髪との関係は新時代へ vol.2 ファッションを盛り上げる、 お手軽ウィッグ
昨今、ヘアの世界では新しいムーブメントが巻き起こっている。時代の最先端をいくヘアサロンの紹介からヘアドネーションの方法、ヘアケアアイテムまで自分らしいヘアとの付き合い方を探してみよう。vol.2はファッションを盛り上げる、お手軽ウィッグ。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年3月号掲載)
髪形の概念を変える選択
社会に多様性の概念が浸透する中で、着こなしの自由度は以前にも増して確実に高まってきた。ヘアのフォルムやカラーもまたしかりだけれど、その可能性をさらに広げてくれそうなのが、ウィッグだ。自分の希望に合わせたプロによるカットを施し、服やメイクを選ぶ感覚で髪形を“着せ替え”できる「NEJIKO(ネジコ)」の提案が、ヘッドピースを用いた装いの世界に新風を吹き込んでいる。
「私は高校生の頃からウィッグを着用してきました。当時は人毛でできた高額なものか、ひと目でウィッグとわかる人工毛のものしか選択肢がなくて…。ヘアスタイルそのものよりも値段や材質ありきでセレクトするしかない状況に、モヤモヤを感じていました」と、ブランドを主宰するハゲカノさんは語る。「でも、あるとき美容師の友人に人工毛でできた手持ちのウィッグを切ってもらったら、驚くほど自然に自分らしくなじんだんです。そこから、人の手によるカットを通して、ウィッグスタイルにもサロン帰りのようなワクワク感とナチュラルな印象をもたらせたらという思いが強くなりました」
脱毛症をきっかけに、ウィッグを日常生活の中で使用するようになったハゲカノさん。「さまざまなウィッグを使ってきた経験を生かし、テカテカしておらず、まるで人の毛のような質感を持つ人工毛を選んで採用しました」。また美容師との対話を通して、ウィッグだからこそ叶えられるポイントや、より自然に見えるお手入れの方法を発見。自身では“脱毛症だから縁がない”と感じていた“ヘアサロン”の視点を取り入れることで、ウィッグをより多くの人にとって身近なものにするための工夫をそこかしこにちりばめている。
「例えば色選びにおいて、トレンド感のあるハイトーンのピンクカラーなどは『こういう色は地毛を染めても2〜3日で色落ちしてしまうからウィッグで楽しめるのはいいね』と美容師さんに言われ、ウィッグならではの利点に気づきました。今後展開していくアイテムにも、地毛ではトライしにくいようなトレンドカラーを取り入れてみたいと考えています。また、ヘアサロンに行くと仕上げに必ずヘアセットをしてくれますよね? その観点を取り入れ、製品はカットしたあと、軽くオイルを付けてスタイリングまでした状態でお客さんにお渡ししています。ウィッグも軽めのオイルを使って少しセットすると束感が演出できて、すごく自然になじむんです。私自身、ウィッグのお手入れには専用スプレーしか使ったことがなかったのですが、最近は仕上げにヘアオイルを使うように」
こだわりと気軽さの両立
気分に合わせて“着せ替え”をしやすいよう、価格帯にも大きな配慮が。「自然な質感の人工毛を採用するほか、少しずつ異なる複数色の毛を混ぜて、より立体的でリアルに見えるように設計。美容師さんによるカットまで含めても、値段が高くなりすぎないように調整しました。ウィッグのカットには少しコツがいるため引き受けていないという美容師さんも多いのですが、今後はより多くの人に切ってもらえるよう、カットのノウハウを周知する活動も考えています。あとは私なりのこだわりポイントとして、顔まわりがよりリアルに見えるもみあげのヘアカットも。ここに短い毛があることで、耳にかけても肌とヘアがぱっくり割れて見えず、自然な印象がぐっとアップ。地毛のある人がウィッグを着けたときにも、互いのヘアの色が程よく混ざってうまくなじむんですよ。ウィッグの世界では、このもみあげ部分のカットはオプションになっていることが多いのですが、私は初めから付いているべきだと思うので料金内に組み込みました。ちょうどプロにカットとカラーをお願いするくらいの値段で、まるで美容室帰りのように、届いてすぐに着けて出かけられるようなウィッグになればと考えています」
それはヘアロスや脱毛症といった髪にまつわるお悩み解決のためにはもちろん、自由な発想で幅広く役立ててほしいとハゲカノさんは言う。「就職活動や職場のルールで髪色に制限が生じてしまう人や、成人式などのイベントに合わせてヘアカラーを変えてみたいという人にも気軽に楽しんでもらえたら。トレンドの服を選ぶ感覚で“次はこんなウィッグを着けてみたいな”とセレクトしたり、“私はこれを着けてるよ”と友達に紹介したりできるくらい、ウィッグを着けることが普通な世の中になったらいいなと思っています。頭や髪の悩みを“隠す”ためだけではなく、気分に合わせてトレンドを取り入れ“楽しむ”ことのできる、ファッションアイテムとしてのウィッグを浸透させていきたいんです」
Photos:Sayuri Murooka Interview & Text:Misaki Yamashita Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara
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