ゴスが台頭するガールズミュージック界のいま
ガールズカルチャーを追いかけ、仕掛け、応援してきた稀代の編集者、米原康正。彼が感じ取る時代のムード“ゴス”は、最先端の音楽シーンにも現れている。象徴的なアーティストとともにその潮流を読み解く。(『Numero TOKYO(ヌメロ・トウキョウ)』2022年3月号掲載)
5、6年前ぐらいからYouTubeを見ていると、アイドルを含めてタトゥーを入れてたり、一般的な枠から外れたパンクを感じさせる子が多いなと思い始めて、そういう頭の中がアウトサイダーの子を“ゴス”と位置付けることにした。
2019年ってすごく当たり年で、いろんなアーティストがYouTubeへのMV公開で注目を浴びたんだけど、いち押しのジャスミン・ビーン(Instagram: @jazminbean)もその一人。「Worldwide Torture」のMVを見た瞬間、「全て本人が構成してるんだろうな」と思う手作り感がすごくあったのと、周りを気にしてなさ加減に衝撃を受けた。
19年はジァニ(Instagram: @zheani)の「Lie and Look」とユール(Instagram: @yeule)の「Pretty Bones」も公開されて、どれも音だけじゃなくて視覚的な部分もすごく優れてる。「Pretty Bones」のMVは完全にハイブランド。ジャスミンもユールも日本のアニメを自分なりに解釈して曲にしてるんだけど、アシュニコ(Instagram: @ashnikko)は特にそう。「STUPID feat. Yung Baby Tate」のMVは6700万回以上(22年1月現在)も再生されてる。
(左から)Zheani(ジァニ)、Yeule(ユール)、Ashnikko(アシュニコ)
(左から)Lil Cherry(リル・チェリー)、Lolo Zouai(ロロ・ズーアイ)、Little Simz(リトル・シムズ)
K-POPじゃない韓国の音楽を深掘りして見つけたのがリル・チェリー(Instagram: @lilcherryontop)。彼女も日本のアニメの影響を受けてるのがわかる。こういうことを日本のアーティストがやらなきゃいけないんじゃないかな。リトル・シムズ(Instagram: @littlesimz)もロロ・ズーアイ(Instagram: @lolozouai)もファッション業界から注目されているけど、自らのファッションを作り出していて、本人たちの在り方は完全にストリートだよね。
(左から)甲田まひる、ELAIZA(エライザ)
日本だと甲田まひる(Instagram: @mahirucoda)やELAIZA(Instagram: @elaiza_ikd)が最近出してる曲は音的にもすごくちゃんとしてる。戦慄かなの(Instagram: @fabkanano)の「Baby UFO」のMVもプロットがしっかりしてるし、手足が長いからダンスも映える。四つ打ちっぽいことすると韓国に持っていかれるイメージがあるけど、日本ならではのバウンスをうまく取り入れてるのがさすがケンモチ(ヒデフミ)君のプロデュースだよね。ano(Instagram: @a_n_o2mass)は音楽性が完璧。いま挙げた日本勢は全て本人の色がMVや作品全体に見える。音自体にメジャー感もあるのに、それがテレビで流れてないような今の日本のメディアの状況はだめだと思うな。
(左から)戦慄かなの、ano(あの)
それで音楽レーベルを始めたんだけど、21年の12月に配信した初めてのコンピ『DEATHTOPIA』に参加してもらったアーティストもすごく面白くて。ぱちぱちコズミックコンピューター!(Instagram: @pachicos_computer)は21年の頭に「こんなコズミックは嫌だ」のMVを見たんだけど、ベース音がガンガン入ってきて、ここに男性の声が乗っかると強めの音になるんだけど、メイド服を着た女の子がダークな内容をソフトにラップする。「すごいのが出てきたな」と。
PiNKII(Instagram: @itspinkii)はYouTuberのナタリアなっちゃんとして有名なんだけど、日本のギャルをちゃんと解釈して取り入れてる。あと、曲のトラップのデザインがすごくはっきりしてる。『DEATHTOPIA』の裏テーマにはベースラインがはっきりしてる曲っていうのがあるんだよね。
アンダーグラウンドシーンを追っていくうちに何度も名前が出てきたのがなかむらみなみ(Instagram: @namcooooo)。19年に出た「Ride」っていう曲が圧倒的に良い。みなみと仲良しのYoyou(Instagram: @yoyounrn)は、ギャルを取り上げた僕の雑誌のファンらしくて、会ったときに今のギャルの話をたくさんしてくれた。もともとギャルってアウトサイダーでありながら自分たちの価値観をつくることができた人たちだからそこはつながるよね。
(左から)なかむらみなみ、Yoyuu
Dr.Anonは嚩HAKU(Instagram: @lunati9__)とp°niKa(Instagram: @killwithcuteness)とe5(Instagram: @e5withu)という3人組クルー。4年前くらいにp°niKaが17歳で別のユニットをやってたときに初めて取材したんだけど、3000円握りしめて北海道から家出してきた直後で(笑)、ヒッピーみたいな生き方をしてるなって。Dr.AnonはBPMの速いハイパーポップにゆっくりなヴォーカルとラップが乗ってて面白いし、リリックもすごく今どき。
Neon Nonthana(Instagram: @neon_nonthana)はこの中ではヒップホップ寄りで“普通”の子。他の子はそんなにヒップホップしてないから、コンピにこういうアプローチの曲を入れたら締まるかなと。言ったら今はアニメの曲も普通にラップが入ってるからね。ラップっていうくくりはあるけど音はなんでもいい。あと、みんなラップがうまくて、実はリリックではかなり熱いことを書いてるのが青春感があっていいよね。
メジャーになるっていうことは要するに時代の代表選手だから、ちゃんとストリートで活躍してる子たちがメジャーにならなきゃいけないんだけど、今の日本は全くそうなってない。だからこのあたりの子たちが同調して、70年代のパンクみたいに一つのシーンとして広がると面白いなと思ってる。
でも、いま流行ってるトラップはともすればどれも曲が同じになって伝統芸能になってしまうから、そこはどうにか変えていかないといけないよね。大多数っていうのはそのときの比重の重いほうに流れていくから、ギャルが流行るとギャルに流れていくし、今はちょっと病んでる文化系的なものが流行ってるから大多数がそっちに流れてる気がする。多数になると劣化も始まるので、“それ風”の人はちゃんと避けて少数派の本物の人たちを探す作業をしてあげないといけない。コンピのタイトルを『DEATHTOPIA』にしたのは、今の世界は若い子たちからしたらすごく住みにくいと思うんだけど、そこを肯定的に捉えて、「この世界ではもう生きられません」という時代のムードを伝えたかったんだ。
米原康正が主宰する「+DA.YO.NE.」は2021年12月に音楽レーベルも始動。ガールズカルチャーの最前線を追い続ける米原がいま最も注目するフィメールラッパーを集めた1stコンピレーションEP『DEATHTOPIA』をリリースした。今の時代のムードである“ゴス”を体現する一枚となっている。ジャケットアートを手がけたのはEri Wakiyama。
Interview & Text:Kaori Komatsu Edit:Sayaka Ito, Mariko Kimbara, Shiori Kajiyama