2023年を代表するSF映画監督たち
非現実に胸躍る作品はもちろん、学術的なアプローチで限りなくリアルを追求したものまで、進化し続けるSF映画。いまを代表する4人の監督を映画ライターのよしひろまさみちがナビゲート。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2023年1・2月合併号掲載)
J.J.Abrams|J.J.エイブラムス
レジェンド監督たちの正当な継承者
スティーヴン・スピルバーグやジョージ・ルーカスなどのレジェンド級SF映画人たちの正当な継承者といわれるJ.J.エイブラムス。監督としてもプロデューサーとしても、映画、テレビを縦横無尽に活躍の場にし、いずれも超大作&大ヒットに導いているハリウッド映画の重要人物だ。彼が打ち出したこのジャンルで功績は、『スター・ウォーズ』シリーズと『スター・トレック』シリーズというSF映画の金字塔となった2大シリーズを復活させたことにある。特に77年から始まった「スカイウォーカー・サーガ」を完結させた『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(1)を監督&脚本したことは、映画史に残る偉業。次回作はなんと『君の名は。』実写リメイクのプロデュースだ。
Denis Villeneuve|ドゥニ・ヴィルヌーヴ
現実に近いのに未知の世界を創り出す
宇宙生命体と人類のコンタクトを、サイエンス的描出だけではなく、言語学や哲学など内省的テーマに落とし込んだテッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』。ほぼ映像化は不可能といわれた作品を、見事な解釈で映像化したドゥニ・ヴィルヌーヴは、SF映画ファンに衝撃を与えた。いったいどうやって撮影したのかわからない“現実+α”の世界観と、多重構造になった物語の構築力。これが彼のテイスト。『メッセージ』(2016)で見せた技をさらに研ぎ澄まし、これまた映像化で幾度となく失敗をしてきたフランク・ハーバートのSF大河小説『デューン 砂の惑星』を見事に映画化した『DUNE/デューン 砂の惑星』は、2020年代最高のSF映画と賞賛されている。
Christopher Nolan|クリストファー・ノーラン
SFでもリアルにこだわる巨匠
コロナ禍真っただ中の2020年、劇場公開にこだわり、当時最大の興収を記録した『TENET テネット』。クリストファー・ノーランはこの作品で、現代物理学を徹底的にリサーチし、時間の逆行を映像化した。1980年代以降からあるSF映画のイメージ「あり得ない設定を楽しむもの」とは一線を画する学術的アプローチは、夢を操る『インセプション』や相対性理論と次元理論をフル活用した『インターステラー』(2014)でも見られた彼の持ち味。CGは最小限に、大がかりなセットやロケによって別世界を現実に見せるのも、リアルを追求する現代SF映画の潮流をつくり出した彼の功績といえる。一見するとどの作品も難解なものの、実はSF娯楽超大作。夢と希望を与える“SF”を次のステップに昇華した。
Shawn Levy|ショーン・レヴィ
スーパー娯楽大作のヒットメーカー
キャリア初期は俳優として、そして今はSFの話題作で必ず名前を連ねているショーン・レヴィ。彼自身が監督を手がけた近作は2つ。ゲーム世界のモブキャラに人格を与えたことで巻き起こるコメディ『フリー・ガイ』と、未来から現代に不時着した男が少年時代の自分と共に冒険を繰り広げる『アダム&アダム』(2022)だ。だが、それだけではない。彼がこのジャンルにおいて外せない人物なのは、プロデュース作品を見れば一目瞭然。『ナイト ミュージアム』シリーズ、『メッセージ』(2016)、Netflixシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(数エピソードで監督も兼任)……。まさに今のSF映画の潮流ど真ん中にある作品群にプロデューサーとして関わっているのだ。
Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara Text:Masamichi Yoshihiro