Culture / Feature
自分のためにセックスを楽しむ権利を
現在の資本主義は、育児や介護を含むケア労働を無償で担う多くの女性にとって不利であり、経済的・社会的な自立が困難な女性たちの身体も関心も愛情さえも売買の対象になっていると著者は指摘。旧東側の女性は西側と比べセックスの満足度が高かったという声を踏まえながら、過去に戻るのではなく、過去に学び、資本主義と社会主義のよいところを取り合ってみては?と提案する。よりのびやかに安心して生きられる社会を探す手がかりに。(野村)
二人の愛を温かく支える、人々とのつながり
舞台はイギリスの男子校。過去にゲイであることをカミングアウトしたチャーリーと、自分はストレートだと思っていたニックが互いに惹かれ合う。同性同士の恋愛の「困難」だけではなく、一緒にいる喜び、不安、相手のためにできることを考える二人の煌めくような感情に満ちている。作者自身が彼らの味方となって寄り添う描写に幸福感が広がる。そして読み手も、二人の愛には周囲とのつながりが欠かせないことに気づいていく。(野村)
性について自分の言葉で話し始めるために
性と身体、性暴力、結婚、中絶、セックスワーク、インターセクショナリティ、スポーツとセクシズムなど多様なトピックを扱いながら、「性」の周りに複雑に絡まる問題を一つひとつひも解き、自分の言葉で話し始めるためのヒントをくれる一冊。女性たちの生の可能性を広げるためにフェミニズムは何を考えてきたのか、その歴史や意義を知っていく過程で、自分だけの問題だと思っていたことも社会構造が関係していることに気づかされる。(竹中)
恋や創作で性加害をなかったことにはできない
「〜だから仕方ない」という言葉をよく聞く。「恋」だったから、創作だから、そのときに言わなかったから。それで性加害という事実がなかったことにできるはずがないのに。作品の主人公は40歳の主婦・茜。中学時代に通っていた塾の講師が発表したヌードの少女像がかつての親友・紫とそっくりの姿だったことから物語が動き始める。自分の間違いと向き合った茜の「私はもう逃げないと決めた」という言葉が印象的で、続きが気になる。(竹中)
“前途有望”なはずだった彼女の復讐エンタメ
「私も彼女も“前途有望”なはずだった」。キャリー・マリガン演じる主人公は、夜な夜なバーやクラブへ出歩き、立てないぐらいに酔っぱらったフリをする。“酔っぱらった女には何をしても許される”と考える男たちに、彼女がとる行動とは? その理由とは? この映画に悪人は出てこず、登場人物たちはセックスに関してやや無責任な態度を取る文化の一部にすぎないとエメラルド・フェネル監督は語る。あなたはどう?と突きつけられる。(野村)
U-NEXTで配信中
漫画、映画やドラマをきっかけに。さまざまな恋や性の在り方を知る
性にまつわることを等身大の温度感で語り合う音声番組『わたしたちのスリープオーバー』を配信しているme and youの竹中万季と野村由芽が、恋や性の多様なあり方を知るきっかけになる最新の本や漫画、映画やドラマを教えてくれた。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』9月号掲載)
【目次】
1. 『あなたのセックスが楽しくないのは 資本主義のせいかもしれない』
2. 『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
3. 『フェミニズムってなんですか?』
4. 『恋じゃねえから』
5. 『プロミシング・ヤング・ウーマン』
6. 『恋せぬふたり』
私が注目したいのは、女性の方が圧倒的に資本主義のしわ寄せを受けやすいという事実です
1. 『あなたのセックスが楽しくないのは 資本主義のせいかもしれない』
クリステン・R・ゴドシー/著 高橋璃子/訳(河出書房新社)
自分のためにセックスを楽しむ権利を
現在の資本主義は、育児や介護を含むケア労働を無償で担う多くの女性にとって不利であり、経済的・社会的な自立が困難な女性たちの身体も関心も愛情さえも売買の対象になっていると著者は指摘。旧東側の女性は西側と比べセックスの満足度が高かったという声を踏まえながら、過去に戻るのではなく、過去に学び、資本主義と社会主義のよいところを取り合ってみては?と提案する。よりのびやかに安心して生きられる社会を探す手がかりに。(野村)
2. 『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
©︎ Alice Oseman 第4巻 アリス・オズマン/著 牧野琴子/訳(トゥーヴァージンズ)
二人の愛を温かく支える、人々とのつながり
舞台はイギリスの男子校。過去にゲイであることをカミングアウトしたチャーリーと、自分はストレートだと思っていたニックが互いに惹かれ合う。同性同士の恋愛の「困難」だけではなく、一緒にいる喜び、不安、相手のためにできることを考える二人の煌めくような感情に満ちている。作者自身が彼らの味方となって寄り添う描写に幸福感が広がる。そして読み手も、二人の愛には周囲とのつながりが欠かせないことに気づいていく。(野村)
私たちの身体とセクシュアリティを私たちの手に取り戻したままにしておくために
3. 『フェミニズムってなんですか?』
清水晶子/著(文春新書)
性について自分の言葉で話し始めるために
性と身体、性暴力、結婚、中絶、セックスワーク、インターセクショナリティ、スポーツとセクシズムなど多様なトピックを扱いながら、「性」の周りに複雑に絡まる問題を一つひとつひも解き、自分の言葉で話し始めるためのヒントをくれる一冊。女性たちの生の可能性を広げるためにフェミニズムは何を考えてきたのか、その歴史や意義を知っていく過程で、自分だけの問題だと思っていたことも社会構造が関係していることに気づかされる。(竹中)
4. 『恋じゃねえから』
©Peco Watanabe/講談社 第1巻 渡辺ペコ/著(講談社)モーニング・ツーで連載中
恋や創作で性加害をなかったことにはできない
「〜だから仕方ない」という言葉をよく聞く。「恋」だったから、創作だから、そのときに言わなかったから。それで性加害という事実がなかったことにできるはずがないのに。作品の主人公は40歳の主婦・茜。中学時代に通っていた塾の講師が発表したヌードの少女像がかつての親友・紫とそっくりの姿だったことから物語が動き始める。自分の間違いと向き合った茜の「私はもう逃げないと決めた」という言葉が印象的で、続きが気になる。(竹中)
5. 『プロミシング・ヤング・ウーマン』
©2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
“前途有望”なはずだった彼女の復讐エンタメ
「私も彼女も“前途有望”なはずだった」。キャリー・マリガン演じる主人公は、夜な夜なバーやクラブへ出歩き、立てないぐらいに酔っぱらったフリをする。“酔っぱらった女には何をしても許される”と考える男たちに、彼女がとる行動とは? その理由とは? この映画に悪人は出てこず、登場人物たちはセックスに関してやや無責任な態度を取る文化の一部にすぎないとエメラルド・フェネル監督は語る。あなたはどう?と突きつけられる。(野村)
U-NEXTで配信中
Text:Maki Takenaka, Yume Nomura
Profile
me and youミーアンドユー
編集者・プロデューサーの竹中万季(右)と編集者・ライターの野村由芽(左)が立ち上げた会社。「わたし」と「あなた」という小さな主語を大切にしながら、個人的な思いや感情を尊重し、社会の構造まで考えていくコミュニティメディア「me and you little magazine&club」を運営するほか、セックスやジェンダー、恋愛など、性にまつわることを語り合うラジオ&ポッドキャスト番組『わたしたちのスリープオーバー』(J-WAVE・SPINEAR)のナビゲーターを務める。