【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.33 総合経済対策と賃上げ |Numero TOKYO
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【連載】「ニュースから知る、世界の仕組み」 vol.33 総合経済対策と賃上げ

Sumally Founder & CEOの山本憲資による連載「ニュースから知る、世界の仕組み」。アートや音楽、食への造詣が深い彼ならではの視点で、ニュースの裏側を解説します。

vol.33 政府による物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策

Photo: Aflo
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39兆円のうち、物価高騰対策・賃上げには12.1兆円となっていますが、電気料金の補助に相当な割合が当てられるようです。確かに家計にとってはありがたいものではありますが、問題の根本的な解決になっているかというと全くそうではありません。

新たな総合経済対策が決定 物価高や円安にどう対応? https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221028/k10013873221000.html

前回のコラムで書いた旅行支援の補助金は、一時的なものとはいえ、コロナで(これもある意味一時的に)大きなダメージを受けた旅行業界への支援となるので、一過性の支援であっても一定以上の意味があるものと言えます。

ただ、今後もエネルギーのコストが高いまま推移していく可能性を鑑みると、電気代の補助といったサポートは一時しのぎの対策の側面が大きく、ガソリンも同様だと思いますが、半永久的にこの補助を続けられるのかと言うと、そうではありません。やはりそこで必要なのは賃上げで、値上がりをした光熱費を支払えるような給与を恒常的にもらえる状態にもっていくことが一番必要です。

光熱費が月10万円になってしまっている、といったヨーロッパの状況よりは随分とマシな値上がり幅とはいえ家計へのダメージは当然あり、短期的に補助金を出すという施策自体は理解できますが、中長期的には賃上げを実現していき物価高に耐えうるサイクルを構築せねばなりません。

では、賃上げのためには何をすべきなのか、というところですが、最低賃金の引き上げと、雇用の流動性を高めることの2点に尽きるのでは、と。

最低賃金のルールを適用する企業は一定規模以上の利益が出ている企業に限定、といった工夫は必要だと思いますが、現状時給1,000円前後の基準を1.5倍〜2倍にすることで、大きな底上げがなされると思われます。ちなみに仮に最低賃金が時給2,000円まで引き上げられると、1日7時間を週5日、月22〜23日働くと、月給30万ちょっと、そういった労働スタイルのアルバイトでも年収370万円程度になります。

企業にとっては当然人件費の負担増にはなりますが、現状の派遣社員を(後述する解雇のハードルを下げることで)直接雇用にシフトしていったり、自動化のイノベーションに注力していくトリガーになり、社会構造全体の効率化という観点からはプラスの圧になるのではと考えています。逆説的にいうとそのルールに耐えうる企業が生き残っていけばいいという側面もあります。

また、あわせて解雇のハードルをさげることで、賃金のベースは絶対にあがっていきます。企業としては活躍してくれている人材には今以上に払うことは難しいことではなく、むしろ活躍するかしないか分からない前提で高額な給与を設定することが難しいことが、ばりばり働いている層の賃上げの大きなネックになっています。

時代遅れの表現ではありますが、少し前まで「総合職」とひとくくりにされていた、一定のキャリアを積んで出世していくような前提のキャリアを選ぶ人材とは、一定の条件で解雇可能なルールとセットにしていくことができれば、そのセグメントの給与水準は、全体でみたときに1.5倍〜2倍程度にあっという間にアップするのではと思います。

とはいえ全員がそういった働き方を強要される状況がいい社会だとは思わないので、これまた時代遅れな表現ですが、一昔前に「一般職」呼ばれていた、出世前提ではない働き方というオプションを企業が用意するべきだとも同時に思います。

当時は、主に女性が結婚するまでそういう働き方をするケースが多かったと思いますが、男女ともに生き方が多様になった今日においてはワークライフバランスの一環として、男性がそういう働き方を選択することが普通になっていくのも、それはそれでいいことなのではと思います。

新しい資本主義と掲げるのもけっこうですが、まずはいわゆる普通の資本主義をしっかりと実践していくことが、この国がグローバル資本主義の中で生き残っていくのには必要なことなのだろうなぁと日々のニュースを見てしみじみ感じています。

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Text:Kensuke Yamamoto Edit:Chiho Inoue

Profile

山本憲資Kensuke Yamamoto 1981年、兵庫県神戸市出身。電通に入社。コンデナスト・ジャパン社に転職しGQ JAPANの編集者として活躍。その後、独立して「サマリー」を設立。スマホ収納サービス「サマリーポケット」が好評。

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