光が差し、ステンドグラスの色がタイル画に映り込む。日暮れには床に落ちるステンドグラスの影が移動して暗闇に戻る。現地でも体験することのできない、天上の楽園に没入したかのような感覚を楽しみたい。

展示風景 ©Succession H. Matisse
展示風景 ©Succession H. Matisse

展示風景 ©Succession H. Matisse
展示風景 ©Succession H. Matisse

展示風景 ©Succession H. Matisse
展示風景 ©Succession H. Matisse

展示風景 ©Succession H. Matisse
展示風景 ©Succession H. Matisse

※掲載情報は4月18日時点のものです。
開館日や時間など最新情報は公式サイトをチェックしてください。

「マティス 自由なフォルム」

会期/2024年2月14日(水)〜5月27日(月)
会場/国立新美術館
住所/東京都港区六本木7-22-2
開館時間/10:00~18:00
※毎週金・土曜日、4月28日(日)、5月5日(日)は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで
休館日/火曜日 ※ただし4月30日(火)は開館
URL/matisse2024.jp

Text:Chie Sumiyoshi Edit:Sayaka ito

Profile

住吉智恵Chie Sumiyoshi アートプロデューサー、RealTokyoディレクター。1990年代よりアートジャー ナリストとして活動。オルタナティブスペース TRAUMARIS主宰を経て現在各所で現代美術 とパフォーミングアーツの企画を手がける。 Photo:MP Risaku Suzuki

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