【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.48 円安の進行ふたたび加速
Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。
vol.48 円安と住宅ローン金利の関係
東京は徐々に暑さも厳しくなってきて、梅雨も明けようとしている今日この頃ですが、円安がまた、進行していっています。
円安「防衛ライン」迫る
https://www.jiji.com/jc/p?id=20230628164652-0045690207この原稿を書いている6月30日(金)の時点で、東京外国為替市場で1ドル=145円07銭まで円が下落していました。昨秋は円が145円まで下落したときに、政府が介入しそもそも保有していた国のドル建ての国家の“預金”である外貨準備資産を原資に10兆円弱のドルを売って円を買いました。一時的には円安のトレンドを食い止め、一旦140円程度まで戻しましたが、その後じわじわと150円を超える結果に。しかしながら昨年末の日銀の緩和修正の発表などの影響で、今年に入ってからは一時的には130円を割り、その後も130円台で推移していました。そこからじわじわと円安に向かってはいましたが、数日前のFRBの利上げ観測でさらに急激に円安が加速したというのが今の動きで、またもや145円を超えてしまいました。
昨秋に比べると資源高も少し落ち着いたこともあり、むしろ値上げのトレンドにすでに世間が慣れてしまったところもあるのか、世の中へのインパクトは昨年の円安ショックに比べると相対的に限定的になっているようにも思えます。日本政府としても、この価格改定をゆるやかなインフレスパイラルにつなげていきたい考えがあるのだと思うのですが、円高対策としての利上げはなさそうです。
以前にも書いたトピックではありますが、ある種財政破綻に近く先行きも明るくない今日の日本の経済状況を思うと長期的にじわじわ円安が進んでいくのも致し方なしとも思えます。とはいえ直近の為替の動きをみると、この1年弱の乱高下の一番のパラメータは日米の政策金利の見通しに基づく動きになっていることが朧気に分かりますが、日本が金利をあげにくい理由として、国内の景気が上向きになりきってないという判断がまずありつつ、そこに内包される要素のひとつでもある住宅ローンの存在が挙げられます。
ここは解雇規制や終身雇用という仕組みともそれなりに関係があるところで、変動金利でメガバンクから借りると0.4%前後という驚異的な低金利で借りられるわけですが、アメリカだと今住宅ローンを借りると7%くらいと日本の20倍弱の水準です。
日本で仮に0.4%の利率で5000万円借りたとすると利子は年間20万円程度ですが、アメリカで同じ金額を借りると利子だけで年間350万円、月額30万円弱を元金とは別に利息として支払わないといけない環境です。国内の住宅市場に限っていうと、この金融緩和によって“インフレ”が起こっていて、特に都心の不動産の価格はこの20年でもしっかりと上昇しています。給与もあわせてそのペースであがっていたらよかったのですが、残念ながらそうはなっていません。
変動金利とはいえ、日本でいきなりアメリカレベルに利率があがることは考えにくいですが、政策金利の利率は住宅ローンの金利と密接に結びついています。仮に利上げを実施するとしてもまずは長期金利からの実施となり、新たに固定金利でローンを借りる人が最初に影響を受けることになりますが、仮に短期金利もあがり変動金利が高くなってしまうと、おそらく物価高以上に多くの国民の生活に直結します。変動金利でローンを借りた人の自己責任と割り切ってしまうことも簡単ですが、ローンを返せず住宅を売却、債務地獄や返済不能に陥る人が珍しくないという状況はある種サブプライムにも近く、国内の景気に与える状況は少なくないので、国家としても安易に押し付けられる状況ではありません。まさに「赤信号、みんなで渡ると怖くない」ですね。
円安による物価高をとるか、住宅ローンの金利アップの生活苦をとるか、というなかなか地獄の二択で困ったものですね、いやはや。梅雨もこの苦境も早く明けることを祈りながら。
Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue