見たことない!を届ける気鋭の表現者たち。vol.1 映画監督・長久允
「これいったい何!?」と思わず見入ってしまうような“普通じゃない”を覚える作品に、いまワクワクが止まらない。
それらを生み出し、私たちの感性を刺激してやまないアーティストやクリエイターをピックアップ!
第1回は映画監督の長久允。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』12月号掲載)
「言葉」から生まれる映像作品
──作品のインスピレーションはどのように?
「街や電車の中で見かけた看板など、暮らしの中にある日常の言葉をスマホにメモしています。自分が使命感のようなものを感じた社会的なテーマをもとに、メモの中から言葉をピックアップしてストーリーを組み立てながら、音楽からのインスピレーションを足していくような感じです」
──長久監督の作品は映像の美しさが印象的ですが、インスピレーションは言葉からなんですね。
「『台詞』を作ることが好きなんです。もし『死』という哲学的な概念で作品を作るとしたら、そこにゲームのキャラクターなどのポップなものや、日常の言葉をつなげていきます。映画『WE ARE LITTLE ZOMBIES』に『絶望ダッサ』という台詞があるんですが、それも『絶望』という概念から遠く離れたところにある『ダッサ』というカジュアルな言葉を組み合わせました」
──そもそも、映画の道に進むことになったきっかけは?
「大学のフランス文学科でシュルレアリスムを勉強していたんですが、その授業で見た映画『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』に影響されたのがきっかけの一つです。シュルレアリスムは、『AにはBを合わせる』という常識があるとすると、Aに『Z』を足したり、突飛にひらがなの『あ』を合わせたり、現実にはあり得ないものを美しいと捉える芸術運動で、それが僕の考え方のベースになっています。脚本を作るときには、台詞に合わせて絵を一つ一つ組み上げるという作業をするんですが、非現実的な組み合わせになったとしても、それが美しければひるまない姿勢を持つように心がけています」
非現実的な夢の世界を映像化する
──現実にないものを作るとき、一緒に制作するスタッフにはその映像をどう説明するのでしょうか。
「ずっと同じスタッフで制作しているので、みなさんが『この人はこういうものだ』と思ってくれていると思いますけど、一応こちらも熟考してロジックを組み上げたうえで『これはこういう美しさを持っている』と、きちんと言語化して伝えるようにしています。それを共有しつつ理解してもらいながら進めているので、アーティスティックな気分に従ってディレクションするというより、ロジックを重視しています」
──では、監督の作品から観客が感じる新しさや新鮮な違和感は、監督が最初から狙ったものなんですね。
「そうかもしれません。夢の中で見るような景色のおかしさ、ガタガタした世界は意図して作ったものです。例えば『KAGUYA BY GUCCI』では、東京タワーの上に巨大な月が出ているんですが、それが現実にはあり得ない大きさでも、夢の中だったらおかしいとは思いませんよね。質感もCGを駆使すればもっとリアルになるのですが、少し馴染みが悪いほうが夢や空想の世界に近づくと思うので、映像のクオリティもあえてリッチにはしませんでした。ストーリーも、リアリティを追求した映画を作る方はたくさんいるので、僕は子どもの頃の空想や現実の揺れ、夢の世界を絵本のように形にしていくことに使命感を感じます」
──そこに社会問題を織り込んで?
「寓話が持つ影響力は意外と大きいもので、映像の質感が現実と乖離していても、根本にあるテーマが現実にアプローチしていると、社会に対して、一つのパワーとして機能することがあります。『FM999 999WOMEN’S SONGS』というドラマの総監督・脚本を担当したのですが、これは16歳の女の子が『女ってなんだ?』と疑問を持つことから始まる物語です。フェミニズムや男性の無自覚な加害性は僕のテーマの一つで、男性作家だからこそ、これからも発信していきたいと思っています」
──監督のポートレイトは、ヘアスタイルが三つ編みですよね。
「髪も長かったり三つ編みだったり、プリンセス系も単純にかわいいから好きですし、キラキラしてカワイイものをいいと感じる気持ちに、男らしさや女らしさは関係ないですよね。三つ編みのポートレイトは、そこに性別のハードルはないんじゃないかという意思表示でもあります」
──もう一つのインスピレーション源である音楽面にフォーカスすると、「KAGUYA BY GUCCI」では渋谷慶一郎さんが音楽を担当していました
「この作品は『竹取物語』を現代版として再構築したものです。登場人物は現代人として自由意思があり、決められたストーリーを覆してもいいのであるということをテーマに織り込んでいました。渋谷さんは『オルタ4』というアンドロイドを使ったコンセプチュアルな音楽を作っているので、ロボットも感情を持ち、自己の意思があると表現できるのではないかと、今回お願いしました。『WE ARE LITTLE ZOMBIES』では、NYが拠点のチップチューンのバンドLOVE SPREADに一緒に作ってもらいました。音楽は普段からテクノでもジャズでも幅広く聴いていて、作品の伝えたいメッセージやテーマにフィットしている人たちに制作してもらっています」
教室の隅にいる一人のために
──これから一緒に映画を作りたいミュージシャンは?
「今、春ねむりさんと短編を制作しているので、もう少ししたら正式な発表があるかもしれません。機会があれば、LAUSBUBや和田永さんともご一緒したいですね」
──長久作品といえば色彩が豊か。影響を受けた人は?
「70、80年代の日本映画に見られる黒の締まり方が好きです。大林宣彦監督、日本アート・シアター・ギルド(ATG)の作品には色彩で影響を受けたかもしれません」
──他に好きな映画監督は?
「大島渚さん、新藤兼人さん、ジャン=リュック・ゴダール、アレハンドロ・ホドロフスキー、ミヒャエル・ハネケも好きです」
──どのような作品をこれから手がけていきたいですか。
「日本の会社に所属しているのですが、海外のマネージメントとも契約しているので、海外拠点のプロジェクトがいくつか進行しています。僕の作品はクラスの中心にいるマジョリティの子たちより、教室の隅っこにいる一人に向けて作っているので、海外を拠点にすることで世界中にいる『教室の隅の子』に届けられたらと思っています」
Interview & Text:Miho Matsuda Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara